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閑話 アベルとミア。

訳あって生まれ育った郷を捨てた俺がミアに出会ったのは、ミアがまだ乳飲み子だった頃だ。街道を逸れた森の中で野盗にでも襲われたのか、壊れた馬車の周りで倒れる人間達の死体の中に、隠されるようにミアが居た。

初めは人里にでも置いて来ようと思ったが・・・気が付けば5年もの間、連れて旅をしてしまった。

「クッ・・・」

魔牛の変異種の群れに取り囲まれた時も、俺一人ならば容易く逃げられた筈だった。手を引いていたミアが転んだのだ・・・ミアに襲い掛かる魔牛たちを切り伏せた後、隙をついた死にかけの魔牛に腹を貫かれた。

間抜け過ぎて自分で自分を嘲けて笑った・・・。ミアは重荷だ・・・俺の足枷。それでも愛しい俺の子だ。


「アベル・・・くすり飲んで」

「っ・・・いや、寝ていれば大丈夫だ」

魔牛の角は俺の心臓に突き刺さったままだ。このままでは、毒に侵されて死に至るだろう。ミアが差し出すポーションが効いたのは、初めのうちの数本だけだ・・・。

人目を避けてこの廃屋で動けなくなってから、何日経っただろうか・・・ミアだけでも、何とか・・・。

「アベル・・・おきて・・・アベル・・・」

遠くでミアが呼んでいる・・・起きなければ・・・。


『ふぅ・・・おら!』

・・・ぐっ?!!男の声が耳元で聞こえたと同時に、心臓に激痛が走った。あまりの激痛に、強制的に意識が浮上する。心臓から流れ込んできていた、不快な魔力が消えた・・・。代わりに、もの凄く痛いんだが・・・。

男が何か魔法を掛けた様だ・・・水音・・・これは回復薬の匂いか・・・?

『速度強化Snelheids verbetering』

男の声が呪文を唱えると、傷口を焼くような痛みが少しずつ和らいでいく・・・。ここで漸く、男が俺を治療してくれていることがわかった。最初の激痛が痛すぎて・・・正直、ちょっと恨みがましくも思ったが。


冷たいものが俺の唇に押し当てられた。回復薬の匂いだ・・・意識はあるが、俺の体はまだ動かない。瞼も開かないし、口を開けることも出来ない・・・。口の端を液体が流れる感触の後に、それを拭われた・・・?!

ミアのものじゃない少し骨ばった指が、俺の口内に無理やり入ってきたぞ?!口の中に指を入れたまま、回復薬を流しいれてるのか・・・っ・・・また!俺の口内を無遠慮に撫で回しやがって・・・。

「何してるの?」

ミアの声がする・・・側に居るのか・・・聞いたことが無いくらい、刺々しい声だが、何があったんだ?

「見てわかるだろうが。回復薬を飲ませてんだよ」

「・・・・」

何だ・・・この沈黙は。俺の口内に違う味の薬を塗りつけていた指・・・おそらく魔法使いの男の指だろう・・・が少しイラついているのが伝わってきた。



『出来ることは全てしたぞ。後は自然に起きるまで寝かせとけ』

男の手が俺の髪を払い、額に触れた。先程とは違い、随分優しく触るんだな・・・。薬草の匂いに混じって、たぶんこの男自身の匂いがした。少しの甘さと古い紙の匂いだ・・・。

男の手が離れていくのが少し寂しい。重い瞼を持ち上げて、薄く開いた。ミアの側に立つ、細身の男・・・黒髪、黒目の・・・まだ青年に成りきれていない年頃だな・・・。

どうやら彼は、俺とミアを綺麗にしてくれただけじゃなく、食べ物まで置いていってくれたようだ。何て優しいんだ・・・。礼が言いたいが、声はまだ出せない・・・もう少し回復したら、彼を探して礼を言おう。

重くなってきた瞼を閉じて、俺は意識を手放した・・・。


「・・・はぁ~・・・っ」

呼吸が楽になり、深く深呼吸をすると意識が浮上した。俺を覗き込んだミアが笑っている・・・。名前を呼んでやりたいが、喉が酷く乾いて上手く声が出せない。

「アベル、みず」

上半身を起こして、ミアが差し出した水筒を受け取った。水が喉を潤していく感じが心地良い。半分ほど飲み切ると、力まなくても声が出せそうな気がした。

「ミア・・・長い間、1人にしてすまなかった。だ・・・」

大丈夫だったかなんて、保護者失格な問いを言い切る前に、ミアが俺の胸に飛び込んできた。


「さみしかった」

「ああ、すまん」

普段あまり感情を出さないミアが、涙で濡れた目を俺の胸に擦りつけた。撫子色の髪をそっと梳いてやる。背中を痛くないようにポンポンと叩けば、ミアは両腕の袖で涙を拭い取った。

「アベル、ご飯があるよ。たべて」

ミアが運んで来たのは、甘辛く味付けした燻製肉と葉野菜を挟んだパンと、まだ温かいスープだ。食べてみると、どちらも凄く美味い。

「美味いな・・・ミアは食べたのか?」

「うん。おかわり、あるよ」

倒れてから数日ぶりの食事だが、男が飲ませてくれた回復薬が効いたのか、俺の胃は痛むことなく腹いっぱい食べる事ができた。


「ミアは、俺を助けてくれた彼の名前を聞いたか?」

「きいてない。でも居るばしょ、しってる」

「そうか。じゃあ明日、会いに行ってみるか。助けてくれた礼が言いたいからな」

コクリと頷いたミアを抱き寄せて、構ってやれなかった数日分、甘やかすことにした。腕の中で安心したミアが眠るまで、俺はゆらゆらと揺れていたんだ・・・。

この世界に魔法瓶なんて無いですが、カズサが保存の魔法を掛けているので、魔法瓶の完成です!

アベル視点でのお話しでした。

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