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第20話


 思い返せばおかしいことばかりである。


 始めはあまりにもの理不尽さに憤慨していたと言うのに、そんな感情はすぐに霧散してしまっていた。


 初めてお目に掛かる王に敬意を払わねばと考え、元いた世界の知識は曖昧になり、郷愁すら覚えることは無かった。この世界に召喚されたことを良い方向へと考えようと思考が働いていた。


 そして模擬戦の後、国のあのような行いに怒りも抵抗の意思も示さず、大人しく牢に入れられた。


「まぁ貴方が寝ている間に私が干渉したのもあるけどね。これ以上はここを無事に出てからにしましょう」

「あ、ああ……」


 聞きたいことは山ほどある。しかし今はそれどころではない。

 

 洗脳……そんなことをされていたなら、今のサトルは本当の仲城覚なのか。メロベキアによって都合よく作り替えられた勇者サトルなのか。


 自分が自分でないかもしれない可能性、他人によって作られた自己の疑心暗鬼。


「うっ!」


 先程飲み込んだパンを、先程まで感じていた安らぎごと吐き出そうと臓腑が動き出す。


「ダメ」


 サトルの口をメレニアが抑え込み嘔吐を止める。


「これから少し長い道のりになるの。今は我慢して。それにこんな所に必要以上の痕跡を残したくないの。わかるわよね?」


 サトルは小さく数回頭を振って了解の意思を示し、胃へと押し返した。


「良く出来ました。ご褒美にこれを飲んでもいいわよ」


 メレニアは子供をあやすような口調でそう言うと水筒をサトルに手渡した。消化途中のパンや胃液で不快極まりない口内を綺麗にし、嘔吐感で零れ出た涙を乱暴に拭って立ち上がる。


「今は敵か味方かもわからない。だけど……ありがとうメレニア」

「ニーア・バーレ。私の本当の名前。ニーアでいいわ。少なくても無事にここを出るまでは味方のつもりよ」

「ああ、ありがとう。よろしく頼むよニーア」


 サトルは座り込んだニーアに手を差し伸べ、彼女はその手を取って立ち上がった。そして、二人そろって暗闇の水路の先を見据えた。


「そう言えばこれを返しておくわ。結局私には何なのかわからなかったし」


 ニーアの手に乗せられていたのはサトルが一番よく知るものだった。


「お、俺のスマホ! いつの間に……」

「あら、私って手癖が悪いの。でもちゃんと返って来たんだからそれでいいでしょう?」


 彼女の口調は有無を言わせないものだった。


 確かに最終的にはサトルの手元に戻って来たわけであり、半ばあきらめていたのだからそう目くじらを立てる事でもない。


 それに加え、キャリアの電波なんて飛んでいようはずもないこの世界では、無用の長物だ。

 ただ、それでもサトルは使い慣れたスマホを握って、心の奥底で安堵を覚えた。


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