オオタコを獲りに行こう。
腹も心も満たされて食後の茶を啜っていると、双子の筋肉がやって来た。はぁ~面倒臭ぇが、報酬の為に頑張るか。
「「迎えに来たぜ!さっそく行くか?」」
「ああ」
宿屋から漁港までは歩いて直ぐだ。双子の筋肉の船は、小ぶりだが何か頑丈そうだな。
「「ところで、あんたの名前は何ていうんだ?」」
「俺はカズサだ」
「良い名前だな!俺はグリスだ」
「俺はグラスだ、よろしくな!」
「・・・おう」
残念だが顔の見分けがつかねぇから、名前を憶えても迂闊に呼べねぇわ。双子の筋肉の片割れが船を出して、もう片割れが俺に目隠しをした。秘密の漁場に行くからな、仕方ねぇか。
暫く船に揺られて進むと、波の揺れが強くなった気がした。そろそろ目的地に着くのか?
「「もう直ぐ漁場につくぞ!海が荒れてるから、今夜もオオダコが出てるぞ」」
「お~了解。もう目隠し取って良いか?」
「いいぞ。俺が取ってやる」
「船はギリギリまで近づけるか?カズサは細っこいが・・・剣士なのか?」
「誰がガリガリだ。船はオオダコが見えるとこまでで良いぞ」
「「よしきた!・・・無理はしなくて良いからな?」」
双子の筋肉の期待度の低さよ。船が停泊した先に、闇夜よりも黒い山が海面から出ているのが見えた。あれがオオタコか。魔物図鑑でしか見た事ないが・・・デカいな。
「オオタコは食えるのか?」
「「普通のタコは食えるが、ありゃ100年は生きてるからな・・・美味いかはわからん」」
どうやらオオタコは100年周期で、この辺の海に現れるらしい。普通のタコが魔物化したのか・・・まぁ、どうでも良いか。
じゃあ、サクッといきますか。先ずは正確なデカさが見たいから、光魔法でオオタコの周囲を照らす(ついでに目潰し。)
「光あれ!light!デカいな・・・掬い上げろ!Sie schninnen!」
「ギイギャアアアアアア!!!」
光魔法を嫌がって暴れるオオダコを、土魔法で海中から掬い上げた。吸盤と棘がついた触腕を振り回して、土の壁を叩くが壊れるほど軟じゃねぇ。牙が生えた口から、耳を劈く悲鳴を上げるのを止めろや。
「氷の楔よ穿て!ice Wedge!」
鎖のついた氷の楔を穿てば、オオダコは直ぐに動かなくなった。浮遊魔法を掛けて、このまま港まで運べば良いな。
「終わったぞ」
「「いやいやいやいや!!!何だぁ?!今のは!!」」
「ああ?何って、何だよ?」
双子の筋肉を振り返ったら、間抜け面でポカンと大口を開けてやがった。直ぐに再起動して詰め寄って来たがな。
「ピカッ!って光って、ドーンって持ち上がっただろ?!」
「その後、グサ~ッ!って刺さって、今は浮いてるんだが?!」
「「俺達は夢でも見てんのか?!」」
「煩ぇ・・・。両側から叫ぶんじゃねぇ!魔法くらいで何だっつうんだよ」
「「魔法!!あれが魔法かあ!!すげぇもん見たわ!!」」
目を喜色で輝かせた双子の筋肉が、俺を両側から掴んで離さねぇ・・・良いから、船を出せ。港に戻れ。
「俺は早く戻って、本が読みてぇ。このまま騒いでんなら、このオオタコをこの船にぶつけるが良いか?」
「待て!今、出すから!!」
「悪魔か!ちょっと待て!」
双子の筋肉が慌てて船を出した。町に戻るまで目隠しをするか聞いたんだが、魔法でオオタコを持ち上げてるから、そのままで良いってよ。別に目隠しされたくらいで、魔法をミスったりしないがな。
町に戻ってギルドまでオオタコを運んだんだが、宙に浮くオオタコを見て腰を抜かす奴が続出した。この町の住人は魔法を見た事が無い奴が多いみたいだな。
「「「「ありがとうございました!これで漁が再開できます!」」」」
落ち着きのないギルド職員をはじめ、ギルドマスターまで出てきて礼を言われた。大袈裟すぎるわ。
「成功報酬は如何なさいますか?」
成功報酬のもの凄く美味い紅魚は、食べ放題でも良いし、生の状態で貰う事もできるそうだ。基本的に市場に出さないで、町の住人達だけで楽しむ季節のご馳走なんだとか。
「そうだな・・・食える分だけ焼いてもらって、生の紅魚も幾つか持ち帰りたいんだが、良いか?」
「大丈夫です!では、そのように手配しておきますね!」
「「カズサ、ありがとうな!俺達が美味い紅魚を沢山獲って来るからな!」」
「おう、楽しみにしてるわ」
双子の筋肉とギルド職員に手を振って、俺は宿に帰った。紅魚の食い放題は、明日の昼時の約束だ。今日は本を3冊読んだら、明日に備えて寝るとしよう・・・。
オオタコの炭だけ、ちょこっと貰いました。いつか自作のインクの材料になるのかな?
タコは港町ではたまに売られていますが、ミドラガルドス国では見かけません。
明日は更新できるかな・・・?明後日かもしれません^^;
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