予定通りに進まねぇ。
「お客さん、今日は寝坊だったのかい?朝食は燻製肉と半熟卵のオムレツだよ!」
「おお・・・っこの燻製肉は半生っぽい・・・?しっとりしていて、噛むと旨味が出てくるな。外側がカリッとした平たいパンに、ふわとろの卵が浸み込んでるとこ、最高に美味いわ」
「このパン、もう1枚欲しいな。俺は燻製肉と卵をパンに挟んで食いたい」
「あ~ん・・・おいしい」
アベルはパンのおかわりを1枚といわず、数枚貰っていやがる。アベルの真似をして、大口で噛み付いたミアの口の周りには、卵がべっとり付いているじゃねぇか・・・。
洗ったばかりの布で口元を拭いてやるが、もう一口齧ってまた卵が付いた・・・これは、最後に拭いた方が良いな・・・。
「ちょっと店主、僕にも同じもの頂戴!」
「「俺もだ」」
「店主さん、私にも下さいな」
隣のテーブルの客がワイワイと注文している声が聞こえて、何気に見たら知っている顔だったわ。
「お前らかよ」
「ご挨拶だね、カズサ!アザレから戻ったら連絡頂戴って言ったけどさ、ギルド経由とか寂しくない?」
俺達の隣のテーブルに座ったのは、この国の勇者パーティーだ。好青年の勇者と、巨乳のヒーラーと盾役のクマと、魔法使いのハイネコだ。
「ちゃんと連絡したんだから、文句言うな」
「酷い!」
「はいよ、お待ちどうさま!燻製肉と半熟卵のオムレツだよ!」
「おお~!美味そう!!」
店主が運んで来た料理を、勇者ヨルムンドが豪快に食っている。クマのおっさん、セランは燻製肉をおかわりしているな。耳が動くほど、肉が好きか。
「くまみみ。しっぽ、もふもふ」
「・・・尻尾は駄目だ」
「すまん!ミア、獣人の尻尾には触るんじゃねぇ」
俺がセランのクマ耳に気を取られている隙に、ミアが尻尾を掴んで遊んでいたようだ。獣の尻尾は性感帯の近くだから、幼女に遊ばれるのは微妙な気持ちになるわな。
「ふぅ~美味しかった。今日はさ、王命でカズサを迎えに来たんだよね」
「あ?王命?・・・俺に何の用だよ」
国王からの呼び出しとか、超面倒臭ぇ。俺が食後の茶を飲んでいると、店主がサービスでチェリエのシャーベを出してくれた。冷たくて甘酸っぱくて美味いわ。
「爽やかな酸味、甘酸っぱい初恋の味。幾らでも食べられますね」
薄桃色の長い髪でタレ目の女が、どんぶりいっぱいのシャーベを頬を染めながら食っていやがる。ああ、頭がキーンと痛むのか、おでこを抑えながらプルプルと震えている。自由だな、こいつら。
「何かさ~、カズサんとこの王命を途中放棄して南方に飛んだじゃない?ミドラガルドス国からやんわりと苦情が来たみたいでさぁ。僕ら、カズサの誘拐容疑で国王様に怒られちゃったよ」
ハイネコが口を尖らせて、茶をふ~ふ~と吹いている。猫舌か。
「ウケるな」
勇者ヨルムンドが豪快に笑い、ヒーラーのミラはコロコロと笑っている。アベルは喋んねぇなと思ったら、クマのセランと大食い対決してんだが・・・何やってんだ、あいつら。
「俺には関係ねぇな」
飯も食い終わったし、話も済んだから席を立ったんだが、ハイネコが俺の手を離さねぇ。
「おら、手ぇ放せ。忙しいんだよ、俺は」
今日はギルドの適当な討伐依頼を受けて、人形の性能テストをする予定だ。振り払おうとした俺の手を、両手に持ち替えて握りながら、ハイネコが上目使いで見てくんだが・・・。
「王に謁見してくれたら、王城の図書館を1日借り切ってあげる」
「・・・・・・禁書は」
「読めるように、王に頼んでおくよ」
ハイネコの目が、期待に輝きだした。はぁ~・・・超面倒臭いが、王城の潤沢な書籍たちと禁書の誘惑に、俺の天秤が僅かに傾いた。
「行くぞ」
「うん、直ぐに行こう」
ハイネコが言葉通りに、転移魔法を編み出したから、拳骨で止めておいた。アホか。
「俺にも準備は必要だ、ちょっと待ってろ」
俺はアベルとミアに用事を済ませに行くから、今日は別行動でと声を掛けた。借りている部屋に入ると、人形はベッドに腰掛けて熱心に本を読んでいた。“王宮作法と平民の生き知恵”その本、面白ぇよな。
「王城に行くぞ。お前も一緒に来い」
「御意。どの様に同伴致しますか?」
「どの様にってか・・・鞄に入るか?従者の振りして、俺について来るか・・・どっちだ?」
人形は首を傾げて逡巡した後、鞄に・・・と言った。まぁ、生身の人間じゃねぇから、鞄に入れても大丈夫だろう。俺は鞄の入り口を広げ、人形の体を収納した。
チェリエのシャーベ=サクランボのシャーベット。私は半熟卵が食べられないので、ふわとろは想像で書いています。「いつからこの世界は、半熟が主流になってしまったの・・・(ナウシカ)」
何処に行っても半熟なので、注文時に凄い悩んでいます^^;
ブックマーク、評価、読んで下さってありがとうございます!嬉しいです^^