その頃、国境の砦では・・・。
「カズサ!お前はこのパーティーには必要ない!今すぐ出て行ってくれ!!」
カエサルがカズサを追放した途端、スバルトフレム連合国の勇者達にかっ攫われちまった。
「・・・くそっ」
掴みそこなって、伸ばしたままの手を握りしめた・・・いや、落ち込んでいる暇は無えな。砦の中では両国の騎士達が、剣を手に睨み合いを始めているからな・・・。
「これはどういう事ですかな?」
辺境伯が静かだが低い声で、使節団の代表エンブレフトに問いかけた。おいおい、文官相手に威圧をかけたら可哀そうだろうが。
「この状況では信じがたいでしょうけれど、私にも・・・どうしてこうなったのか、わかりません!」
「戯言を・・・んむっ」
「皆さん落ち着いて下さい!アインスバッハ辺境伯、エンブレフト様もどうか・・・落ち着いて話し合いましょう」
アズールが止めなければ、ヨハネストはエンブレフトを切り殺していたかもしれないな。アズールが俯いたままのカエサルをチラッと見て・・・俺の方に目線を寄こすから、取り敢えず頷いておいた。
「カエサル様・・・皆さん別室に移動されるようです。私達も行きましょう」
ユリウスがそっとカエサルの背中を押して、移動を促す。はあ・・・この騒動を引き起こした奴が落ち込むなよ・・・。
国内で済む喧嘩なら、いくらでもやりゃ良いと思っていたが・・・今回はさすがにやり過ぎだ。
顔合わせで使った応接室には、何とも言えない緊張感が漂っている。カズサは国と専属契約は結んでいないが、ミドラガルドス国にとっては国内唯一の魔法使いだもんな・・・手放したくなかっただろう。
カエサルの癇癪(たぶん嫉妬)で国王からの任務を中断しているばかりか、国同士の諍いを引き起こすのは・・・非常に不味い。
辺境伯とヨハネストは威圧を垂れ流しだし、使節団の代表は困惑して真っ青だ。ユリウスを見れば、きりっとした顔で頷いてきた。
「ご提案がございます。この問題を荒立てず、最小限の被害で収束させるには“魔法使いカズサが自らの意志で国を出た”事を実証しなければいけないでしょう。現段階では、スバルトフレム連合国の勇者達に誘拐された・・・と疑われても仕方ないですよね?」
「なっ?!それは・・・誤解です!」
エンブレフトの顔色がいよいよヤバい。ちょっと震えているしな・・・。
「はい!カズサ様は誘拐された・・・っ!」
「お前は黙っていろ!」
壁際に待機していたヨハネストが一歩前に出たのを、アズールが押さえつけている。それを見たスバルトフレムの騎士達が剣の柄に手を伸ばした。
「話はまだ終わっていませんよ。両国の不和は誰も望んでいないでしょう?そこで、先ほど見た事は無かった事にしませんか?」
「「「「は?!」」」」
「・・・どういう事ですか?」
ユリウスの提案に、応接室に居る者たちに動揺が走った。ヨハネストとカエサルだけは、今にも切り殺しそうな目でユリウスを睨んでいる。泣きそうだから止めてやれ。
「あ~・・・つまりな?スバルトフレム連合国の皆さんは、予定通りに王都に向かって欲しいんだ。カズサの件は俺達の問題だから、こっちで何とかする。」
国王からの任務放棄で処罰されるかもしれねえが・・・カエサルが使節団を王都まで送り届ければ、ギリギリ任務達成だ。温情が期待できる。
「ミドラガルドス国としては、予定通りの進行に異議は無い。しかし、魔法使いカズサ殿が南方に渡った経緯については、王に報告させて頂く」
アインスバッハ辺境伯が毅然とした態度で了承してくれた。やっぱ、王にはチクられちまうか。
「我が国としても、予定通りに貴国を訪問できるならば異議はありません。・・・王に勇者達の件は報告致します」
エンブレフトが安堵の溜息をついた。胃を押さえて痛そうだ・・・このおっさんは完全にとばっちりだな。
「カエサル、お前は使節団を連れて王都に戻れ。俺は南方に向かう。・・・ユリウスは?」
「そうですね・・・私はカエサル様と王都に戻ります。ガイウス、カズサの事を頼みましたよ」
「・・・う」
「「ん?」」
ずっと黙っていたカエサルが何か言ったが、聞き取れなかった。
「僕も行く!カズサを取り返す!」
いやいや・・・そもそもの原因はお前だからな?俺は出かかった言葉を飲み込んだ。最年長の俺が上手く纏めないとな・・・。
「勇者は外国に渡れない決まりだろう?それに俺達は王からの任務遂行中だ。・・・義務を投げ出すな」
「そんなの関係無いよ!」
子供の癇癪みたいに、首をいやいやと横に振ったカエサルが聖剣を抜いた。バカ!本当にバカ!!
「アズール!話は終わった、皆様をここから連れ出せ!!」
「わかりました!」
アズールが辺境伯と使節団を部屋の外に押し出した。応接室に残ったのは俺達3人とヨハネストだけだ。
「カエサル、剣を納めろ。ここで暴れたら状況はもっと悪くなるぞ」
「・・・其処どいて。ガイウスでも、僕の邪魔をするなら切るよ?」
殺気を纏ったカエサルが、地の底から響くような声で俺を脅すんだが・・・完全に勇者失格な顔をしているぞ。
「カエサル様!国に忠誠を誓っていないとはいえ、王命を反故にしてカズサは国を出ました。カエサル様まで南方に行かれては・・・カズサは反逆罪で追放・・・はもうしてるから・・・最悪死刑になりますよ!」
うちの国の王はけっこう気が長いから、死刑まではしないと思うがな。カエサルの目が揺れてるから、もう一押しかな。
「任務をきちんと終わらせれば、カズサは罪に問われないかもしれないぞ?」
な?っとヨハネストに振れば、微妙な顔をしたが俺の意を理解してくれたようだ。
「カエサル様にしか、カズサ様の名誉は守れないかと思います!このままでは国を捨てて他国に渡った、悪い魔法使いとして・・・くっ・・・民からも憎まれるかもしれません・・・っ」
嘘でもカズサを悪く言いたくないんだろうな・・・ヨハネストが口端から血を流してまで乗ってくれた。助かるわ。
「カズサ・・・」
カエサルが聖剣を握った手をだらりと下ろした。やっとわかってくれたか。何だかんだ言ったが、これはカエサルへの罰だ。今回は本当に、多方面に迷惑かけ過ぎだからな?!
「俺がカズサを連れ戻すから、カエサルとユリウスは良い子で留守番してろ。な?」
「・・・わかった」
「ふう・・・ガイウス、気を付けて行って来て下さいね」
「おう!」
こうして俺の南方一人旅が始まった。ここ何年かは国を跨いだ仕事はして無かったからな・・・おっちゃん、ちょっと心配だわ。
カズサがハイネコ達と一緒に、南方に転移した後のお話でした。
ヨハネストはガイウスについて行こうとして、アズールにこっぴどく怒られました^^;
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