手紙配達人ニコの困惑4
ニコといる時のカズサの口調が、他の人に対してよりも少しだけ優しいと気づきました。
今日はもう疲れたから、この村で一泊することにした。宿を取ってから、出店をぶらぶら見て歩く。
「夕飯は出来たら、カズサの飯が食いたいからな~」
「調味料系が心許ねぇから、補充したい。あとこの辺りは、キノコ類が新鮮で美味そうだわ」
「じゃあ、あれ食いたい。キノコだらけの鳥なんちゃら」
「キノコだらけの鶏肉ショウガ焼きな。いいぞ。パンも買っておくか?」
必要なものを2人で相談しながら買っていく。カズサと一緒にいるのは正直、気楽だし楽しいわ。ただな・・・
「どうせなら俺は、可愛い嫁さんと!ぶらぶら買い物デートがしたいわけよ!」
俺の心の声が駄々洩れちゃった。カズサが「ああ?」と方眉を上げて笑っている。
「ニコは仕事でいろんな場所に行くんだろ?出会い放題だろうが」
「出会っても、ただの手紙届けてくれる人止まりだよ!」
あ、何か涙が出そうだわ。カズサがゲラゲラ笑っている。
「お前だって彼女いない歴、何年だよ?」
「俺は適当に遊んでるからな。発散は完璧よ」
発散て・・・禁書読んで、覚えたての魔法ぶっ放すとかだろ?そういうんじゃないんだけどな~
カズサとは、いまいち男の子同士の恋話とかができないのだけが、ちょっと残念。
「まあいいや。宿に帰ったら、飯作ってくれ。俺腹ペコだわ!」
今はカズサの作った美味い飯に、俺の胃はがっつり捕まってるから・・・女の子は今度で良いわ。
美味い飯と、くだらない話で英気を養った俺達は、早朝には故郷の村に向けて出発した。
「こっから先は知り合いに会うかもしんねぇからな、普通に行くわ」
「ほっ・・・だよな。のんびり行こうぜ」
草木が赤や黄色に色づき始めた森を抜け、る間にカズサが矢じり紐を飛ばして、一眼ウサギを3匹狩ったり。
キラキラと輝く小川を渡る橋を通り過ぎ、る時にカズサが氷の槍で魚を3匹串刺したり。それを昼食にしたり。
「美味いんだけどな・・・もぐもぐ」
雲一つない青空を見上げて俺が微笑んだ、りしてる間にカズサが魔弾でガルモを3羽撃ち落としたりしながら、
俺達は懐かしい故郷の村に辿り着いたのだった・・・。
「あんれええええ~?!って、おかしいだろうが!!3日かかる日程が、何でもう着いちゃってるわけ?!」
村の入り口に、俺達の村の名前がしっかり見えるわ!
「カズサの奇行が酷すぎて、誤魔化されてたけど・・・お前、なんか魔法使っただろ?!」
「やっぱ、ニコにはバレるか。2日分の距離を縮めといたわ。早く着いて嬉しいな?」
便所の紙補充しといたわ、と同じくらい重要な案件を、軽く言ったな?!
「お前・・・その魔法って、大丈夫なやつか?」
「ああ?禁が付く本を参考に、俺が組み立てた魔法だぞ?駄目だろうが」
俺の首を、冷や汗が滝のように流れていく・・・こりゃもう、忘れるしか手はないな!
カズサと俺の実家は近い。また後でなと手を振って、一度別れた。風呂に入って、ちょっと休もう。
「ただいま」
土木屋の作業場を抜け、実家の扉を開いた。手紙では、今日は親父が仕事を休んで家に居るはずだ。
「カズサか?!どうした?!」
俺の声を聞いた親父が、奥から転げるように走って来た。慌て過ぎだろうが。
「カエサルに追放されたから、里帰りしたわ」
「・・・・・・」
おっと。だらしなく口を開けたまま、親父が気絶してやがる。俺がパンッと両手を打ち合わせれば、意識を取り戻した親父が矢継ぎ早に質問してくるが、俺には答えようがねぇ。
「理由なんか、知らねぇ。わかんね。あいつが言い出したのに、何で俺が謝るんだよ?はあ?・・・うるせえわ」
気が済んだのか、問答に疲れた親父が、良く帰って来たなと俺の肩をポンポンと叩いた。
「手紙にも書いたが、お前に紹介したい女性がいるんだ」
居間に入っていった俺達を、笑顔で迎える女性がいた。3日後に結婚する、親父の後妻だ。
「カズサ君、お久しぶり。元気そうね?2人共なかなか入って来ないんだもの。お茶を淹れて待っていたのよ?」
「姉貴・・・随分、おしとやかな猫を飼ってんなぁ?何匹だ?」
親父の後妻は、隣の家の俺の姉貴分だ。年は俺より、6つ上。
優しそうな笑顔がひくついて、親父に見えない角度から俺の脛を折りにくる。ガキの頃から猛獣みたいな女だったが、親父の前ではいつも猫を被っていた。
「親父も遂に食らいつかれたか」
「あらやだ!父離れは、今日中に済ませてよね?」
んなもん、とっくの昔に済んどるわ。歯を剥いて笑い合う俺達の横で、親父が幸せそうに笑っていた。
「あら、一眼ウサギとガルモが沢山ね。丸々太って、美味しそう」
この女は良く食うからな。足りるか・・・?ニコの家にも、一匹ずつは持って行きたい。
毛皮を綺麗に剝いで、血抜きをしておく。森で採取した香草と、昨日の村で買ったキノコも使うか。
「ガルモの腹に香草とキノコ類を詰めて焼く。一眼ウサギは揚げて、甘辛く炒めるか・・・煮込みにするか?」
とにかく、かさ増ししねぇと。足りねぇだろうな。裏の窯で、ソース塗ってハムを乗せたパンを焼こう。
「久しぶりのカズサの手料理、楽しみだわ!お腹空いてきちゃった!」
忙しく手を動かす俺の横に座った、姉貴が煩せぇ。向こうに行って、親父の相手でもしてろ。
ガルモ=カモですね。合鴨を初めて食べた時、美味しさに感動しました。
その後、ダチョウを食べる機会があって、また美味しさに衝撃を覚えました。
またいつか、食べてみたいです。
遂に故郷の村まで帰ってきてしまったカズサは・・・この先どうなるのか?
とりあえず、夕飯の支度に忙しそうです!