1 傷心
昼食が済んだ私は婚約者のキリアン様を探していた。焼いたクッキーを食べてもらいたくて学園の中をウロウロしていたら広場の木陰に腰を下ろし、お友達と談笑しているキリアン様発見!
今日も素敵なキリアン様、ハニーゴールドのサラサラな髪が光っているわ。青い目でじっと見つめられたら気絶しそう。小さな頃から見知ったお顔だけど尊いわ。
親友のトーマス様と他はよく一緒にいる方々となんだか楽しそう。
私と一緒の時はあんな風に笑ってくれないのよね。
『友人と一緒の時は話しかけないで欲しい』って言われてるから引き返そう。
踵を返した時に「ディアナ嬢・・・」と誰かが私の名前を出したので気になってこっそり近づいてみた。
「でもさー 俺らはお金で売られたんだよ」
物騒な事を言ったのは、いつもお口が悪いトーマス様。
「だよなー リアン」
「まぁな」
リアンってキリアン様のニックネーム。売られたってどういう事なの?
「政略結婚だからなー、俺らは反対に婚約者がいない自由なお前らが羨ましいよ」
「は? 次男三男なんて家を出たら平民扱いだぞ、どこが羨ましいんだよ!」
「騎士でも文官にでもなって自由恋愛できるじゃん。王宮に勤めれば可愛いご令嬢を選び放題じゃねーか」
トーマス様って確か3歳年上のご令嬢と婚約中だったわ。キリアン様と同じで婿入りするのよね。
「だよなー リアン」
「まぁな」
「何言ってるんだ! ディアナ嬢は可愛いじゃないか!」
お友達のこのフォローはちょっぴり嬉しいな。でもキリアン様に言って欲しいわ。
お友達が皆口々にトーマス様と話しているけど無口なキリアン様は『まぁな』といつも通りね。
でもそんな風に考えていたなんて・・・ショック。
「可愛いけどさー 姉上のエリサ嬢に比べたら平凡でしょ、な、リアン」
「う、ま、まぁな」
ガ────────────ン!!!
やはりキリアン様はまだお姉様が好きなのね。
後継ぎだったお姉様は学園で大恋愛をして卒業してすぐお嫁に行ったのよ。
それで私がゼーゼル伯爵家を継ぐことになったの。
「ディアナ嬢がどーしてもって言うから仕方なく婚約したんだリアンは。ま、俺もだけどさ」
「ひでぇ!お前らなんか婚約破棄されろ!」
「だからー政略結婚だってば、破棄される訳ないじゃん?な、リアン」
「ん、まぁな・・・」
「お前ら最低だな、もういい!聞きたくない!」
「じゃぁ初めっから聞くんじゃねーよ。今後一切聞くな、うぜー」
私も聞きたくなかったわ。いつもあんな話をしているのかしら最低!
仕方なく婚約を承知してくれたのね。でも友人達の前で言わなくても。
まだ話は続いていたけど、その場をそっと離れて私は2年生の校舎に戻った。
午後の授業は全然頭に入らなかった。悲しいのに涙も出ない。
婚姻の支度金と確かに事業提携でうちがお金を出すとか父が言ってたけど、それを売られたなんて。
自由恋愛をしたかったのね。私が好きになっちゃったのが迷惑だったのね。
授業が終わっていつもなら3年生の校舎までキリアン様に挨拶に行くのだけど、今日はお顔を見られないわ。
絶対泣いてしまう。
馬車が家に到着すると気が抜けて途端に涙が溢れてきた。
盗み聞きなんかしなければよかった。
「お帰りなさいませ。お嬢様・・・どうされたのですか?」
「ミリー 私・・・嫌われてたの・・・うぇ────ん」
「え、お、お、奥様~~」
部屋で泣いていると母が来て話を聞いてくれた。
「まぁ、キリアンはそんなことを言ったの」
「うん、言ったのはお友達だけど、キリアン様は頷いてたわ」
「お父様が領地から戻ったらきちんとお話をつけて貰いましょう」
「お話って?」
「婚約解消よ。ディアナならもっと素敵な人が現れるわ」
「解消なんて・・・そんな」
「一方通行なんて辛いだけよ。早い方が良いわね、任せなさい」
そうね、お母様の言うとおりだわ、いつも私が追いかけてばかり。
キリアン様は立ち止まっただけで、振り向いてはくれなかったんだわ。
小さい頃『一番好きな子はだーれ?』って聞いたら『うーん、エリサ姉さんかな』ってキリアン様は横向いて答えたのよね。
『わたしは?』
『うーん わかんないな』って曖昧に誤魔化されたわ。
それでも私の婚約の話が出て『キリアン様がいい!』って父に頼んだのよ。
だって世界で一番キリアン様が大好きだったんだもの。
読んで頂いて有難うございました。