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手紙配達人ニコの困惑2

昨日は更新できませんでしたので、少し長めです。

俺の名前はニコ。鍛冶屋の息子だ。

姉が親父の弟子を入り婿にもらったから、俺は好きな仕事をさせてもらっている。

2年ほど前に手紙配達人になって、今回は届け先が同郷の幼馴染だったから、先輩に仕事を譲ってもらった。


「カズサ、カエサル、久しぶり!これ、お届け物です」

「ニコじゃん。久しぶりだな~なに、手紙配達人になったのか?」

ずいぶん久しぶりに会うが、子供の頃からの付き合いだ、何の気負いもなく喋れるのが嬉しい。


商家の次男坊だったカエサルが勇者として旅立つ時に、村で唯一の魔法使いだったカズサがお供に選ばれた。

カエサルが、カズサが一緒じゃないと王都に行かないとごねたのは、村で知らないのはカズサだけだ。

「いつから、あんなにカズサに執着し始めたのかね?」

道端に転がる大きめの石を、つま先でグリグリしながら記憶を辿るが、これといった原因は思い当たらなかった。

「まぁ、俺には関係ない話だしな」

うん、面倒ごとは避けて通るのが俺の信条だな。触らぬ神になんとやらだわ。


「ニコ、待たせたな。何ブツブツ言ってんだ?」

「ん?何でもない。たいして待ってないんだけど・・・荷物纏めんの早くない?」

「あ~さっきも言ったけど、追放されんの2回目だし。荷物は普段から必要なもの以外は収納してるから、早いもんだわ」

カズサは背負った鞄をポンポンと叩いてみせた。収納魔法が掛かった鞄は、値段にもよるが通常の数倍の量を入れられる。俺も手紙配達人になった時に支給されたのを使っている。本当に便利なんだよな。


「どんくらい入んの?お前の自作?」

「あ?自作に決まってんだろ。王城の図書室の本は全部入るくらいだな。軽量化も掛けてんぞ」

俺は興味が湧いて、なんとなく聞いてみただけなんだけどな。吃驚したわ。

カズサは村にいた時から魔法が得意だったけど、旅に出てから益々凄くなってそうだな。

「は~どんだけだよ」

「お前にも作ってやろうか?」

マジ?欲しいです。ありがとうカズサ様!


俺が乗って来た馬車を回収して、俺たちは故郷の村を目指した。

王都を出てから村までは、野宿しながら2週間くらいかかる。街道は整備されてるけど、そこそこ魔物も出る。

「なあ、これ新作の魔道具なんだけど、試してみてくれよ」

6本足オオカミに追いかけられている最中、カズサが筒にグリップが付いたものを渡してきた。

「ちょ、え?俺が今、手綱捌いてんの、見えてる?」

「見えてる見えてる。ここの引き金引けばいいから。ニコの魔力でも撃てると思うわ」

「はぁ~?」

俺って魔力あったの?カズサが目で催促をしてくるので、とりあえず撃ってみる。

パンッ!と軽い破裂音が響き、撃ち出された反動に手が震えた。マジか・・・何か出たわ!

「お、右足貫通か。あと3匹な」

「後で詳しい説明頼むわ。うりゃ!」

掛け声は要らねえよ!とゲラゲラ笑うカズサが恨めしい。残りも何とか振り切って、今夜の野宿場所を探した。


「はぁ、疲れた。魔法使いを乗せてりゃ、楽に移動できると思ったんだけどな、余計疲れたわ」

魔物除けの香を焚いていれば、上位種にでも当たらない限りは、追いかけられることなんて無い。

俺に新作の魔道具の試し撃ちをさせる為に、香を焚かさなかったんだな・・・カズサめ・・・

「楽だったろうが。ほら皿出せ、飯だぞ」

食欲を刺激する香りが、俺の怒りを一瞬で消し去る。ほんと、カズサの飯は俺の胃袋を離さないわ。

「はぁ~~~~~美味い。お前が村を出て行ってから、やっと忘れられたと思ったのにな・・・昨日から俺の胃袋は、またお前に捕まれちまった」

どうしてくれんだよ、とぼやく俺にカズサが歯を見せて笑う。意地悪そうに笑うのが、カズサの素の笑いだ。

最後のスープの一滴まで堪能した俺は、ごろりと敷布の上に寝転がった。


「ニコ、腹を冷やすなよ。これ掛けておけ」

カズサが俺の腹に、暖かそうなブランケットを投げてよこした。ちょ・・・気遣いが手厚い。

草を食べていた俺の馬達が、カズサのブラッシングにうっとりしてるな・・・ウサギ型に切られたリンゴルも美味しそうに食べている。あんまりサービスするな。後で俺への馬達の評価が低くなる。

手を洗浄して戻って来たカズサが、茶を淹れている。差し出された茶は、俺の好きな味だった。

「って、うお~いい!こんだけされたら、惚れるわ!」

「はぁ?何言ってんだ?トチ狂ったか、ニコ」

俺の隣に腰かけて(猫舌だからな)フーフーと茶を吹いていたカズサが、眉を顰めて俺を見下ろした。


「いやいや、狂ってないから。カズサ、お前気が利きすぎるんだよ!俺、すんごい甘やかされてんだけど?!」

「昔からこうだろうが。何も変わってねえよ」

いや~?確かに、父子家庭で育ったカズサは、家のことは何でもできた。気も利いたし、料理も上手かった。

「でもなあ、村にいた時より手厚いぞ。嬉しいけどな、これはちょっと・・・男同士だと、甘やかしすぎだと思うぞ?」

「・・・カエサルは、これ以上に手を掛けてるぞ?」

「ああ、カエサルな・・・カエサルの面倒を見てるうちに、そんなになったのか」

商家のお坊ちゃまのカエサルは、家にお手伝いさんもいたからなぁ・・・身の回りの事は何も出来なさそうだな。

「そんなに甘やかしていたら、いつまでたっても自分で何も出来ないままだぞ。もうちょっと放っておけよ」


「・・・あいつはなぁ、俺が何を教えても覚えが悪いし、縫いものなんかは手を血だらけにするしな・・・。茶を淹れれば、鍋が爆発するし、洗濯させれば、服は細切れになるし、剣の手入れをさせれば、どうしてか壁に穴が開くんだよ・・・それからな」

「・・・ああ、わかった。もういい・・・カズサ、俺が余計なことを言ったな」

俺はそっと、カズサの肩を労いの意味を込めて、ポンポンと叩いておいた。頑張った末に、諦めたんだな。

もう、そのまんまでいいよ。俺は話の矛先を変えることにした。


「それよりもだ、さっきの魔道具の話を聞かせてくれよ。ありゃなんだ?」

「お、聞いちゃう?これはなぁ、俺が今作ってる新作の魔道具だ」

カズサはニヤッと笑うと、背負い鞄から魔道具を取り出した。焚火の灯りに照らされて、表面が仄かに黒光りしている。カズサの説明によると、誰でも魔力を持っているものらしく、この魔道具を使えば少ない魔力保持者でも、そこそこ攻撃力のある魔法が撃てるらしい。危ないもん作ったな・・・おい。

「誰にでも魔法が使えたら、魔法使いの価値が大暴落じゃないのか?」

「ははっ。そこが狙い目なんだよ。誰でも魔法が使えるなら、俺が勇者のお供から外れられるだろ?」

「カズサ、お前・・・」

そんなに、カエサルのお供が嫌だったのか!村を出ていくとき、凄く嫌がってたもんな・・・お前は。


「まぁ、今回もカエサルから言い出してくれたからな。俺は勇者パーティから追放されたし、これは必要なくなったわ。ニコにやろうか?」

「マジか・・・う~ん。人の見てないところで、いざという時だけ使えば悪目立ちしないか?う~ん・・・よし。貰っておくわ」

たぶんどっかで、役立ちそうだしな。俺が受け取らなかったら、カズサの奴は適当にその辺に投げるだろうから危険だ。


それから俺たちはいろいろな話をして、肌寒い夜を身を寄せ合って、眠りについたのだった。

確かに寒い夜だったけど、明け方・・・カズサの腕枕に包まれて目覚めた俺は、ドッキドキだったけどね?!


ニコはカズサと家が近いので、子供の頃から親交がありました。

リンゴル=お気づきでしょうが、リンゴです。


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