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第29話 


「俺にはそう言った類の知識はないが、賢明な判断だと思う」


 最早、勝ち戦。

 そうであるのならば無駄な被害を避け、一度退くことは何も間違いではないように思う。


 それに相手からすれば悪あがきにも近い作戦だ。こちらが冷静になって警戒を強めて進軍すれば最早どうすることもできないだろう。


「皆がそう思ったわ。実際に部隊は犠牲者を出さず、数名の怪我人だけで帰還できたもの……あの混乱の中、冷静に部隊をまとめあげて撤退を指示した父を、作戦に参加していた騎士皆が褒め称えたわ」


 相手の決死の特攻作戦。

 相手からすれば無念の極みであろうが、メロベキア王国からすれば、後世に語り継がれてもいい程の撤退戦かもしれない。


「けど、ただ一人だけがそれに納得しない奴がいたわ」


 素人同然のサトルでも素晴らしい采配だと感じるのにも関わらず、ただ一人意を唱える者……信じがたいことではあるが、話の流れからは察するに間違いないだろう。


「国王か……」

「ええ。自分が指示した作戦が失敗したことに奴は怒りを露わにした。戦争終結後……すでに判決が決まっている裁判に父は呼び出され、死刑を宣告されたのよ。そしてハルツェンブッシュ家はこの没落村送りにされた……」


 まるで他人事のようにそう語った彼女の視線は、サトルを見ていながらこちら側を見ていなかった。


 ここまで身勝手で理不尽な話があるであろうか。国王に少し泥が掛かった。それだけで今まで国に尽くしてきた騎士団長を死刑にする。


 国王の横暴に振り回された当人として、サトルはまるで他人事とは思えなかった。


「ひどい話だ……」


 サトルはマリーにかけるべき言葉を何も持ち合わせていなかった。彼女にとって慰めも同情も今は必要のないものなのだと感じる。


 彼女の過去を聞いたことをサトルはより一層後悔した。


「ごめんね。なんだか暗い雰囲気になって」

「いや、軽々しく聞いた俺も悪かったよ……話してくれてありがとう」


 少し明るめの声で空気を明るく戻そうとしたマリーに、気の利いた言葉も浮かばぬままにただそう言うしかなかった。


「いいのよ。さっき助けてくれたしね。まぁでも、この村の中には元騎士だった人もいるから、その場合はサトルじゃどうにもならないかもね。あんなに震えてたし」


 サトルは自分の顔が熱くなるのを感じる。震えていたのは確かではあるし、怖かったのも本当の話だ。


 そんなことは暗闇が隠してくれていると思い込んでいたが、あんな状況でもマリーはこちらの事をよく見ていたようであった。



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