夏の夜の夢3
「同じ村出身で、子供の頃に何回か遊んで・・・無いか。・・・村を出てから、一緒に苦労したよね?それって友達じゃないの?!」
村にいる間は、カズサの事を意識し過ぎて話しかけられなかったけど・・・村を出てからの3年間、僕達の間にはニコにも負けない絆ができているはずでしょう?
「主に苦労したのは、俺な?お前は何つうか・・・手のかかる、親戚に無理やり押し付けられた我儘なガキって感じだな。友達になるには、負担が大きすぎるんだよなぁ」
茶菓子を齧りながら、カズサはサイドテーブルの上の本を見ている。僕に飽きて、本を読みたくなっているんだね・・・。
「じゃ、じゃあ・・・友達じゃないなら・・・僕を・・・こっ」
「こ?」
ここが夢の中で、目の前のカズサが僕の作り出した幻だとしても・・・これだけは、口にする勇気が出なかった。僕の恋人になって欲しいなんて・・・言わなくても、わかるでしょう?
「カエサル、顔が尋常じゃねぇくらい赤いぞ?大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫!とにかく、纏めるね。カズサ、僕が悪かったよ。僕を許して、パーティーに戻って来て欲しい!」
僕のおでこの熱を測っていた、カズサの手を両手でギュッと握って僕は懇願した。細くてつるつるのカズサの手に頬を寄せたいけど・・・今は我慢だ。
「う~ん?俺のやんわりとした拒絶は伝わって無かったか?戻っても、また面倒臭ぇ事になるだろうが。それに南方の本を読み始めたばかりでな、まだザランの図書館と古書店、アザレの古書店しか見れて無いんだわ」
「・・・充分じゃない?」
「俺はスバルトフレム連合国にある、全ての本が読みてぇんだよ」
カズサはスバルトフレム連合国中を旅して、全ての本を読んだり複写したいらしい。それって、どのくらいかかるの?年単位の話だよね?!駄目・・・無理・・・。そんなに離れていられないよ!
「・・・カズサは王命の依頼を途中放棄して、南方に渡ったよね?」
「まぁな」
「王様が・・・僕達全員と話がしたいって言っていたよ」
「ああ?やっぱ懲罰は避けられねぇか?」
「どうかな。とにかく、4人全員で城に来いって」
これは半分が嘘だ。僕らの国の王様は、とても穏やかな方だ。スバルトフレムの使節団を王城に送り届けた後、きちんと状況説明をしたら許してくれた。
ただ本音としては、ミドラガルドス国にたった一人しか居ない、魔法使いのカズサを連れ戻すことを期待されていると思うけどね。
「はぁ・・・仕方ねぇ、一回戻るか」
「え?!本当に?!」
懲罰の件を出したら、優しいカズサは僕達の事を気にして、戻ってくれるだろうなって期待はあった。騙したみたいで罪悪感が少しだけあるけど、夢だから良いよね。これが夢の中の言葉でも、目が覚めたら無くなる約束でも、カズサが自ら戻ると言ってくれた事が凄く嬉しい。
「できたら王様の為にじゃ無くて、僕の為だったら良かったのにな・・・」
「あ?何だって?」
「ううん、何でもない!・・・あれ・・・?」
怪訝な顔をしたカズサの輪郭がぼやけて見える・・・強制的に意識が引き剥がされる感覚だ。僕は慌ててカズサに手を伸ばした。まだ離れたくない!
「本体が起きる時間だろうが。抵抗せずに、もう行け」
僕の指先がカズサの手に触れる前に、カズサに軽い力で振り払われてしまった。相変わらず、そっけなさ過ぎるよ。シッシッと手を振ったカズサが、サイドテーブルの本を掴んだところで、僕は目を覚ました。
「カズサ・・・」
見慣れた自室の天井を見上げて、幸福感が胸の中で寂しさに変わっていくのを感じた。夢の中だけでも会えたら・・・なんて、やっぱり嘘だった。今直ぐにカズサに会いたいし、抱き締めたいし、カズサのご飯も食べたい。
「はあ・・・欲深いな・・・」
のろのろとベッドから起き上がって、服を着替えた。意識を切り替えて、今日も勇者としての責務を果たそう。カズサが戻って来るまで、僕にできることはそれだけなんだから・・・。
~カエサルとユリウスが、ギルドでガイウスからの朗報を受け取るまで、あと少しである。
欲は尽きないカエサルです^^;次回またザランに戻ります!
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