第22話
川の本流に躍り出ると船は徐々に加速していく。正しくは川の流れに乗っただけなのだが……
自分達が出てきた水路の入り口を振り返るサトル。そこには巨大な二十メートルはあろう城壁が聳え立っていて、メロベキアと言う国が如何に偉大かを物語っていた。
「くっ!」
そんな感慨に耽る間もなく、船が大きく揺れる。水の流れる音とボロ船が軋む音が不協和音のように心を乱す。
「ほら! しっかり掴まってなさい!」
言われなくても掴まってる! そう言おうとした矢先にまた船が大きく揺れ、呻き声だけが漏れた。
ライフジャケットと訓練をしっかり積んだインストラクターがいれば、楽しい急流下りなのだが……残念ながらこれは生きるか死ぬかの瀬戸際である。
それに加えて視界不良の暗がりだ。恐怖だけは湯水のように湧いて出る。
必死になってボロ船にしがみつくサトル。台風の影響で増水し、荒れ狂う川は映像越しに何度も見たことはあるが、今は自分がその渦中にある。
「嘘……⁉」
やけに通るニーアの声でサトルは彼女の視線の先を見た。
ぼんやりと明かりが見える。
朝日だろうか……いや違う。
それは灯りである。
川岸に幾つもの光源が揺れ動いている。
「そんな……まさか……」
ニーアの言葉にだんだんと生気が抜け、絶望に書き換えられていくのを感じる。船から落ちないことに必死になり、前方をまともに見ることも叶わないが、そんなサトルでもあの灯りの正体はわかる。
わかってしまった。
ドォォォン‼
絶望に染まるよりも早く、黒い厄災が放たれた。
今のは大砲だろうか。そうでなくとも、それに準ずる何かに違いない。それはさらなる水音を立ててボロ船の近くに勢いよく着水した。
直撃は免れた……しかし、ろくな整備もされず、放置された船にはそれでも致命的であることに変わりなかった。
「くっそぉぉぉぉ!」
理不尽に異世界に呼び出され、理不尽に閉じ込められ、理不尽にこんな状況に追われている。
こんな不条理に叫びを上げたサトルの声は川の音に呑まれて消えた。
第一章 異世界召喚⁉ 完




