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頂きますと、ご馳走様。

お互いの事を幾つか質問している間に、昼飯時になった。そろそろ双子の筋肉の家に向かうか。

「俺はこれから昼飯を食いに行く。お前らも来るか?」

紅魚は食い放題だからな、男1人と幼女が1人増えても問題無いだろう。

「いく」

「良いのか?カズサが良ければ、一緒に居たい」

「ん?良いぞ。ついて来い」

アベルの言い回しが妙だったが承諾すると、左目がチリッと焼けるように熱くなった。「痛っ」痛みを感じたのは一瞬だったが・・・こいつ、俺に何か術を刻んだのか?


アベルを睨みつければ、ニコニコと笑ってあっさり吐きやがった。

「カズサが一緒に居て良いって言ったから、従属の契約を結んでおいたぞ」

「ああ?・・・・どっちだ」

「もちろん俺が、カズサに跪く側だ。優しいご主人様は俺達を見捨てないよな?」

アベルが俺の右手を掬って、手の甲に口づけた。獣人の服従は心臓(いのち)を主に差し出す行為だ。一生に1度だけ、取り消しは効かないって、何かの本に書いてなかったか?そんなもん重いわ・・・。


「俺達って、そのガキもついてくるのか」

「もちろんだ。この子は俺の輝ける星だからな」

あ~・・・そうかい。幼女趣味の獣人か?外見的な特徴では親子っぽくはないが、まぁ俺の知ったこっちゃ無い。

「アベルが決めた。カズサについていく」

「お前は・・・もう良いか、考えるのが面倒臭ぇ。取り敢えず昼飯を食いに行くぞ」

結んじまったもんは、しょうが無ぇ。邪魔になったらアベルを殺せば良い話だが・・・俺に気づかせずに従属の魔法を刻んだあたり、アベルの方が俺より魔力が多いって事なんだよな。簡単には殺れねぇよな。


頭が痛くなる案件だが、今はもの凄く美味い紅魚の方に、意識が持っていかれてんだわ。

漁港から少し離れた所に双子の筋肉の家があった。そこでは既に、幅広い網を乗せた焼き場が作られていた。

「「来たか、何時でも始められるぞ!もう焼いても良いか?」」

「おう、頼むわ」

「カズサさん、ようこそいらっしゃいました。こちらの大きい方と、小さい方はお友達ですか?」

なぜかギルド職員もいて、双子の筋肉の手伝いをしている。ああ?あんた、双子のはとこだって?似てねぇな。

「こいつらは・・・俺の・・・出来たばかりの連れだ。一緒に食わせても良いか?」

「「「はい、喜んで~!」」」

あ、今の感じは何か似てたわ。双子の筋肉とギルド職員は、俺が来る前に酒を飲んでいたらしい。


「いやあ、準備をしながら昨夜のオオタコの話をしていたらな、盛り上がっちまって」

「ちょっと一杯のつもりで、結構飲んじまったよ!」

「私も2人から魔法使い様の活躍を聞いていたら、お酒が進んでしまいました!」

双子の筋肉とギルド職員が、酔っぱらいながらも手際よく紅魚を網で焼いていく。目の前で焼いて、焼けたら皿にどんどん乗っけられるスタイルだ。さっそく頂くか。

「おら、骨取ってやったぞ。急いで食って、火傷すんなよ」

「ありがと」

魔法で紅魚の”骨抜き“をして、ミアに渡してやる。自分の分と・・・止めろ、でかい図体で甘えても無駄だ・・・ちっ。ついでにアベルの骨も取ってやったら、頭を撫で回された。主従関係はどうした。


「カズサ、優しいな」

「うるへぇ。熱っ・・・黙って食え」

お喋りしている暇なんかねぇぞ。何だこりゃ・・・普通の紅魚だって十分に美味いんだが、こりゃ別もんじゃ無ぇか。

滴る脂が美味いし、表面はしっかりした弾力があるのに、噛むとほろほろと口の中で溶けていく紅魚の身が、永遠に食えるんじゃねぇかってくらいに美味い。

「・・・すげぇ美味いわ」

「おいしい」

「お代わりしても良いか?」


俺達はそこから無言で、紅魚を食いまくった。ミアにはレモネの入った炭酸水を渡し、俺とアベル(ついでに筋肉たちにも出した)は東方の穀物から作った酒を飲みながら、腹がパンパンになるまで食った。

「はぁ・・・食った。俺史上、こんなに魚を食ったことねぇわ。これは生で持ち帰りもできるか?」

「まだまだ沢山ありますからね、いくらでも持って行ってください!」

「「他にも色々あるからな、遠慮なく持って行ってくれ!」」

オオダコが居なくなったことで、このもの凄く美味い紅魚の漁が解禁になって、町の住人達が喜んでんだと。紅魚の他にも地酒とか、この辺でしか取れない薬草なんかも住民からの謝礼品で集まってきたらしい。

「この薬草使って香草焼きとか美味そうだな」

「「「「ちょ、それはどういう料理だい?!」」」」


「食うか?」

「くう」

ミアが無表情で涎を垂らしながら、俺を見上げた。食いたいんだな・・・?

貰った薬草を細かく刻み、乾燥させたパンを削ったものと合わせておく。紅魚の切り身に塩コショウを振り、香草パン粉をまぶす。双子の筋肉に網と鉄板を取り換えさせて、その上に植物油をひいた。

切り身を鉄板に乗せ、片面がカリッと焼けたら裏返す。ここからは油断はできねぇ。

「魔法使い様、何て真剣なお顔で・・・」

「「とても料理をしてるだけの顔じゃねぇな!」」

外野がやんややんやと煩ぇが、無視だ。ジュウッと脂が跳ねる音に、衣がカリカリと焼けていく音・・・身がふっくらとなった瞬間に、皿に移動だ。焼き過ぎは紅魚の死を意味する。


「食え」

「「「「いただきます!」」」」

「・・・ます」

俺も片づけは後にして席に着いた。美味いもんの寿命は短ぇ。熱いもんは熱いうちに食え、親父の教えだ。

「「「うんっま?!!」」」

「あ、凄く美味い」

「おいしい」

目の端では双子の筋肉とギルド職員が頬を染め、悶えているが無視だ。俺の両隣りから抱き着いてくる、デカいのとチビも今は無視だ。俺は香草焼きをひと口大に切り、口に放り込むという崇高な儀式の最中である。


「美味」

「「「な?!」」」

「カズサ、もしかして酔ってるのか?」

「よっぱらい」

口の中で広がる紅魚と香草の舞踏会・・・いいや、そんなお堅いもんじゃねぇ。この時期だけの命の祭典、そう地元民だけが楽しめる収穫祭・・・そこでしか味わえない感謝のご馳走だ。

最後のひと切れの余韻が口の中で溶けて消えた時、俺は無意識に手を合わせていた。


「ご馳走様でした」

「「あ、寝たな?」」

「安らかな顔でまあ・・・」

「カズサ、結構飲んでいたんだな・・・」

「やすらか」

ふわふわした暗闇の向こうで何か聞こえるが・・・もう知らん・・・。

のんびり旅のついでに、人を垂らし込むカズサでした。「頂きます・ご馳走様」と言葉に出すと、生産者、料理してくれた人、私の糧となってくれる食べ物への感謝がはっきりと感じられて良いですね^^

今回はカズサは良い気分で酔って、普段しないこともしちゃっております^^;

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