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ある雨の日のお話。

遠くで雷の音が鳴っている。

今日も雨だ・・・まぁ、ここ何日か雨が続いてるわけだが・・・。

「こう何日も続くと飽きるわ」

土木屋の親父の仕事が休みになれば、俺の手伝いも無くなる。本を読む時間が出来るのは嬉しかったんだが・・・連日の雨で、手持ちの本は何度も繰り返し読んじまったんだよな。

「はぁ・・・早く大人になりてぇな」

親父には悪いが、大人になったら大きな街に行きたいんだよな。永住じゃ無くて、いろんな街を転々として本を読む旅がしたい。


俺は筋肉が薄いから、土木屋は親父の弟子の誰かに継がせればいい。適材適所ってやつだな。

窓にぶつかって流れていく水滴を、ガラス越しに指で弾いた。短く詠唱すれば、水滴が集まって数頭の馬になった。

馬達がじゃれ合って駆ける様を、ぼんやりと眺める。止めどなく降ってくる雨粒を集めて、空想の魔物に形を変えた。村の女共が回し読みしている本に出てくるドラゴンだ。

「ドラゴンは恋愛小説では定番の魔物だよな。王国の姫と騎士、そしてドラゴン」

指をクルクルと回して馬達の上に騎士を乗せ、ドラゴンと戦わせた。まぁ、100対0で騎士の負けだ。そんなに簡単にドラゴンに勝てるわけがねぇ。


「俺なら・・・」

ドラゴンをどうやって倒すか、ブツブツと呟きながら考えていたら、視線を感じた。何時からそこに居たのか、窓の外でポカンと口を開けた奴が・・・ああ?あいつ誰だっけ・・・。

「おい、お前」

「え?!ぼ、僕・・・?」

雨が入らないように窓を薄く開け、目玉が零れ落ちそうなくらい見開いたままの奴に声を掛けた。

「お前、誰だっけ?」

「え・・・認識されてない・・・えっと、僕はカエサル。商屋の・・・」


前半は何言ってんのか聞こえなかったが、商屋の息子ってのはわかったわ。店で見かける兄貴と色味が似てるな。

「ああ、わかった。お前の店に本は入ってきてないか?」

新しい本を手に入れるには、この村で唯一の商店に本が入荷するのを待つしか無ぇ。期待半分で聞いたんだが、答えは残り半分の方だったわ。

「えっと、本は入ってきてないかな」

「だよな」

「あ、でも・・・この連日の雨で、街からの行商人が来るのが遅れているから・・・次の商品の中には有るかもしれないよ?」


「そんなこと言って、俺の期待が裏切られたらどうしてくれんだ?」

「え?!」

俺の意地悪な問いかけに焦ったカエサルが、オロオロとしながら返事が出来ずに黙り込む。商屋の息子にしては、頭の回転が遅いな。まぁ、これは完全に俺の八つ当たりなんだがな。

ピシャーン!ゴロゴロゴロッ・・・と遠方の空に雷の柱が立った。後を追うように大地を割るような轟音が響く。

「うにゃあわあああ?!」

カエサルが雷に驚いたのか、ビクッとしてから猫みたいに飛び上がった。何だ、今の動き・・・。


「ブフッ・・・ククッ・・・今の、もう一回やってくれ」

「わ、笑った・・・可愛い・・・」

「あ?何て?」

「い、いや!何でもないよ!!・・・僕、もう帰らなきゃ」

何故か顔を赤くしたカエサルが、逃げるように走り去って行った。変な奴だが、さっきの変な動きを思い出せば、暫くは暇つぶしになるかもしんねぇな。


*************


「っていう事が、昔あったんだよ。ね?カズサ」

「ああ?覚えてねぇな」

「酷い。確かにあの後、僕と会ったのに・・・まるで、その日初めて会ったみたいな顔してたよね?」

ああ?カエサルが俺を責めるような目で見てくんのが、意味不明だわ。

「知らね。ガキの頃なんて、皆同じ顔してんだろうが。いちいち覚えてられっか」

「酷い。幼少期のカエサル様が、その辺の子供と同じなわけ無いでしょう?!」

俺の焼いたクッキーを摘まんでいたユリウスが、カエサルと同じように俺を睨んできたからな、頬っぺたを摘まんでやろう。いい加減、カエサル信者から卒業しろ?


「いひゃいれす・・・!」

「こら、ユリウスを虐めんな。ちょ・・・力を強めんな?」

ユリウスの空いてる方の頬も摘まんでやったら、ガイウスに両手首を掴まれて、万歳させられた。これ止めろや。

「ニコの名前は憶えていたくせに・・・ズルい」

カエサルが小声でブツブツ言ってるが、俺には関係ねぇ話だろう。遠くで雷がゴロゴロと鳴っている。空が一瞬ピカッと光った後に、雨脚が強くなってきた。

「はぁ・・・いい加減、帰るか」

「そうだな。撤収するか」

俺が溜息を吐きながら立ち上がると、他の3人も茶のカップや地面に敷いた敷布を片づけ始めた。討伐後に疲れたから茶を飲んでいたんだが、急に雨が降ってきたから結界張って、カエサルに昔話を聞かされたのが謎時間だったわ。


「ふぅ・・・あの頃は名前も存在も覚えて貰えなかった僕が、今はカズサと一緒に居れるなんて幸せだよ」

「カエサル様、良かったですね!」

「ああ?」

「良かった、良かった」

ガイウスが筋肉で重い腕で、俺の肩に負荷を掛けてきやがった。反対の腕はカエサルの肩に乗っかっている。暑苦しいわ。


俺が結界を解こうとした時、ピシャーンッゴロゴロゴロッっと結界の真上の空で、雷が爆ぜた。雲の切れ間から見えた稲光の形が何か・・・。

「「ドラゴン・・」」

「ああ?」

「ふふっ・・・ドラゴンみたいだね、カズサ!」

俺と声が被ったカエサルが、何が嬉しいんだかヘラヘラと笑ってやがる。赤くなったその顔が・・・何か、薄っすらと・・・朧げに?昔見た事があるような気も・・・しねぇか。

ちょっと箸休めで、久しぶりに4人のお話しです^^今日は雨の日だったので、雨のお話。

バラバラになっちゃってるけど、やっぱり・・・この4人の掛け合いが好きです。

ブックマーク、評価、読んで下さってありがとうございます!嬉しいです^^


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