表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/89

古書店の白鼠。

乗合馬車が着いたのは、通行人が多くて賑やかな通りだった。王城が目前に見えるからか、王族の姿絵を売っている店が目立つな。あと南方特有の織物とか、土産物屋が多い。

「この国の王族は獣人なんだな」

「今代はそうですね。この国の王は世襲制では無く、数年に一度行われる王位争奪戦で勝利した者がなりますから。種族は一貫していませんよ」

「もふもふ」

「強い奴が王になるとか、分かりやすくて良いな。で、古書店は何処だ?」

「・・・こちらです」

早々に話題を変えた俺に若干呆れた顔をしながらも、クレイアが先に立って古書店に案内してくれた。


賑やかな通りから、1本奥に入った通りに古書店があった。店の周りに植樹をしていて、窓から直射日光が入らないようにしているのか。年季の入ったレンガ造りの、小さいながらに趣のある店構えだ。

「いらっしゃいませ」

店の店主は小柄な・・・何の獣人だ?「白鼠の獣人ですよ」クレイアが小声で教えてくれた。頭の上に小さくて丸い耳が生えていて、尻からは薄桃色の尻尾がゆらゆらと揺れている男だ。

「かわいい、みみ」

「え・・・」

幼女に無表情でガン見されて、もじもじとする様は一部の層の嗜虐心を呷りそうだな。


「店主、そのガキでも読めそうな絵本があったら、見せてやってくれ」

「はい、かしこまりました」

丁寧な仕草で返事をした店主が、ミアに手を掴まれながら児童書の有る方に歩いて行った。

「彼女は、人見知りとかしないのですね」

「ああ?一応、相手は選んでいるみたいだけどな。なあ、この店でお勧めの本ってあるか?」

「そういうのは店主に聞いて下さい。・・・貴方の好みなら、この辺りとか・・・あっちの棚の本も良い物が揃っていますよ」

クレイアが勧めてくれた棚から、店内の本を一通り見ていく。庶民が好む安価な娯楽本から、他国の輸入本や各分野の専門書まで幅広く揃っている。


その中から20冊ほど選んで購入した。内2冊はミアが気に入った絵本も含まれている。これだけ王城から近いと、真っ当な商売をしていそうだが・・・。

「ちなみに、この店に“禁じられた遊びについて記された本”は有るか?」

「・・・いいえ、扱いがございません・・・」

申し訳なさそうな顔で答えた店主の耳は、一瞬ピクリと震えたように見えた。顔が童顔で、目玉がくりっとしているから読みづらい顔だな。


「そうか・・・ちなみに、これは俺が作ったお手製の魔法薬なんだが。紙を傷めずに、消したい汚れだけ拭き取れるんだわ。文字のインクも消えねぇ。どう思う?」

「喉から手が出るほど、欲しいです」

目を輝かせた店主がスッと俺に近づいて、俺の空いている方の手に見た事の無い文様のコインを握らせた。

「“切り裂かれた耳”に渡せば、欲しいものが手に入るでしょう」

そっと囁いた店主が、満面の笑みで両手を差し出した。2つ寄こせってか。店主の小さな両手に俺お手製の魔法薬を握らせて、俺達は店を後にした。


「みつだん」

「難しい言葉を知ってんな。良いか?目に見える場所に無くても、欲しい物はやり方次第で手に入れられるからな。相手が確実に釣れるものを常に用意しておけよ?」

「わかった」

「幼女に何を教えているんですか・・・貴方の魔法薬は、販売はしていないのですか?」

「興味あるか?本に塗っておけば、欲しい時に見つけやすくなる薬とかも有るぞ?」

「・・・欲しいです」

クレイアの前に2種類の魔法薬をチラつかせたら、眉間にグッと皺が寄ったな。簡単に作れる薬だから、タダでやっても良いんだが・・・後の交渉の為に、お預けにしておくか。


「取り敢えず、飯食ってからな。ミアも腹が減ったろ?」

「へった」

「・・・彼方に、私のお勧めの店が有ります。ついて来て下さい」

不満の色が浮かんだ目を伏せて、クレイアが踵を返したから、ニヤニヤしながらついて行く。

「わるいかお」

「あん?見間違いだろうが。良く見てみろよ」

通行人にぶつかりそうになったミアを抱き上げて覗き込むと、小さな手の平に顔を押されたわ。クレイアに追いつくと、ミアがクレイアに両手を伸ばして乗り移っていった。


「俺はカード入りハンバーグ?と香草サラダ。ミアはお子様ランチ?ってので良いか」

「私はシーフードパスタを。それとカンキツ水を3つ下さい」

「かしこまりました」

注文を済ませ、店内を見回した。見た事が無い装飾品が多いな・・・東方系か?料理の名前も変わっていて、備考欄に説明が書いて無かったら、想像がつかなかったわ。


「おお・・・ハンバーグってのは、肉をこねて焼いたって説明書きの通りだな。中に入ったカードが溶けて美味いわ」

「はた。かわいい・・・」

ミアのお子様ランチってのは、1つの皿の上に色んな料理が少しずつ乗ったものだった。トメトで味付けしたコメを卵で包んだものや、小さいハンバーグとサラダに鳥肉を揚げたものまで乗っている。お得感があるな。

「良かったら、こちらも食べてみますか?」

クレイアの差し出した皿を受け取って、ありがたく味見させて貰う。エビや貝類が入った白いソースが濃厚で美味いな。隠し味はカードか?このパスタってやつも柔らかいが、中心部には歯ごたえも残っているな。


「サンキュ、パスタも美味いわ。俺のハンバーグ食うか?」

「えっいえ・・・フォークに刺さった方じゃ無くて・・・わかりました。頂きます」

俺が差し出したハンバーグに、クレイアが食い付いた。「美味しいです」と言って、そっぽを向いた顔が赤いのは何でだ?

「かずさ、たらし。あ~ん」

「ああ?お前の皿にも、同じもんが乗っているだろうが」

見れば、ミアの皿からは既にハンバーグが消えていた。口を開けたまま待機しているミアの口に、仕方なく切り分けたハンバーグを入れてやった。

「うまうま。あ~ん」

「お前な・・・」

俺の分のハンバーグが全部食われそうだから、ミアの口に詰め込みながら、残りは早食いしちまったわ。


今日は強風と雨で、庭の花たちが折れそうで・・・内心ギャア~っとなりながらも、無表情で補強をしました。チーズ入りハンバーグが食べたいです^^

ブックマーク、評価、読んで下さってありがとうございます!とても励みになります^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ