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手紙配達人ニコの困惑3

「はぁ~何なの。朝から俺の心臓ドキドキさせて、どうするつもりだよ?」

「悪い、寒くて抱き枕にしてたわ」

くあ~と欠伸をしながら起き上がったカズサが、俺の髪をワシワシと撫でていく。おい・・・。

リンゴル一個分しか離れていない至近距離で、まつ毛が長いんだな~と思いながら、お前が起きるまで身動きできなかった俺の純情を返してくれ!魔法使いなのに、腕力が強いんだよな!土木屋の息子だもんな?!

心の声が騒ぎまくってるが、俺はカズサに差し出された水で口をすすぎ、熱いタオルで顔を拭った。


「はあ、気持ちいい・・・じゃなくて!カズサぁ・・・お前、カエサルにもこうなわけ?」

「あ?何がだよ」

あ?じゃないよ!振り返った俺を、怪訝そうに見たカズサは、手を止めることなく俺の髪をブラッシングしている。とても丁寧に、髪を梳してくれてるわけ。19歳の大人の男だぞ?!自分でできるわ!

「カエサルの髪も、梳してやってんのかって聞いてんの!」

「ああ、2人で旅してるときは梳かしてやってたぞ。あいつ毎朝、髪が絡まって鳥の巣みたいだったからな。今はさすがに、ユリウスがやってるわ」

カズサから別の人に代わっただけで、自分で梳かさないのかよ・・・呆然としている間に、俺の髪は艶々に仕上がっていたし、何ならホカホカと湯気をたてる美味しい朝食まで出来ていた。ハムエッグの焼き加減が絶妙過ぎる!!俺の胃袋が喜んでいるわ・・・!!


野宿の後片づけを済ませた俺たちは、村へ向けて出発した。今日はちゃんと魔物除けの香を焚いている。

「ほっ・・・今日は試作の実験は無いな?」

安心したのも束の間だった。カズサが良い笑顔で頷いている。その顔、何か企んでる時の顔だろうが!

「安心してください。馬の健康を害さない天然物の薬草だけを使った、カズサ印の飼い葉を朝食で与えてあります。効能としては、身体強化と俊足・・・足がまぁ、すげえ早くなるわ」

カズサが胡散臭い笑顔と話し方で、俺の可愛いお馬さん達に、怪しい草を与えたって言ったか?!


「ど・・・っうわああ?!ちょ・・・っおいいいいい!!!!」

前振り無しに、加速を始めたお馬さん達の足が速~い!通り過ぎる景色が線と化している。

「ばか!ばかカズサ!!俺のお馬さん達に何食わしてんだ?!これ後で筋肉痛くるだろうが?!」

「安心してください!アフターケアも万全です。試作品の貼る痛み止めが、良い感じに仕上がってるから!」

胡散臭い笑顔やめろおおおお!!!早い乗り物に乗っているときは、口を閉じるべきだった。俺はがっつり舌を噛んで、カズサ印の回復薬を呷る羽目になるのだった。


カズサとニコが楽しい旅を続けている同時刻、別の場所では・・・・


「はあああ!!!」

カエサルの普段とは違う、荒々しい声が山間に響いていた。

今日の依頼は、王都から2刻ほど離れた場所にある伐採場だ。冬眠前に食料を蓄えようと、山を下りて来る大型の魔物グリーズリが今年は例年より多いらしい。緊急依頼を受けて、俺達は今朝早く王都を出発した。


「魔物が可哀そうになってくるな・・・」

止めを刺して一息ついたガイウスが、カエサルを見つめて呟いた。

「やる気に満ち溢れてて良いではないですか!猛々しいカエサル様も素敵です!!」

後方で待機しているユリウスが、曇った眼で勇者カエサルを褒めている。

辺りに散らばるグリーズリの死骸は10を超える。残りは20匹ってところか・・・返り血で真っ赤に染まったカエサルは、勇者というよりは魔王のようだなとガイウスは思った。

「カズサが居る時なら、返り血なんて絶対浴びないのにな」

装備が汚れても魔法で簡単に落とせる。それでもカズサの負担を減らしたいし、かっこいいところを見せたいからと、カエサルが頬を染めながら言っていたのを思い出す。


大事にしたいなら、手放すな・・・この依頼が終わったら、少しだけお節介を焼いておくか・・・。

飛び掛かって来たグリーズリを盾で張り倒し、首を切って絶命させる。待てよ・・・

「俺の仕事は盾役だったな、うっかり単独で戦ってたわ。俺もカズサが居なくて、動揺してたのかね?」

今日は役割無視で暴れる勇者様を、宥めるカズサは居ない。俺がしっかりしないと駄目だった。

「ユリウス!ちょっとここ離れるぞ!防御は・・・大丈夫そうだな?!」

本来後方で守られるはずのヒーラーが、杖で大型魔物の急所を突いている。まあ、勇者のパーティーに入れるくらいだ、ユリウスも弱くない。


俺は大盾でグリーズリをなぎ倒しながら、ユリウスの前に出た。近くで見るユリウスは、薄っすら笑みを浮かべながら、血みどろで暴れている。怖いよ・・・マジで。勇者を心棒する民には、絶対に見せられない顔だ。

「カエサル!ちょっとこっち見ろ!・・・聞こえてないか・・・後で、やり返してくれていいから、な!」

倒れない程度の力でカエサルを殴りつけた。嘘、本気で殴りました。拳が顔面に当たった瞬間のカエサルの目は、本当にやばかった。俺、一瞬で死を覚悟したからな?!


「すごく痛いんだけど・・・」

俯いてから見上げた顔は、いつもの穏やかなカエサルの顔だった。ほっ・・・。

「すまん。文句は後で聞くから!先ずは依頼を終わらせよう。な?」

そんで、殴ったことは忘れてくれると、おじちゃんは嬉しいな~なんて思うわけだ。

俺はいつものように、大盾でグリーズリたちを引き付けた。背後から飛び出したカエサルの声が、微かに耳に届く。

「絶対に忘れないから・・・ね!」


俺がぞわぞわと寒気を感じている間に、カエサルの聖剣が閃いた。

「不浄の魔物よ、煉獄に還れ・・・LIGHT OF MOBIUS!!」

横一線の閃光が、残っていた全てのグリーズリ達の命を焼き尽くしていった。

遠くでユリウスが、カエサルを称えて飛び跳ねている。

お気楽な奴め・・・俺は少しだけユリウスを恨めしく思った。


ガイウスが空を仰いだ同時刻・・・別の場所では、カズサとニコが故郷の村から、馬車で3日ほど離れた村に着いていた。


「はっ早過ぎるだろおおおおおおおがあああああ!!!!!」

カズサ印の飼い葉を食べた俺のお馬さん達は、本当に早かった。

日程を一週間以上も、縮めて走って来たんだからね?!

「よしよし。お前たち偉かったなぁ。ご褒美をやるぞ」

カズサがお馬さん達に、可愛らしくデコレーションされた角砂糖を与えている。汗を拭いてやり丁寧にブラッシングした後、筋肉痛防止の痛み止めを貼ることも忘れない。

カズサはぐったりとする俺の口にも、角砂糖を放り込んだ。なにこれ・・・甘~い!角砂糖をボリボリと噛んで飲み込んだ後、口を開けておかわりを強請ると、もう一個入れてくれた。うん、甘くて美味い!


「は~何か、甘いもの食べると疲れが取れるな」

「まあな。俺お手製の角砂糖だ」

美味かっただろ?と意味ありげに笑う顔が、にくたらしいわ~。


だんだん、ニコとカズサのコンビが好きになってきました。

邪な感情がない関係は、さっぱりしてて良いですね。


ブックマーク、ありがとうございます。頑張れます!^^


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