俺の息子が有能すぎる件な。
「私は控室で仮眠を取っておりますので、何かありましたらお申し付けください」
「わかりました。私の為にすみません」
ニコリと微笑んだ司書が、図書室に繋がった控室に静かに消えていった。俺の為に家に帰れなくなったんだよな、すまねぇ。
禁書の閲覧許可はもらったが、この王城図書室の本を守るのが司書の仕事だから、外部の人間だけに出来ないんだろうな。俺は明日の朝までここを利用するつもりだから、せめて司書にはぐっすり眠ってもらいたい。
「睡眠香でも焚いてやろう」
俺は仮眠室のドアを薄く開いて催眠香を部屋に入れ、そっとドアを閉めた。既にベッドで横になっていた司書には気づかれていない。
「俺お手製の催眠香だからな、ぐっすり朝まで熟睡できんだろ」
俺は図書室内に防音魔法を掛け、書架の一番端から順番に本を複写していった。気になる本は速読で読んでいく。じっくり読みたいが、それは後で複写した本を読むしかない。
「ちっ明日ガイウスが来なけりゃな・・・」
明日も本を読んでいられたのにな。ん・・・?待てよ。俺の手と目がもう一つあったら、どうだ?名案じゃねぇか?俺は鞄の中から人形を取り出して、隣の席に座らせた。
「起きろ」
「はい(イエス)、ご主人様」
俺の顔に偽装した人形がゆっくりと目を開いた。俺の声でご主人様とか肌がぞわぞわするわ。
「その呼び方やめろ。カズサで良い」
「カズサ」
「おう。・・・お前にも名前が必要か?」
人形呼びじゃ、人前で呼びづらいしな。ん~・・・どうすっかな?人形の目が微かにゆらゆらと揺れている。期待してんのか?どうすっかな・・・人に似せて作られた・・・人では無いものとの中間の・・・。
「ん、お前はヒューだ」
「ヒュー・・・どんな意味を持つ言葉か、お聞きしても良いですか?」
人形・・・ヒューが首をコテリと傾げて、俺をジッと見てきた。
「意味か、昔読んだ本に書いてあった“人間のような”って言葉を崩してみたんだ。合ってるだろ?」
ヒューは瞬きをすると、頷いた。納得したんだな。
「さて、時間が無い。今からお前に複写の魔法を教えるから、とにかく本を写しまくれ」
俺が考えた作戦はこうだ。ヒューに複写させる。俺は厳選した本を速読、もしくは普通に読む。うん、天才。
「かしこまりました」
複写の魔法を口頭で教えるより、ヒューの右手に複写の魔法陣を刻んだ方が早かったわ。写したい本の頁を手でなぞって、そのまま白紙をなぞれば複写完了って・・・。
「俺がやるより早いな。俺の息子は有能だわ」
「息子・・・私は役に立ちますか?」
ヒューの黒い目がゆらゆらと揺れている。こいつ、無表情だが目に感情が出るな。俺はヒューの頭をわしゃわしゃと撫でてやった。無いはずの髪の毛の感触が有るのは、なんでなんだ?凄くね?
それから俺はヒューに複写を任せ、朝が来るまで主に禁書を読み耽った。ここの禁書は本当に面白くて、俺が今まで出会ったことの無い系統だった。
「死霊術・・・屍操術・・・魔物の死体の再利用・・・ううむ、倫理観の崩壊だな」
くあっとデカい欠伸が出たところで、時間切れだった。宿に戻って飯食って・・・風呂も入りてぇ・・・したら、ガイウスがやって来る時間になるだろう。
まぁ、ちょっと寝てても良いか。ガイウスなら勝手に部屋まで来るだろう。
「おし、ご苦労さん。宿に帰るぞ」
「わかりました」
疲れ知らずのヒューを労って、鞄に仕舞った。控室の中のテーブルに、サンドパンと果物を幾つか乗せておく。仮眠室の固いベッドで一晩過ごさせた、司書へのお詫びだ。
「さて、王への挨拶・・・は端折らせてもらうか。あの王なら許してくれそうだ」
俺は王城の図書室から、宿屋の自室まで一気に転移した。これから朝飯食って、風呂・・・やっぱ、眠いわ。一回眠って、ガイウスが来たらやれば良いな。よし、寝よう。俺は魔法で着替えて、ベッドに飛び込んだ・・・。
カズサは右手複写機を手に入れた。有能な息子が出来て良かったです^^
ヒューと安易な名前を許して欲しい。響きは気に入ってるのです!
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