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第36話


「なんだ、見捨てられたのか?」


 嘲笑を受けべ、挑発する王国騎士はジリジリと距離を詰め、サトルへと襲いかかる。マリーの行動に動揺を見てとって、好機だと踏んだのだろう。


 王国騎士は駆けると同時に突きの体勢。狙いは……面積の広い胴。


 見える。

 奴の狙いも、襲いかかる切っ先も。まるでスローモーションになったかのように。


 サトルは無意識の中で体を半身にし、鋭く迫る剣の腹を叩いた。切っ先は学生服をかすめ、ボタンを抉り取ったが、サトルの身体には届かない。


 無駄のない洗練された動き。まるで何百、何千回と繰り返したような体が覚えている動き。


 相手の顔が見える。

 驚愕、焦燥、疑問。


 体勢が崩れ、死に体となった王国騎士。後はそこにこちらの剣の切っ先を置いておくだけ。これ以上の動きは必要ない。それ以上の力も必要ない。


 ただ待っているだけで、サトルの剣はさらけ出された王国騎士の首に突き刺さるだろう。ここでの対決に、殺し合いに勝利するだろう。


 それはつまり、相手を殺すということだ。


 サトルは剣を引いた、確固たる自分の意志で、剣を引いた。

 

 殺したくない。


 命のやり取りの場で、サトルは恐れたのだ。相手の命を奪う事を――

 この騎士にも家族がいるだろう。友人がいるだろう。悲しむ者達がいるだろう。そんな慈悲の心からの行動ではない。


 単純に、サトル自身に人を殺す勇気がなかったのだ。相手の命を背負い、苛まれることを拒んだのだ。


 死とは無縁の世界で暮らし、殺人なんぞフィクションの中か、ニュースで流れるまるで別世界の出来事だと思っていた。


 もしも凶悪な殺人犯が目の前に現れたのなら、自分なら躊躇なくヤレるなんて息巻いた妄想をする時期もあった。


 だが、いざ目の前にその場面がやってきたとき、サトルがとった行動は拒絶だったのだ。


「――臆病者め!」


 王国騎士の目がカッと開かれ。怒気と殺気を含んだ目がサトルを捉える。突きからの薙ぎ払い、防御は間に合わない。ただの衣服でしかないサトルでは防ぎようがなく致命傷を負うだろう。


 人を殺すと言う行為に躊躇した結果、自分が死ぬ。

 それが、この世界の理。


 死にたく……ない! 

 サトルは激しく後悔した。


 もう間に合わないと分かっていながら、直面した死から逃れようともがこうとする。

 勝利を確信し、怒りと喜びが同居する王国騎士の歪んだ顏。


 その首元に何かが突き刺さった。



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