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懐かない生き物ほど、可愛い?

トルテイヤの最後の一欠けらを口に放り込んで、茶を啜った。不毛な問答をしちまったぜ。お互いの年齢なんてどうでも良い事だ。俺は気持ちを切り替えて、両手に清浄魔法をかけた。

「おら、これで文句は無いだろうが?食い終わったら、仕事に戻れよ」

「一人で完結して、貴方は勝手な人ですね」

「ああ?」

無表情のくせに、不服そうな司書の頭をぐしゃぐしゃと撫で回してやった。何だ?吃驚した顔してんな、顔も赤くなってきたが・・・もしかして、幼少期に構われなかったのか?


「ちょっ?!・・・何っ」

「煩い。暴れるな」

暴れる魚みたいな司書を抱き上げて、俺の膝の上に乗せた。口をパクパクさせて見上げる顔は、陸に釣り上げられた魚に似てるな。

光沢のある金糸の髪を梳いてやる。ガキや小動物に触れる力加減だ。潤んだ目で睨みつけてくる様が、懐かねえ野生動物みたいで面白いな。

「お前は可愛いぞ?」

「はあ?!」

確か・・・鼻をくっつけて、お互いの匂いを嗅いだら安心するんだったか?違うか、抱き締めて・・・背中をトントン叩くんだったな。昔読んだ育児書に書いてあったわ。


「~~~っ意味が分かりません!くっ・・・細いくせにバカ力・・・っ」

初めは抵抗していた司書がブツブツと文句を言っていたが、段々と力が抜けてきた。今は俺の肩に頭を預けて、じっとしているわ。頭を撫でながら、背中トントンのコンボ技だ。

「街中でエルフが生きていくのは大変だったな?」

「何をわかったような口を・・・っトントンやめ・・・っ」

ゆらゆらと揺り籠みたいに揺すってやったら・・・司書の奴、寝たわ。俺は読みかけの本を取って、司書を抱いたまま続きを読み始めた。


***************


その男に初めて出会ったのは、3日程前の事です。開館して直ぐに図書館に訪れた男は、4階まで駆け上がって来たので、走らない様に注意をしました。

「すまん、昨日から楽しみにし過ぎててな・・・我慢が出来なかったわ」

本の価値もわからない粗暴な奴か、我慢を知らない子供のどちらかと思っていましたが、案外素直に謝ってきましたね。意外でしたが、悪い気はしないですよ。良い子には飴をあげなくてはね。

その後は言い付けを守って、静かに読書を始めたのですが・・・尋常ではない速さで本を読み進めていきます。おそらく速読の魔法を掛けているのでしょう。それだけではなく、書き写す速さも手元が見えない程です。彼はきっと魔法使いなのでしょう。


この街に居る人族の魔法使いは、勇者パーティーの内の1人だけかと思っていました。魔力が少ない人族の中で、稀に魔力を多く持って生まれてくる子供がいます。その中でも魔法使いになれるのは、私が知る限りでは1%にも満たないはずでしたが。

「黒髪の魔法使い・・・」

今日は他に来館者が居なかったので、仕事をしながら彼の観察に時間を割き過ぎていました。もう閉館の時間ですね・・・読書に夢中で気がついていないようなので、教えてあげましょう。


次の日も、朝から彼が一番にやって来ました。今日は3階までゆっくりと上って来て、昨日と同様に凄い速さで本を読み進めていきます。彼ばかり見ていないで、私も仕事をしなければ。

懐の懐中時計を見れば、昼食の時間が少し過ぎた頃でした。彼を見れば、食事もしないで本を読み続けています。

「・・・そういえば、昨日も食事をしていないのでは?」

時間も食事も忘れて本に浸かりきるタイプですか。まだ成長期でしょうに、いけませんね。

「ゴホンッ」

少々わざとらしく咳をすれば、彼が気づいて顔を上げました。急に意識が本の中から引き上げられて驚いたのか、私と目が合うとパチパチと瞬きを数回しました。


「・・・よお」

「・・・こんにちは。今日も昼食を抜く気ですか?」

「いや、今日は持って来たからな、食うぞ?」

彼は鞄から昼食の包みらしいものを私に見せてきました。フンッ準備をしてきたのは偉いですが、世話が焼けますね!

彼の視界から外れ書棚の整理をしていたのですが、彼から駄々洩れる昼食の感想と匂いに、思わず書棚の陰から覗き見をしてしまいました。

彼の手元にあるのはカツを挟んだパンでしょうか?香辛料の利いた肉汁の滴るカツに、シャキシャキと瑞々しい野菜の甘み。程良い硬さの白パン・・・彼の口から洩れる情報に、思わずゴクリと喉が鳴ってしまいました。


「カードとレモネのソースが、また合うな・・・」

それ以上言わないで欲しいと彼を睨めば、ばっちりと目が合っていまいました。覗き見をしている、はしたない姿を見られるなんて・・・もの凄い屈辱です!それなのに・・・

「・・・食うか?」

「別に・・・」

何も考えていないような顔で、私にパンを差し出してきたのです。別に要らないと言おうとしたのですが、私の手は私の意を無視してパンを受け取ってしまいました。

とても恥ずかしい・・・私は彼に軽く会釈をして、その場を離れました。

頂いたパンは悔しいくらいに美味しくて、施されるだけでは私のプライドが許しません。お茶の時間に休憩を挟まない彼に、故郷でよく飲まれているお茶を淹れてテーブルに置いておきました。


「茶をご馳走さん、美味かったわ。レシピ教えてくれ」

また読書に夢中になっている彼に閉館の時間を告げると、お茶のお礼を言ってきました。ああ、並んで立つと彼は私よりも少し背が低いのですね。

「ちっ」

「人にものを訪ねる顔じゃありませんね。どうして私を睨むんですか?」

レシピを欲しがるわりに、私を見上げて舌打ちをした彼に、意地悪な気持ちになってしまいました。

「俺より背が高いのがな、悔しかっただけだ。じゃあな、明日も来るわ」

そう言って私の横をすり抜けて、去って行く彼の姿が見えなくなるまで・・・ぼんやりと見つめてしまいました。

「あの笑顔は・・・反則では?」


その次の日も朝から来ると思っていたのに、彼は来ませんでした。

そして今日・・・文句でも言ってやろうと思っていたのに、気がつけば彼の膝に乗せられて・・・あやされている意味がわかりません!

「お前は可愛いぞ?」

「はあ?!」

どうして私の鼻に貴方の鼻をくっつけて、スリスリするんですか?!

「街中でエルフが生きていくのは大変だったな?」

「何をわかったような口を・・・っトントンやめ・・・っ」

ああ、背中を叩かれる規則的な振動と、ピッタリ抱き締められてお腹が温かい・・・くっ・・・意識が睡魔に引っ張られ・・・っ・・・。

異国でも、天然タラシのカズサです。ツンツンぷりぷりした子を見ると、幼少期の愛情が足りなかったんだと思い込んでいます。

明日は更新できるかな?ちょっとわかんないんですが・・・^^;

ブックマーク、評価、読んで下さってありがとうございます!嬉しいです^^

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