面倒臭いので帰ります。
食後の茶を飲んでいると、ガヤガヤと騒がしい声が食堂に入って来た。若い冒険者パーティーが口喧嘩をしているみたいだな。
聞き耳を立てなくても声がデカいから内容が聞こえてくる。どうやら討伐中の連携が上手くいかなかったらしい。
「若いな」
ガイウスが微笑ましそうに目尻に皺を寄せてんのが、本当に爺臭いな。ミアは冒険者たちをガン見すんな?
「・・・けんか。アベル」
「ああ?お前ら喧嘩したのか?」
意外だな。ミアに甘いアベルがミア相手に喧嘩とかすんのか。
「ちがう。じゅうじんとあべる。じゅうじんたくさん、あぶないからミアにげてきた」
ハッとした顔をしたミアが(無表情に見えるが、いつもより口の開きがデカい)俺の服をグイグイと引っ張った。
「カズサ、たすけて」
「ああ?面倒臭ぇんだけど」
たぶんアベルは強いだろうから、助けは要らねぇだろ。渋る俺とは違って、乗り気な脳筋がニコニコと身を乗り出した。
「おいちゃんが助けに行ってやるぞ」
またこいつは・・・お節介なガイウスに引っ張られて、俺も一緒にミアの後について行く羽目になったわ。辿り着いたのはボロ家が並ぶ区画だ。空き家が多いみたいで通行人は見当たらねぇ。
俺達が路地を曲がろうとした時、ズドンッと腹にくる重てぇ音と、体が浮き上がるくらいの振動がきた。
「何だ?!」
ガイウスが素早くミアを抱き上げながら、剣の柄に手をのばした。俺は角から顔だけを出して、覗いた先の光景に失笑した。
「はっ・・・やっぱ俺らの出番は無ぇじゃねぇか」
「どうなっている?!・・・・」
ガイウスが俺の肩越しに覗き込んできたが、視界を埋める惨状に黙り込んだ。地面が爆発で抉られたような更地の上に、一人の男を中心に瀕死の獣人たちが倒れているからだ。
「あそこって、元々家があったのか?」
「たぶんな。さっきの爆音の時に、消し飛んだんじゃね?」
あそこの一帯だけ不自然に何にも無いからな・・・。
「うわっ・・・倒れた獣人を笑顔で踏みつけながら、こっちに来る奴がアベルって奴じゃないよな?」
「アベル」
そのまさかだよ。引きつった顔で俺を見たガイウスの腕から抜け出して、ミアがアベルに向かって駆けて行った。アベルは血だらけの手でミアの頭を撫でんな?
「まじか・・・」
ガイウスが教育上良くないだの何だのと、ブツブツと呟いている。筋肉オヤジの母性を刺激する光景だよな?
「カズサ、不味い事になった」
アベルがミアを抱かかえながら、こっちにやって来た。ミアの服にも血が付いているのは、不味いわな。俺は二人に洗浄魔法を掛けてやった。
「・・・何だ」
俺は倒れている獣人たちの方をチラッと見てから、アベルの顔を見た。アベルはポリポリと顎を掻いて、薄く笑った。
「追手に見つかったから、早急に街を出たい」
「おお・・・」
追手ってあれか、お前と同族か。じゃあ、あそこに倒れてんのは竜の獣人か・・・なるほどな。
「しょうがねぇな・・・このまま、行くか」
明日か明後日にはザランを出ようとは考えていたが、アベルが揉めてんなら従属の紋で縛られた、俺へのとばっちりが面倒臭ぇ。俺はガイウスとアベルの腕を掴んで、一度宿屋に寄ってから、国境へ向けて転移した。
「あ?!カズサ、待て!」
ガイウスが慌てた声を上げたが、無視だ。一瞬で南方と中央を結ぶ国境門の前に着いた。手間だが、流石に国境を無視して国を跨げねぇからな。正式な手続きを済ませ、俺達はミドラガルドス国に入国した。
「はぁ・・・ユリウスへの土産とか、何にも買ってねえのに・・・」
ガイウスがブチブチと文句を垂らしているのが煩ぇ。俺は鞄の中を漁って、南方の茶葉と花系の匂いのする香辛料を取り出して、ガイウスに放り投げた。
「ユリウスには、それでもやっとけ」
「おお、サンキュ!」
ガイウスは喜色を浮かべ、大事そうに茶葉と香辛料を仕舞った。それから、ふと俺の顔をジッと見た。あんだよ?
「・・・カエサルには、何か用意したか?」
「ああん?」
「土産だよ、土産!まさか手ぶらで帰るつもりか?」
ガイウスが呆れた顔をしてんだが、意味が分からねぇ。俺の鞄は南方で入手したもので一杯だが、何でカエサルに土産をやる必要があんだ?
「俺は南方の王に言われたから、中央の王に会いに戻っただけだぞ?パーティーに戻るわけじゃねぇ」
「は?!」
ガイウスが顎が外れてんのかってくらいに、だらしない顔をしてんだが・・・どうした?
暑い日が続いていますが、皆様、お元気でしょうか?私は暑さに負けて、バテテおります^^;
更新が遅れてすみません^^;さて、カズサ達はミドラガルドス国に帰ります。寄り道しないでちゃんと帰れるかな・・・。
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