深層心理の図書室。
昼飯を食い終わった俺達は、それぞれが借りている部屋に戻った。アベルとミアは、俺の1つ隣の部屋だ。
「さて、始めるか」
床に洗浄魔法を掛け、そのまま座り込んだ。木製の人形を床に寝かせて、設計図と刻む術式を描いた紙を並べておく。
「先ずは、各部位に強化と魔力が流れる回路を刻む。ちょうど心臓に当たる位置に、循環の魔法陣と・・・脳の辺りに指令系の魔術式を刻む・・・弱点になりそうな個所に隠匿を掛けとくか」
前に読んだ人形の作り方の本に書いてあった、木製の関節人形を使った傀儡を作る実験だ。試作品とはいえ、半端なものは作りたくねぇ。
背丈は俺くらいの男のボディだ。顔は幻影を掛けて、用途に合わせて変えたいな。攻撃魔法を打たせるには、人形自体に魔法反射を掛けないと自爆するだろ。肉弾戦はさすがに、強化を掛けても・・・様子見だな。
「たしか禁書の中に、傀儡に疑似魂を込める方法があったはず・・・あ~・・・・」
やっちまったな。だいぶ前に読んだから、内容が抜けていたわ。疑似魂を込める為の材料が足りていない。妖精の粉とか・・・持って無ぇわ。
ミドラガルドス国では妖精なんか見た事ねぇ。てか、妖精を俺の目が認識できてねぇだけか?ほぼ空想の生き物だが・・・もしかしたら、エルフの郷辺りに居るんじゃねぇか?
「エルフ・・・そういや、会いに行く約束をしていたか?」
確か・・・図書館に最後に行った日に、クレイアとザランに戻ったら会う約束をしたよな?忘れてたわ。今からちょっと行って、聞いてみるか。床に広げたものを全て鞄に仕舞って、俺は図書館に転移した。
「・・・っ?!貴方!」
「おっと、失敗したか」
利用者が少ない、専門書の書棚の裏を狙って転移したんだが・・・ピンポイントでクレイアが居たんだな。
突然、目の前に現れた俺に驚いたのか、のけ反ったクレイアが壁に後頭部をぶつけちまった。
「すまん」
たんこぶができた個所に、俺お手製の回復薬を塗ってやった。涙目で睨んでくるから、ヨシヨシと撫でておく。
「~~っ撫でられたからって、誤魔化されませんよ!図書館での転移は禁止です!」
「ああ?」
「そ、そもそも!この図書館には盗難防止の為に結界が張ってあるのです!不法侵入者は拘束・・・されていないのは何故ですか?!」
クレイアが俺の胸倉を掴んできた。何故って、そりゃ簡単な話だ。
「結界をすり抜けるのは得意なんだわ」
「得意がる事じゃないでしょう!不法侵入は犯罪ですよ!」
煩ぇな。こいつ・・・ユリウスにちょっと似てるな?規則に囲まれた、四角い生き方だ。疲れねぇのか?
「わかった、わかった。気を付けるわ。そんな事より、お前の休みは何時だ?休館日か」
「軽すぎて信用できないんですけど・・・明日が休館日ですので、私も休みですよ」
「そうか。明日は暇か?古書店巡りと、妖精の粉について聞きたいんだが」
「ちょっ・・・馬鹿なんですか?!妖精の粉・・・は、おとぎ話でしょう・・・」
クレイアが両手で俺の口を塞いできた。苦しいんだが・・・。クレイアの頭を挟んだ両側の壁に手をついて、鼻が付きそうなくらい顔を近づけた。クレイアの見開かれた目を覗き込んだら、困惑と懐疑で揺れているな。
「まぁ、良いわ。明日ゆっくり話そうぜ。何時に何処で待ち合わせる?」
「え・・・?ちょ、朝食後にこの館の前で・・・」
「わかった。明日な」
クレイアの手に入館料を握らせて、強張った頬をするりと撫でておく。用は済んだから宿に帰るか。クレイアの責めるような声が聞こえた気もするが、気にせずに宿屋の自室に転移した。
鞄から茶を取り出して喉を潤すと、俺はベッドに寝転がった。妖精の粉の他に足りない物を頭の中で整理しながら、意識的に眠りに落ちていった・・・。
意識が一旦途切れた後に、ずぶりと泥濘にはまり込む感覚・・・それを過ぎれば、再び意識がはっきりしてくる。目を開けたら其処は、俺の深層心理の図書室だ。
円状の床には知識を司る陣が刻まれている。床を囲む書架は天高く続いていて、見上げても・・・まぁ、天井は見えんわな。ここは昔読んだ本に描かれていた、暗黒の塔を真似したんだ。たぶん、神の国まで届いているかもな。
図書室の中央に置かれたソファーの1つに先客がいた。元・北方の魔術師のシズク・シグレイだ。2つあるソファーの1つは、既にこいつの専用席になっている。
「カズサもお茶飲む?」
「くれ」
シズクが淹れた甘い茶をひと口啜る。甘い・・・後からじわじわと、数種の香辛料の味がやってくる。地味に後を引く美味さだ。
「まだ夕刻前だが、ずっと此処に居たのか?昼夜逆転してねぇか。飯とかちゃんと食ってんのか?」
「出た。カズサお母さん、僕・・・お腹が空いたよ」
シズクがわざとらしい上目遣いで見てくるんだが、腹が減っているのは本当らしい。鞄から紅魚の塩焼きを出してやった。スープとパン・・・サラダも要るか。
「わあ、食べても良いの?え~・・・サラダは要らない・・・わかったよ!食べれば良いんでしょ!」
「好き嫌いせずに食え」
「はあ~い」
眉間に皺を寄せながら、シズクがサラダを食っている。どうも生野菜が苦手な様だ。ここで食っても、実際の肉体の腹は膨れねぇが、意識的な満腹感は得られる。味のイメージだけでも、シズクに紅魚の美味さを教えてぇからな。
「今日は何を読んでいたんだ?」
「ん~?“猫を騙す方法”“意中の相手を永遠に捕まえる罠の張り方”とかだよ」
「そんな本、あったか?」
どっちも、読んだ覚えがない題名だが・・・。
「うん。もぐもぐ・・・。カズサの忘れても良いシリーズの中にあったよ。意味が分からなくて、逆に面白い」
「マジか・・・いつか読み返してみるか」
「そうだね、忘れた頃に読むと面白い本ってあるからね。ね、この魚すごく美味しいんだけど?!」
「今が旬の紅魚だ。アザレの港で獲れたてを焼いたやつだな。もっと食うか?」
「食べる!カズサはアザレに居るの?・・・国境に居たんじゃなかったっけ?」
鞄からもう1つ紅魚の塩焼きを出してやった。お前はどうして、風船みたいに頬を膨らませているんだ?
「ああ?国境でパーティー追放食らったからな、そのまま南方に飛んだんだわ。今はザランの宿屋で寝てる」
何それ、ウケるってシズクが笑った。まぁな、毎度毎度おかしな話だが・・・今回が最後の追放だろう。
カズサにとって、ニコの次にシズクが素で話せて気楽な相手かもしれないですね^^
ガイウスも気楽な相手ですが、仕事仲間の意識の方が前に出るのかな・・・?
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