夏の夜の夢
カズサが居なくなってから、眠れない日が続いている・・・。
「まあ、自業自得なんだけどね」
僕が勝手に嫉妬して、カズサに八つ当たりしてるだけだって自覚はあるんだよね。
「でも・・・カズサも悪いと思わない?」
「・・・私は唯の占いの館の主ですから、お答えできません。ここは愚痴を聞く場所ではないので、占いに御用の無いお客様はお帰り下さい」
「そうだよね。じゃあ、僕の大事な魔法使いの居場所が知りたいです」
「・・・それは昨日と、一昨日と、そのまた前の日に、お答えしましたよね。南方の中央都市ザランに滞在中かと」
箱型の屋台の中で、占いの館の主が苛々としている気配がする。布に隠されていて姿は見えないけど、トントンと爪が木の板を叩く音が聞こえた。
「ふぅ・・・お客さんは、夢の中でも探し人に会えたら嬉しいですか?」
「うん、もちろんだよ。カズサになら、夢でも幻でも、気配だけでも良いから会いたいよ」
「重・・・。それでは、こちらの魔法紙をお持ちください。この魔法は1度だけ、想い人と夢の中で会う事ができます。使い方は魔法紙を枕の下に敷いて、眠るだけです」
そう言った主が、布の間から1枚の紙を差し出してきた。魔法陣が描かれた紙を見ていたら、カズサの顔が浮かんできて胸がギュッと痛んだ。
「貴重なものをありがとう。お代はこれで足りるかな?」
金貨の入った革袋を渡したら、1枚だけ取って残りは返されちゃったよ。とても良心的だよね。占いの館の主にお礼を言って、逸る気持ちを抑えながら拠点へと駆け戻ったよ。
「カエサル様、お帰りなさい。外で何か良い事でもありましたか?」
拠点の入り口で掃き掃除をしていたユリウスが、僕の顔を見て目を細めて微笑んだ。ガイウスはカズサを探しに南方へ向かったから、拠点には僕とユリウスの2人だけしか居ない。
「ただいま。ユリウス、屋敷の事を任せちゃってすまない。うん・・・良い事はあったよ」
今すぐにでも自室に駆け込んで、魔法紙を試したくてソワソワとしてしまう。でも、まだ夕刻にもなっていないんだよね・・・夜まで、我慢しよう。
「今夜は僕が夕食の当番だったね。下ごしらえを始めるよ」
「私もここが終わりましたら、お手伝いいたしますね」
勇者になって村を出たばかりの頃は、料理はぜんぜん出来なかった。カズサのご飯が美味し過ぎて、何時まで経っても上手くならなかったよね。
「それも良いわけか。カズサに甘えっぱなしで・・・僕は努力を怠っていたよね」
カズサが居なくなってから、料理の練習を始めた。やっと指を切らずに野菜の皮が剥けるようになったんだよ。
「カズサが帰って来たら、美味しいご飯を作ってあげたいな」
「それでは、今夜は少し複雑な味付けにも挑戦しましょうか」
ユリウスに教えて貰いながら、カズサの好きそうな料理を頑張って作ったよ。魔鳥の肉を衣に包んで揚げたものに、トロリと半熟の卵を掛けたものだ。
「カズサならば、この料理をコメと合わせて食べると思いませんか?」
「きっとそうだね!カズサはコメが好きだから、少し濃い目の味付けが気に入ると思うな」
ユリウスと夕食を食べながら、ポケットに仕舞った魔法紙を指先でそっと撫でた。どの瞬間でもカズサの事ばかり考えてしまう。早く・・・会いに行きたいよ・・・。
カエサル視点のお話です。ユリウスとシズクも、ちょびっと出てきます☆
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