最後の古書店と気になる本。
食後の茶を飲んでから店を出た俺達は、そのまま裏門に向かった。ザランの街を囲うように建てられた、巨大な塀には正門と裏門が有る。正門は旅人や商人達がザランに入る為の門だ。
裏門は何処の街でもそうだが、人の目に触れさせたくないものを通す門だから、普段は開くことが無ぇ。この辺りには、貧しい者や浮浪者が寝転がっていることが多いんだが・・・。
「ザランの裏門は、綺麗だな」
「ええ、今代の王が働けない者も飢えることが無いように、しっかりとした政策を打ち立てていますからね。荒れてはいないでしょう?」
「そうだな」
この国の王は民を大事にしているんだな。浮浪者は居なくて、日常的に使う些細なものを売っている露店が幾つか並んでいるだけだ。
「お、あれが古書店か?」
塀の陰になる場所に、茣蓙の上に数冊の本を並べた店があった。店主の爺さんは商売をする気が無いのか、のんびりと本を読んでいる。
「そうです。扱っている数は少ないのですが、たまに珍しい本を置いている事があるんですよ」
「あなば」
「・・・行ってみようぜ。早く」
俺の勘が言っている。あの店には何か良い本が有りそうだと。飛んで行きたいのを我慢して、ミアを抱き上げて駆け足で進んだわ。
「はい、いらっしゃい」
「爺さん、その手に持っている本を売ってくれ」
「ほほ。これは売り物じゃ無いんじゃ」
「売ってくれ」
「耳の悪い客じゃな。これはお気に入りの本でな・・・」
「じゃあ、複写させてくれ」
茣蓙の上に並べられた本の中にも、面白そうな本は有ったんだがな・・・俺は爺さんが手に持っている本が欲しい。
「貴方・・・無理を言うのはお止めなさい」
クレイアとミアが、呆れた目で見てくるんだが、無視だ。爺さんの手元の本の題を見てみろ。“禁忌と呼ばれる以前の古代魔法解読書”だぞ?!内容が嘘だろうと、作者の妄想書でも、なんでも良いわ。
「俺は、その本が読みてぇ」
「ふむ。この文字が読めるならば、考えようかの」
そう言った爺さんが、手元の本を開いて見せた。
「「・・・・」」
「“愛する者に再び出会う魔法”・・・反魂の術か・・・面白ぇな」
「ほっほ。黒い髪の兄さんには読めるようじゃな。ふむ・・・少し混じっておるのかの?」
長い眉毛に隠された爺さんの目が開いて、俺の目を覗き込んだ。爺さんの黒目の奥に、赤い魔力がチラチラと揺れた気がしたんだが・・・まぁ、今はどうでもいい。
「それで、売ってくれるのか?くれないのか、どっちだ?」
「ほほっ。良いじゃろう。売ってやるわい」
爺さんの言い値が予想よりも安かったからな、俺お手製の回復薬と魔法薬も数本、渡しといた。今直ぐに宿に転移して、買ったばかりの本が読みたいんだが・・・俺にはまだ、やることが有るんだよなぁ。
「よし、クレイアの家へ行くぞ。何処だ?」
「は?行きませんけど?」
「無駄な抵抗は止せ。お前の家に有る物と、俺の魔法薬を交換しようぜ」
「ごういん」
嫌がるクレイアを引っ張って、爺さんの店を後にした。早く、用事を済ませて本が読みてぇ。
「家は何処だ」
「だから、教えませんよ」
「茶ぐらい、ご馳走しろや」
「いや・・・」
「晩飯作ってやるから」
「いや・・・」
なかなか首を縦に振らねぇクレイアを落とすよりも、自力で妖精の郷を探した方が早いんじゃねぇか?妖精の粉は、またの機会でも良いか?・・・考えるのが面倒くせぇな。
「じゃあ、良いわ。今日は解散な」
「・・・勝手な人ですね、貴方は・・・」
クレイアが、何とも言えねぇ表情で睨んでくるんだが、知識欲の前には全てがどうでも良いわ。
「古書店の案内、サンキュな。礼は後日するわ」
「ちょっ・・・・・・べ、別に、後日じゃ無くても良いんですけど?!」
ミアを抱えて踵を返した俺の服を、クレイアが掴んできた・・・。何時なら良いってんだ?
「はっきり言え」
「・・・っ」
顔を赤くしたクレイアが、モジモジして日時を言わないのが意味わかんねぇ。物事をズバズバ言う奴だと思っていたんだがな。
「カズサ、にぶい」
「ああ?」
「ミア、つかれた。クレイアの家でやすみたい」
「よ、幼女がそう言うなら、仕方がありませんね。私の家に招待しますよ」
ミアがクレイアの手を掴んで甘えれば、あっさり家に招待されたんだが・・・。まぁ良い。市場で食材を仕入れて、クレイアの家に3人で向かった・・・。
急に気温が上がってきましたが、いかがお過ごしでしょうか?今日はすごく暑かったですね^^;
カエサルが全然出て来なくて、忘れてしまいそうなので、そろそろカズサを戻したいところです。
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