大事な事はさりげなく。
「・・・サ・・・きろ。カズサ!!」
「んむ・・・?」
体をゆらゆらと揺らされている・・・だんだん強く揺すってくるのは・・・あいつか。
「・・・ガイウス、煩ぇ」
俺は肩を掴んでいたデカい手をひっぺがして、のろのろと起き上がった。伸ばしっ放しだった前髪が目にかかって、鬱陶しいな。
「・・・切るか」
「え、俺を?!」
声の方を見上げれば、久しぶりに見る顔が慌てた表情をしていた。赤錆色の髪はボサボサだし、髭を落としていないから野性味が増したガタイの良いおっさん、ガイウスだ。
「おっさんの何処を切るんだよ?」
俺が目線を下の方に下ろしていくと、なぜかガイウスが股間を押さえて後退った。何してんだ?
「ふあぁ~・・・何時着いたんだ?」
「ん?ああ、今朝がただな。お前が南方の勇者チームと消えてから、直ぐに追いかけたんだが・・・道中いろいろとあってな、時間が掛かっちまった」
ガイウスは壁際にあった椅子にドカッと座り込んで、頭をボリボリと掻いた。お前・・・風呂に何時入ったんだ?仕方がねぇから、ガイウスに洗浄魔法を掛けてやった。
「お、サンキュ。話したい事は沢山あるんだが、一先ず飯を食わねえか?」
ぐぎゅるるる~っと腹が鳴ったのは、どっちだ?どっちもだな。俺はベッドから下りて、身支度を整えた。
「はいよ、おはようさん!今日は魔豚のショウガ焼きだよ!」
「おお~!久しぶりのまともな飯だな!」
ガイウスが何か感激して、両手をパンッと合わせて勢い良く食い出した。俺もショウガ焼きは好物だから、コメが進むわ。大きめの肉はタレの味が良く絡む、絶妙な厚さだ。
今日はいつもより遅く食堂に入ったからか、空いている席が多かった。そういや、アベルとミアが居ないな。もうギルドに向かったか。
「宿に着いた時に、デカくて青い髪の獣人と幼女を見たか?」
「ん?ああ・・・宿の前に寄ったギルドに居たな。知り合いか?」
ガイウスが2杯目のコメをモリモリと咀嚼しながら、組み合わせがおかしくて目立ってたわと笑った。確かにな、デカい獣人と幼女・・・犯罪の匂いしかしねぇわ。
「何といえば良いか・・・怪我を治してやって飯を食わせたら、強制的に従属契約されたっつうか・・・」
「お前・・・俺があれほど、誰彼構わず餌付けするなって言ったの忘れたのか?」
別に餌付けしたつもりはねぇが。拾った場所に戻して来いって、返品可能なのか?あいつら。
「まあ、いいか。店主、おかわりくれ。モグモグ・・・帰ってこい」
「どんだけ腹減ってんだよ、ほら茶を飲め。しょうがねぇから、戻るわ」
3杯目のコメを口いっぱいに頬張っているガイウスに、ぬるい茶を出してやった。俺は転移で来たから楽だったが、普通に国境から移動して来たら疲れてるし、腹も減るだろう。
「おっさんだしな」
「誰がおっさんだ」
「おっさん」
「どわっ?!」
前触れなく、ミアがテーブルの下からにゅっと顔を出したから、驚いたガイウスが最後の肉を落とした。ミアが素早く落下してくる肉に食い付いた。
「にく。うまうま」
「あ~!俺の最後の肉!!」
ガイウスは悔しそうな顔をしたが、残っていたコメをミアの口の中に入れてやっている。自分も餌付けしてんじゃねぇか。
「ミア、知らない奴から食いもんを貰っても、食うなよ」
世の中、危ない奴ばっかだからな。食いもんで釣られるようじゃ、ミアは直ぐに攫われちまう。
「わかった。あ~ん」
「大丈夫か、この子?警戒心が薄くないか?」
ガイウスが店主からサービスで貰った果物を、食べやすい大きさに刻んでミアに食わせている。ミアの警戒心の無さを心配しながらも、楽しそうに餌付けしてんな。
「そういや、アベルはどうした?」
ミアは口いっぱいの果物をモグモグしながら、首を傾げた。傾げている間も、ガイウスが果物を口に入れていく。
「わすれた」
「忘れた?」
どっかに置き忘れたのか?最後の一欠けらを食べ切ったミアが、満足気に息を吐いた。ガイウスも満足気に相好を崩してんのが、実におっさん臭かったわ。
ガイウスとの久しぶりの再会ですが、付き合いが長いので感動の再会まではいかない感じの二人です^^;
ミアはアベルを何処に置き忘れてきたんでしょうかね?
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