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面倒な噂を持ち込む猫。

「おら、舌出せ。赤くなってんな・・・」

「やめっ・・・あっ」

クレイアの顎を持ち上げて上向かせた。素直に従わねぇから口をこじ開けて、赤く腫れた舌を確認する。氷・・・じゃなくて水で冷やすか。俺は右手の親指に薄い水の膜を纏わせて、クレイアの舌に押し付けた。

「ん・・・ふっ・・・」

初めは抵抗していたクレイアも、力が抜けたのか椅子から転げ落ちそうだ。仕方ねえから、腰を引き寄せて支えてやった。


「よし、腫れは引いたな。まだ痛むか?」

「はあ・・・はあ・・・顔近いっ・・・大丈夫ですから離して」

顔の赤みと涙目は治まって無いが、本人が大丈夫って言ってんだから、治ったんだろう。俺はクレイアから離れて、昼飯の続きを食い始めた。自画自賛になるが、シチューもパンも美味いわ。

「くっ・・・この状況で食事の続きを・・・無神経の天然たらし・・・質が悪いですっ」

目の前に座るクレイアが俺を睨みつけながら、今度は慎重にシチューを食い始めた。ふっどうだ?驚くほど美味かろう?


「は~・・・食った。俺は読書に戻るわ」

手と食器を洗浄魔法で綺麗にして、片づけを済ました。クレイアは俺の顔をジトッと見ながら、何か言いたげだ。

「用があるなら早く言え?」

「くっ・・・事後は優しくないクズ男のようですね。今日でこの図書館の本は読み終わるんでしょう?・・・その後は・・・どうするんですか?」

くず湯がどうしたって?この後はどうするってか・・・。

「アザレに行って買い物するだろ。んで、戻ったらザランの古書店に行きてぇなって思ってるけど?」

「アザレに行くんですね・・・ザランには、いつ戻る予定ですか?」


「そうな・・・5,6日後には戻ってくるかな」

馬車移動で2日、滞在2日、転移で1日ってとこか。工房に注文品を取りに行くのが遅れるが、仕方ねぇ。

「も、戻ってきたら私に声を掛けて下さい!この街の古書店には詳しいですから・・・!」

「案内してくれるのか?わかった、戻ったら会いに来るわ」

そっぽを向いたクレイアの金糸の髪を、ぐちゃぐちゃと掻き回す。あ~懐かねえ野性動物が、遂にデレた感じな。調子に乗って撫で回してたら、クレイアはプリプリ怒って仕事に戻っちまったわ。


それから閉館までに無事に図書館全ての本を読み切った。けっこう面白い本も多くて写本にするのが楽しみだわ。

クレイアに軽く挨拶をして図書館を後にした。宿屋に戻る前に、明日の馬車を手配しに行くか・・・。

「ちょっと待ったああ~!!」

馬車屋の扉に手を掛ける寸前で邪魔が入った。灰色がかった肌色に、赤色の瞳・・・今日は薄手の、何かひらひらした服着てんな?

「ハイネコか、久しぶりだな?」

「久しぶりだな、じゃないんだわ?」


頭の上の耳を少し倒して、尻尾をバシバシと俺にぶつけてくるの止めろ。ハイネコの頭をわしゃわしゃと掻き回して、喉元をするりと撫でれば、甘えたようにゴロゴロと喉を鳴らした。

「ん・・・にゃ・・・ちょっと!そんなんで誤魔化されないよ?!」

俺の手を両手で掴んだハイネコが、引き剥がそうとして失敗してるのが面白ぇ。魔族と猫獣人のハーフでも、撫でられるのには弱いらしい。

「よし。何時までも店の前に居たら邪魔だな。お前はもう帰れ」

「・・・そっちが満足したら放り出すの、酷くない?!」


「俺は忙しいんだよ。猫と遊んでる暇は無ぇ」

「僕だって暇じゃないよ!用事があって来たんだから」

ハイネコに構わず馬車屋の店内に入ると、俺の背中にハイネコがしがみ付いてきやがった。あ~面倒臭ぇ・・・このままでも良いか。

「明日のアザレ行きに乗りたいんだが、出発は何時だ?」

「あ・・・はい。朝の九時からと昼過ぎの2本ですね。・・・えと?」

「じゃあ9時から1人予約入れてくれ。行きだけで良いから」

「かしこまりました。お時間を過ぎますと、お客様を待たずに出発いたしますので」

店員が俺の背後をチラチラ気にしながらも、注意事項を説明していく。料金を払って馬車屋を出た。


「カズサ、アザレに移動するの?!」

「ああ、観光にな。2日ほど行ってくるわ」

「ふ~ん・・・あ、そうだ!ミドラガルドス国から正式に苦情が来てさ、王様に怒られちゃったよぉ」

「そうか、大変だな」

「他人事みたいに言って~!ミドラガルドス国の唯一の魔法使いを誘拐したって、言い掛かりだよねぇ?」

「そうだな。俺は国と正式に契約して無ぇから、何処に行こうが自由なはずだがな」

勇者のカエサルは天啓の関係もあって国に縛られているが、俺は違う。国同士の交渉の駒になる気は無ぇ。


「何かさ、カズサのとこの勇者様がぶち切れてるらしくてさ、国境を無理やり超えようとしてるんだって」

ハイネコは楽しそうに目を細めて笑った。カエサルの奴、何をやってんだか・・・。

「はぁ・・・まあ俺には関係ねぇ話だわ。俺は勇者パーティーから追放されてるしな」

「そうだよねぇ。あ、アザレから帰ってきたら僕と遊ぼうよ!古書店にはもう行ったの?」

俺の背中にしがみ付いたままのハイネコが、俺の顔を覗き込んできた。猫耳が頬に当たってくすぐってぇ。

「まだだ。古書店は図書館の司書が案内してくれる約束でな」

「え~?!僕が案内するって言ったじゃない!カズサの浮気者ぉ~」

浮気者ってよく言われんだが、俺は誰のもんでも無ぇから、言い掛かりも甚だしいわ。


「じゃあさ~アザレから戻ったら、一緒にご飯食べに行こうよ!魔法についても話してみたいしさ」

俺が魔法使いに会ったのは、魔術師のシズクを除いてはこいつが初めてだ。情報交換は面白いかもしれねぇな。

「は~・・・わかった。戻ったら連絡するわ」

「約束だよ!」

そう言ったハイネコは空気みたいに消えた。人通りが少ない場所とはいえ、堂々と転移すんのな・・・。

久しぶりにハイネコの登場です。カズサの自由にしていたら、皆と疎遠になっていっちゃう!

基本的にその場では優しいけど、去る者追わず、自由大好きマンです。

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