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4 キリアン

 ディアナとの婚約が決まった時は嬉しかった。

 でも兄貴たちにからかわれて素直にそうだと言葉にできなかった。

 ディアナはいつも真っ直ぐに愛情を向けてくるから照れるんだ。


 俺は断じてあの口達者なエリサ姉さんなんか好きじゃない。

 ポワ~としてて素直で可愛いディアナの方が良いに決まってる。


 学園にディアナが入ってからは友人たちに羨ましがられた。


 ヘンな目でディアナを見られたくなくて近づかないようディアナに告げた。

 腕を組むだけで体が熱くなってモヤモヤするからディアナに触れないよう頼んだ。


 そう全部説明すれば良かったのか?

 何も言わなくてもディアナは愛情を示してくれて、俺はそれで満足だった。


 俺は馬鹿なのか?


 あの日ディアナがあの茶番を聞いているなんて思いもしなかった。

 まだ婚約者がいない友人たちは毎日のように俺たちに絡んで鬱陶しかった。

 卒業も近づいて先行きに不安もあったんだろうけど、不満をぶつけられてうんざりだった。


 トーマスが「いい考えがある。俺らもそんなに幸せじゃないって思わせるんだ」と面白そうに言った。

「どうするんだ?」

「お前は頷くだけでいい。俺が上手くやるからさー」


 昼の休息時間にいつもの場所でまたアイツらの愚痴を聞いているとトーマスが言ったんだ。


「でもさー()()()()嬢ってリアンには勿体ないよなー」


 突然大声で茶番を始めた。


「そうだよ、オレだったらもっと大事にするぞ!」とディアナに絶対惚れているベックが俺を睨んだ。


「でもさー 俺らはお金で売られたんだよ」


(何てこと言い出すんだ)と思ったがトーマスに目配せされて思わず「まぁな」と言ってしまった。


 あとはずるずると「まぁな」と言い続けた。心のどこかにコンプレックスもあったんだ。ディアナに結婚してもらえなければ俺なんか取り柄が何もないんだから。


 馬鹿だった、それなら尚更ディアナを大切にするべきだった。

 友人たちに気を遣わずに「羨ましいだろう!」って自慢してやれば良かった。



 あの後ディアナの様子が急変した。帰りの挨拶が無かった。

 翌日の朝は冷たい態度で、昼にはなぜか俺と別れるなんて噂が出ていた。


 教室まで会いに行っても姿は無かった。

 授業のチャイムが鳴って教師に戻るよう言われて戻りかけたが気になってディアナの教室を覗くとディアナは座っていた。俺は避けられている。


 遅刻を叱られて、授業が終わり早くディアナに会いたいのに教師に呼び止められ、また遅刻の叱責を受けている間にディアナは帰ってしまっていた。


 俺は放課後の補習をさぼってディアナの屋敷に向かった。

 いつもはサロンに案内されるのにエントランスで待たされ、使用人達の冷たい雰囲気に俺は戸惑った。


 ディアナに会いたいと告げるとエルサ姉さんが現れて俺は完膚なきまで叩きのめされた。

 夫人にも「お金で買った覚えはない」と言われて俺は取り返しのつかない事をしたと自覚した。


 翌日もう一度ディアナと話をしようと思ったが学園を休んでいた。


 落ち込む俺にトーマスが「なんか婚約解消とか言われてるじゃん」と笑いながら言った。

 ベックが「俺が貰って大切にするよ」と二人はゲラゲラ笑った。


「ディアナがお前なんか相手にするかよ」とベックに言うとムッとした顔で「少なくともお前よりは大事にするね」と返してきた。


「愛されてるからってスカしてんじゃねーよ」

 歪んだ顔を近づけて、トーマスが俺の額を指で突いた。


 そこからはメチャクチャだった。椅子も机もひっくり返して俺はトーマスを何度も殴りつけた。だが気づけば形勢逆転で俺はマウントを取られて殴られていた。


「くっそ! お前、知ってたんだろう! ディアナが傍にいたのを!」


「ああ、知ってたさ! ばーかめ」


 止めに入ったベックにも「ウゼーんだよぉ!」とトーマスは振り払い、その隙に俺は手に噛みついて突き飛ばし股間を蹴り上げてやった。誰かに羽交い絞めされてそれが教師だと分からず頭突きをして蹴り倒した。

 再びトーマスと殴り合っていたが駆けつけた教師達や周りにいた生徒達にも押さえつけられて拘束された。


 病院に運び込まれて手当てを受けて、事情を聴かれ黙っていると停学処分となった。


 喧嘩を始めたのは俺からだったが『自分も悪かった。お互いにちょっとすれ違いがあっただけだ』などとトーマスも申し出て同じ処分になった。

 アイツは俺を庇ったんじゃない、自分の婚約者に茶番を知られたくないだけだ。


 トーマスとは1年の時からの友人だと思っていたが、嫌われているなんて思いもしなかった。それだけ他人の目から見ても、俺のディアナへの態度は悪すぎたんだ。


 もう婚約の解消は決定だなと思うと涙がこぼれた。

 ディアナごめん。俺は本当に君が好きだったんだ。


読んで頂いて有難うございました。

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