古書店の白鼠。
乗合馬車が着いたのは、通行人が多くて賑やかな通りだった。王城が目前に見えるからか、王族の姿絵を売っている店が目立つな。あと南方特有の織物とか、土産物屋が多い。
「この国の王族は獣人なんだな」
「今代はそうですね。この国の王は世襲制では無く、数年に一度行われる王位争奪戦で勝利した者がなりますから。種族は一貫していませんよ」
「もふもふ」
「強い奴が王になるとか、分かりやすくて良いな。で、古書店は何処だ?」
「・・・こちらです」
早々に話題を変えた俺に若干呆れた顔をしながらも、クレイアが先に立って古書店に案内してくれた。
賑やかな通りから、1本奥に入った通りに古書店があった。店の周りに植樹をしていて、窓から直射日光が入らないようにしているのか。年季の入ったレンガ造りの、小さいながらに趣のある店構えだ。
「いらっしゃいませ」
店の店主は小柄な・・・何の獣人だ?「白鼠の獣人ですよ」クレイアが小声で教えてくれた。頭の上に小さくて丸い耳が生えていて、尻からは薄桃色の尻尾がゆらゆらと揺れている男だ。
「かわいい、みみ」
「え・・・」
幼女に無表情でガン見されて、もじもじとする様は一部の層の嗜虐心を呷りそうだな。
「店主、そのガキでも読めそうな絵本があったら、見せてやってくれ」
「はい、かしこまりました」
丁寧な仕草で返事をした店主が、ミアに手を掴まれながら児童書の有る方に歩いて行った。
「彼女は、人見知りとかしないのですね」
「ああ?一応、相手は選んでいるみたいだけどな。なあ、この店でお勧めの本ってあるか?」
「そういうのは店主に聞いて下さい。・・・貴方の好みなら、この辺りとか・・・あっちの棚の本も良い物が揃っていますよ」
クレイアが勧めてくれた棚から、店内の本を一通り見ていく。庶民が好む安価な娯楽本から、他国の輸入本や各分野の専門書まで幅広く揃っている。
その中から20冊ほど選んで購入した。内2冊はミアが気に入った絵本も含まれている。これだけ王城から近いと、真っ当な商売をしていそうだが・・・。
「ちなみに、この店に“禁じられた遊びについて記された本”は有るか?」
「・・・いいえ、扱いがございません・・・」
申し訳なさそうな顔で答えた店主の耳は、一瞬ピクリと震えたように見えた。顔が童顔で、目玉がくりっとしているから読みづらい顔だな。
「そうか・・・ちなみに、これは俺が作ったお手製の魔法薬なんだが。紙を傷めずに、消したい汚れだけ拭き取れるんだわ。文字のインクも消えねぇ。どう思う?」
「喉から手が出るほど、欲しいです」
目を輝かせた店主がスッと俺に近づいて、俺の空いている方の手に見た事の無い文様のコインを握らせた。
「“切り裂かれた耳”に渡せば、欲しいものが手に入るでしょう」
そっと囁いた店主が、満面の笑みで両手を差し出した。2つ寄こせってか。店主の小さな両手に俺お手製の魔法薬を握らせて、俺達は店を後にした。
「みつだん」
「難しい言葉を知ってんな。良いか?目に見える場所に無くても、欲しい物はやり方次第で手に入れられるからな。相手が確実に釣れるものを常に用意しておけよ?」
「わかった」
「幼女に何を教えているんですか・・・貴方の魔法薬は、販売はしていないのですか?」
「興味あるか?本に塗っておけば、欲しい時に見つけやすくなる薬とかも有るぞ?」
「・・・欲しいです」
クレイアの前に2種類の魔法薬をチラつかせたら、眉間にグッと皺が寄ったな。簡単に作れる薬だから、タダでやっても良いんだが・・・後の交渉の為に、お預けにしておくか。
「取り敢えず、飯食ってからな。ミアも腹が減ったろ?」
「へった」
「・・・彼方に、私のお勧めの店が有ります。ついて来て下さい」
不満の色が浮かんだ目を伏せて、クレイアが踵を返したから、ニヤニヤしながらついて行く。
「わるいかお」
「あん?見間違いだろうが。良く見てみろよ」
通行人にぶつかりそうになったミアを抱き上げて覗き込むと、小さな手の平に顔を押されたわ。クレイアに追いつくと、ミアがクレイアに両手を伸ばして乗り移っていった。
「俺はカード入りハンバーグ?と香草サラダ。ミアはお子様ランチ?ってので良いか」
「私はシーフードパスタを。それとカンキツ水を3つ下さい」
「かしこまりました」
注文を済ませ、店内を見回した。見た事が無い装飾品が多いな・・・東方系か?料理の名前も変わっていて、備考欄に説明が書いて無かったら、想像がつかなかったわ。
「おお・・・ハンバーグってのは、肉をこねて焼いたって説明書きの通りだな。中に入ったカードが溶けて美味いわ」
「はた。かわいい・・・」
ミアのお子様ランチってのは、1つの皿の上に色んな料理が少しずつ乗ったものだった。トメトで味付けしたコメを卵で包んだものや、小さいハンバーグとサラダに鳥肉を揚げたものまで乗っている。お得感があるな。
「良かったら、こちらも食べてみますか?」
クレイアの差し出した皿を受け取って、ありがたく味見させて貰う。エビや貝類が入った白いソースが濃厚で美味いな。隠し味はカードか?このパスタってやつも柔らかいが、中心部には歯ごたえも残っているな。
「サンキュ、パスタも美味いわ。俺のハンバーグ食うか?」
「えっいえ・・・フォークに刺さった方じゃ無くて・・・わかりました。頂きます」
俺が差し出したハンバーグに、クレイアが食い付いた。「美味しいです」と言って、そっぽを向いた顔が赤いのは何でだ?
「かずさ、たらし。あ~ん」
「ああ?お前の皿にも、同じもんが乗っているだろうが」
見れば、ミアの皿からは既にハンバーグが消えていた。口を開けたまま待機しているミアの口に、仕方なく切り分けたハンバーグを入れてやった。
「うまうま。あ~ん」
「お前な・・・」
俺の分のハンバーグが全部食われそうだから、ミアの口に詰め込みながら、残りは早食いしちまったわ。
今日は強風と雨で、庭の花たちが折れそうで・・・内心ギャア~っとなりながらも、無表情で補強をしました。チーズ入りハンバーグが食べたいです^^
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