幼女に絡まれる俺・・・。
ザランを出発して馬車で2日、俺は海岸沿いの港町アザレに降り立った。
「かぁ~・・・尻が痛ぇ」
安い乗合馬車の座り心地は最悪だ。硬い木の座席に自前の座布団を敷いたが・・・効果は薄く、俺の尻は悲鳴をあげているわ。俺は鞄から取り出した、お手製の回復薬を呷って息を吐いた。
「かぁ~・・・効くぅ!」
「そんなに効くの?」
「あん?」
完全回復で機嫌の良い俺の足元から、ガキの声がした。下を向けば何時の間に近づいていたのか、髪を両サイドに結い上げた幼女が俺を見上げていた。
「おじさんのお薬は、そんなに効くの?」
「くっ・・・」
おっさん呼ばわりされたほうが、地味に効くわ。主に自尊心とかその辺にな?
「俺はおじさんじゃねぇ。俺が作った薬が効かないわけもねぇ」
「ふ~ん」
幼女は自分から聞いておいて、興味無さそうに返事をした。なんだっつんだ。はぁ~・・・ガキは放っておいて、宿でも探すかな。
「おじさん待って」
歩き出した俺の手を、幼女の小さい手が掴んだ。そのままグイグイと俺を引っ張って行こうとすんの、何なわけ?怖いんだけど・・・周りから見て、大丈夫か?誘拐犯とかに見られてねぇよな?
「こっち、こっち来て」
「何処に行くつもりだ?俺は忙しいんだが・・・」
周囲を見れば、思ったより注目されて無ぇから良かったわ。振り払うわけにもいかねぇし、幼女に引っ張られるまま歩いて来たんだが・・・気が付けば人気の無い路地裏の、更に奥の廃屋前に連れて来られてたわ。
「何、これから身包み剝がされる感じか?」
幼女を使った新手の追いはぎか何かか?俺の呟きを無視して、幼女は廃屋の中に入って行った。扉の無い歪んだ入り口を潜り抜け、倒壊しかかった壁板を跨いで進む・・・。
着いた先は、大人が1人寝転がれるくらいの広さしか無い場所だ。日の光が届かず薄暗いそこに、1人の男が横たわっていた。
「助けて」
道中ずっと黙っていた幼女が、俺を見上げて小さな声でそう言った。この男を助けたくて、俺を連れて来たのか?
「俺の回復薬は高いぞ?」
そもそも売って無ぇが、大金払っても買えねぇ代物だぜ?俺の意地悪にも動じない幼女が、言葉を繰り返す。
「助けて・・・おじさん」
「おじさんじゃねぇわ。お兄さんだろうが」
5、6歳ぐらいのガキからしたら俺もおじさんに見えるかもしれ無ぇが・・・俺は正真正銘まだ若い。
「・・・お・・・兄さん・・・助けて。あの人、死んじゃう」
幼女が砂でも吐き出してんのかってくらいに、苦渋の顔なんだが・・・そんなに嫌か?俺をお兄さん呼びすんのは苦痛か?
「はぁ・・・わかったよ。助けてやるよ」
俺は横たわったまま、目を覚まさない男の側にしゃがみ込んだ。覗き込んだ顔は蒼白で息が浅い・・・けっこう重症だったか。
「この男は病気と怪我どっちだ?」
「・・・怪我。お腹に・・・」
幼女が指差した場所は腹じゃねぇ。男のシャツを捲り上げると、心臓に何か黒くてデカいモノが突き刺さってんだが・・・。
「何だこりゃ・・・」
アザレに紅魚を食べに来たはずのカズサが、幼女に絡まれる回です。構想を練る前に、書きながら勝手に進むキャラ達を制御している感じです。蒔いた布石は何とか回収したい・・・それだけを忘れずに頑張ります^^;
ブックマーク、評価、読んで下さってありがとうございます!嬉しいです^^