ドラムロールのビートにのって、オレは缶コーヒーの中で営業スキルを武器に戦う 005
「そういえば名前は?」
自転車のペダルを必死に漕ぎながら、オレは後ろの荷台に座る女の子に尋ねた。
女の子は悪路で身体が浮き上がるのを必死に耐えていた。
それをオレは、腰の辺りをつかむ、女の子の手の、力の入り具合で判断した。
「今、言わなきゃいけない。それ」
「できれば。万一君を自転車から落っことしてしまってはぐれた時、人に行方を尋ねるのに名前を知っている方が探す手間が省けるだろう?」
女の子は名乗るべきか迷っているようだった。
しかし、道のくぼみに連続して自転車のタイヤがとられると、本当に落ちることがあるかもしれないと観念したようだった。
「サ・・・ラ」
「え?」
「莎等よ」
「オレは阿蘭。よろしく莎等」
「その名前、どうこで入手したの?」
「ポケットに入っていた名刺入れを確認した」
「じゃあ、正規の利用者名ってこと?」
「え?」
利用者名という呼び方が、やはり莎等がこの世界への練度が高いことがはかれた。
「・・・簡単に他人に利用者名を教えちゃダメよ」
「なんで?」
「名前を検索できるスキル持ちがいるリスクがあるでしょう?」
「へえ、そんなスキルがあるなら仲間と集まるのがラクそうだ」
「例えばよ」
「それなら君の莎等という名前は偽名ってこと?」
「どうかしらね。想像にお任せするわ。それにしても・・・、なんというか、あなた、無防備ね」
「そうなんだよ。元の世界の顧客からもよく言われるよ。『君はわかりやすいねえ。営業マンなのに』なんて」
「今、元の世界の職業を口にした?」
「ああ」
莎等は大きなため息をついた様子だった。
自転車を漕ぐ妨げになるため後ろを振り返るわけにもいかず、オレはそれを気配だけでなんとなく感じ取ることしかできなかった。