表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/89

夏の夜の夢2

やるべき事を終わらせて、今夜は早々にベッドに入った。占いの館の主が言っていた通りに、魔法紙を枕の下に敷いて目を閉じた。どうか、カズサに会えますように。

暗闇の中で聞こえていた、自身の規則的な呼吸音がだんだん薄れていって・・・どぷんと沈み込むような感覚を最後に・・・僕の意識は完全に途切れたんだ・・・。


「・・・ん・・・眩しい・・・?」

瞼の向こう側で光がチラチラと揺れているようで、眩しさに僕は目を覚ました。

辺りは暗闇で、僕の目元を照らした一筋の光だけが、細く長く伸びている。僕は起き上がって、その光の筋の先に向かって歩いた。

「・・・ドア?」

光の先にあったのは、分厚く頑丈そうなドアだ。薄く開いた隙間から光が漏れ出ていたんだね。この先はどうなっているんだろう?カズサがいるんだろうか?

今直ぐにドアを開けたい衝動を抑えながら、僕はドアをコンコンッと軽くノックした。


「ああ?珍しい事すんな。何時もみたいに、勝手に入って来い」

この声・・・カズサだ!期待と焦燥で、邪魔なドアを破壊しそうになったけど、我慢してゆっくりと開いたよ。ドアの向こうは円形の部屋で、見上げた先が見えない程に高く続く、埋め込み式の書架に四方が囲まれている。

部屋の中心にはソファーが2つ置かれていて、その1つでは凭れ掛かる様に座ったカズサが本を読んでいた。

「・・・っカズサ・・・」

「あん?・・・カエサルか?お前どうやって、ここに来た?」

顔を上げたカズサが、僕を見て眉を顰めた。それが凄くショックで・・・僕はドアの前で立ち尽くしたまま、動けなくなったんだ。


「・・・はぁ・・・取り敢えず、こっちに来い」

呆れた声音で、カズサは僕に空いているソファーに座れと言った。僕がのろのろとソファーに腰を下ろすと、湯気の立つお茶を差し出してくれた。こんな僕にも優しくしてくれて・・・やっぱり好きだよ。

「あったかい・・・」

まろやかな甘さのお茶が喉を通って、お腹の中を温めていく。内側が温まると、心がほっこりするのは何でなんだろうね。

「カズサが側に居るからかな・・・空っぽの心が満たされて、幸せな気分になる。2人っきりなのも良いね、此処には邪魔者が居ないもの。僕、此処に住みたいな」


「アホか。此処は俺の部屋だ。それで?お前はどうやって、ここに来たんだ?」

本を閉じてサイドテーブルに置いたカズサが、お茶を飲みながら先程の質問を繰り返した。どうやってって・・・。

「占いの館の主に夢でも幻でも良いから、カズサに会いたいってお願いしたんだ。そしたら魔法紙をくれて・・・ねえ、カズサは僕の夢の中のカズサなの?」

「あ?幻だってか?・・・まぁ、そういう事にしとけ。魔法紙は1度きりって、言ってたか?」

黒髪をガシガシと掻き回したカズサが、嫌そうに眉を顰めたから・・・僕の胸がギュッと苦しくなった。

「うん・・・使えるのは1度だけだって言ってたよ。勝手に会いに来てごめんね。僕も自分勝手だなって、自覚してる・・・それでも、どうしてもカズサに会って・・・謝りたくて・・・」


「・・・」

カズサをチラッと見ると、頬杖をついて無表情で僕を見ていた。何の感情も読み取れないけど・・・僕の話は聞いてくれているみたい。

「カズサ・・・本当にごめん。僕が・・・勝手に嫉妬して、八つ当たりして・・・カズサを追放しちゃって・・・。カズサが僕を許してくれるたびに、もう最後だって言われているのにね。僕はカズサが誰かを魅了するたびに、どうしても我慢できなくなっちゃって・・・カズサは僕のものなのに・・・僕以外を見るから・・・」

「ぶほっ・・・誰がお前のものだよ。そもそもの基本が狂ってんだよ、お前は」

飲んでいたお茶を吹き出したカズサは、手の甲でグイッとお茶を拭った。呆れたように睨んでくる顔が・・・好きだな・・・。


「くっ・・・親父やお前の親に頼まれて、お前のお供を押し付けられただけで、俺はお前のものになったつもりは無ぇ。そして俺は、誰も魅了しちゃいねぇわ」

「嘘だ・・・カズサが無自覚でも、魅力を振りまいて信者を増やす癖に。ニコや騎士団副隊長とも仲が良いし、距離感おかしいし・・・南方の魔法使いと駆け落ちしたくせに・・・っ」

「ああ?はあ・・・お前の話を真面目に聞いてやろうとした俺が、バカだったわ。お前は俺に謝りに来たんじゃ無かったのか?それとも喧嘩を売りに来たのか?ニコは俺の幼馴染で親友だし、ヨハネストは仕事上の付き合いだろうが」

「じゃあ、南方の魔法使いは?今も一緒に居るの?!」

僕はカズサに謝って、許してもらいたかったはずなのに・・・僕の口から出てくる言葉は嫉妬にまみれていて、本当に醜い。


ぐちゃぐちゃになった感情が、頭の中に火を灯して熱い・・・ボロボロと泣きたくないのに涙が溢れてくる。

「はぁ・・・泣くとか、ガキかよ。何度繰り返しても、お前の言っている意味がわかんねぇ。ハイネコとはザランに着いてから別れたわ。お前が毎度、何に怒って俺を追放してんのか知らんがな・・・最後に泣いて謝って来たら、俺は許さなくちゃいけねぇだろ?それが面倒臭ぇ」

「・・・てよ」

「あん?」

「何回でも許してよ!僕達・・・友達でしょ?!」

「逆切れかよ・・・。お前と俺って、友達だっけ?」

酷い・・・酷すぎる・・・心底、吃驚した顔で言われたのが、僕の心をガリガリと抉っていったよ。


「手の甲でグイッとお茶を拭った。呆れたように睨んでくる顔が・・・好きだな・・・。」の辺り、カエサルは無意識に口から零しています。なので、カズサが「くっ・・・また意味不明な事を・・・」となっております。

ブックマーク、評価、読んで下さってありがとうございます^^嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ