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和解というよりは諦め。

通されたのは謁見の間だ。ひときわ高い玉座には、ミドラガルドスの国王が穏やかな笑みを浮かべて座っている。このおっさん(国王)は温厚な賢王と言われているが、腹の底はわかんねぇ。

王の側には護衛の近衛騎士と宰相が控えている。赤い絨毯の敷かれた室内には各部署のお偉いさんが並び、俺を連行してきた大臣のおっさん達が列に加わって、姿勢を正した。

国王の御前には、勇者カエサルとヒーラーのユリウスがお行儀よく立っている。俺の背後で音を立てずに扉が閉まると、こっちを向いていた全員が国王の方を向いて跪いた。

「魔法使いカズサ、大盾使いガイウスこちらへ」

宰相に促され(何でこの並びだよ?)俺はカエサルの横に並んで跪いた。俺の横にはユリウス、その横にガイウスの順だ。


「魔法使いカズサ、大盾使いガイウスよ。此度の隣国への視察の旅、大儀であった。極秘の任務であった故、大変であったであろう」

「勿体ないお言葉であります」

国王が柔らかくも威厳のある声で、俺とガイウスを労った。それに恭しく(こうべ)を垂れるガイウス。ははぁ・・・なるほど?隣国の勇者達による俺の拉致でも無く、俺の任務放棄の上で国外逃亡でも無く、あくまでも王命での行動だったという事にしたいわけだな。

「労いのお言葉、有りがたき幸せでございます」

完全に猿芝居だが、乗っておけばお咎め無しなら、合わせておいてやる。宰相が今回の任務についての概要を説明したところで、謁見はあっけなくお開きとなった。


「勇者カエサル様と皆様には、別室にてお茶の席を設けさせて頂いております」

国王の侍従に俺達は別室へ案内された。まぁ、こっからが本番の事情聴取だよなぁ。案内された先は国王の私的な温室に設けられた席だ。テーブルの上には既に菓子と良い匂いの茶が用意されていた。3段のティースタンドに乗せられているのは、下段から瓜のサンドイッチ(まぁ、四角いサンドパンだな)中段に焼き菓子、一番上がクレイムたっぷりのカップケイクだ。花の形の砂糖菓子が乗っているのが可愛いわな。

お茶を飲んで待っていろ的な事を言った侍従が、静かに部屋を出て行った。パタンと扉が閉まる音の後には、シンとした空気が流れた。


「はぁ~・・・お、美味い」

俺はドカッと椅子に腰掛け、良い匂いの茶をぐびっと呷った。温度も適温だ。香りも高い・・・王室御用達の茶葉か?俺が瓜のサンドイッチに手を伸ばした頃には、ガイウス達も椅子に座って茶を飲みだした。

「カエサル様、何かお取りしましょうか?」

久しぶりに見ても、相変わらずユリウスはカエサルの世話を焼いてんのな。瓜のサンドイッチに齧りついた俺は、小さく呻いた。パンがフワフワだし、挟んでいるのは瓜のスライスだけなんだが美味い。この白くてこってりしたソースは何だ?レシピが知りてぇ。

俺の隣に座ったガイウスは中段の焼き菓子に取り掛かっている。食うの早ぇな。


「あの・・・カズサ」

「あ?」

さっきから俺の方をチラチラと見ていたカエサルが、控えめに声を掛けてきた。俺は最後のサンドイッチを味わうのに忙しいんだがな?

「えっと・・・久しぶりだね。あの・・・お帰り」

「・・・・」

何でか頬を赤く染めたカエサルが、下を向きながらお帰りとか言ってきたんだが。俺はサンドイッチを噛みしめるのに忙しいから無視だ。


「あ・・・あの・・・」

「ちょっと貴方!カエサル様がせっかく・・・っ」

「まあまあ、落ち着け、どうどう・・・な?」

ユリウスが急に立ち上がったから、茶器がカタンと鳴った。ガイウスがユリウスの手を握って、どうどう言っている。暴れ馬を宥めるあれな?どうどう。

「・・・ごくん。何だよ煩ぇな。王宮で騒ぐなよ」

俺は中段の焼き菓子を一つ摘まんで、口の中に放り込んだ。外側がサクッとしたそれは、噛むほどに発酵油(バター)の風味がして美味い。食いながら、次の一つに意識がいっちまうほどだ。


二つ目を味わい、飲み込んだところで茶をグビリと飲む。うむ、茶に合うな。

「はいはい、ただいま。生まれた国に帰って来たぞ。パーティーには戻らないからな」

カエサルが期待に膨らんだ目を輝かせて、一瞬でどろりと濁した。怖ぇな、その目。

「何を言っ・・・っ」

キッと俺を睨んだユリウスが、ガイウスに口を塞がれてんの何か懐かしいな?俺は上段のケイクを皿に取り、先ずは花の形の砂糖菓子から掬って口に運ぶ。うん、甘い。甘いだけじゃなくて、ほのかに花の香りがする。

「おら、お前の好きそうな味だ」

別のケイクを皿に取り、カエサルに渡してやる。どろりとした目が見開かれて、柔らかく細められた。ニコニコと笑いながらケイクを食べるカエサルの頬にクレイムが付いていたから、拭いてやる。


「わざとやってんのか?それ」

ガイウスが呆れたような目で俺を見るんだが、無視だ。クレイムをたっぷりめに乗せたひと口を頬張る。魔牛の乳から作られるクレイムは濃厚で、しっとりとしたケイクを包み込むように溶けていく。口の中で、クレイムとケイクがダンスを踊っているようだぜ・・・。

「何を言っているんですか、貴方は?」

「ああ?」

どうやら、全部口から出ていたようだ。王宮の菓子が美味過ぎて、感想が駄々洩れになっていたらしい。

「・・・コホン。貴方も思うところがあると思いますが、一度パーティーに戻って頂けませんか?このままではカエサル様が・・・」


ユリウスの言葉はカエサルの人差し指が唇に触れることによって、続きを止められた。赤くなったユリウスが、ガイウスに頬をつねられている。

「何だよ?」

王命を無視して隣国に渡った俺を反逆罪で捕まえるか?さっきの感じでは、無罪放免で国に戻って来いって感じだったけどな。

「国には一度戻ったし、王にも会った。もう良いだろうが」

「あ~・・・これは秘密の話なんだけどな?お前がパーティーに戻らねえと、カエサルが一生・・・」

「ガイウス」

カエサルが口を挟んだが、ガイウスは構わずに続けた。カエサルは話の腰を折り過ぎだろうが。

「カエサルが一生、死ぬまで国に縛られることになるんだよ。お前のせいでな」

「ああん?」


「勇者が国に縛られるのは神からの啓示だ。俺のせいじゃねぇ。自由は無くなるが、その分たっぷりと恩恵を受けてんだろうが」

神の啓示により選ばれた勇者は、生まれた国と誓約を結ぶ。それは強い力を持って生まれた勇者を国外に逃がさないためだ。戦えるうちは国に忠誠を誓う代わりに、十分すぎる補償を受けているんだろう。

「それでも、カエサルは一生のうちの一番良い時期を全て国に捧げるんだ。年老いて、戦う力が無くなった時に初めて自由になれる。だが今回の件で、残り少ない人生の自由までも奪われるんだぞ?・・・胸が痛まないか?」

眉尻を下げたガイウスと、睨んでも怖くない顔のユリウスが俺をジッと見ている。カエサルは黙ったままだ。


「俺のせいか?俺はカエサルにパーティーを追放されたんだぞ?自業自得じゃね?」

「・・・それはカエサルが悪いが・・・お前も・・・わざとカエサルを煽ったとこもあるだろう?」

「ねぇよ」

三人に背を向けた俺は、内心で思う。バレていると。目の前に国外の本をチラつかせられたもんだから、ハイネコの誘いに安易に乗った。カエサルからパーティー追放宣言を引き出すのは簡単だ、ちょっとした事でヤキモチを妬く奴だからな。まぁ・・・後のゴタゴタをこいつらに押し付けたのは、俺も悪かったかもしれない。

「カズサ・・・」

俺が顔を背けている間に、カエサルが俺の前に移動して来てた。俺の手を両手で掴んで膝まづく。眉をひそめた俺の目を覗き込んだカエサルの眼は、不安げに揺れていた。


「カズサ・・・僕のことは良いんだ。自業自得だからね。それでも・・・どうしても、僕はカズサの側に居たいんだ。今回の事で本当に身に染みたよ・・・僕はカズサが側に居ないと息ができない」

「はあ・・・?」

何言ってんのか、ちょっと意味がわかんねぇ。俺の困惑は無視して、カエサルが俺の手の甲に額を付けて懇願した。

「僕の一生は国に捧げても、僕の心はカズサのものだよ。どうか・・・僕から離れないで欲しい」

「・・・・?」

何か知らんが、背筋を悪寒が走った。どろりと暗くて冷たいものに背後から抱き着かれているような感じだ。


「・・・凄い執着だな」

「・・・はい」

ガイウスとユリウスが何か言っていたが、良く聞こえなかった。振り向いてみたら、二人は青い顔で震えていた。

「・・・・・・わかった。一回、パーティーに戻るわ。とりあえずだぞ」

「っ!カズサ!!」

体に纏わりついた気持ちの悪いものを振り払いたくて、俺は折れた。俺が勇者パーティーに戻る事を伝えれば、嫌な気配は消えたが代わりにカエサルに抱き締められた。ぎゅうぎゅうと抱き着いてくるカエサルからは、消えた気配と似た匂いがした・・・。


久しぶりに4人が揃いました!カエサルの執着が過ぎるので、ガイウスとユリウスでさえドン引きです^^;

後ろの執着から逃げる為に、前の執着に捕まってしまう感じですね。

ブックマーク、評価、読んで下さってありがとうございます!諦めないで待って頂いている方、嬉しいです!^^

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