本と飯だけで生きていける気がする。
口直しに、溜めてあった写本を読むことにした。シズクのとこで写したやつにするか・・・“魔力は遺伝するか?属性の解明”うん、良いな。モヤモヤとした今の俺の感情を、洗い流してくれそうな本だわ。
この本によると、魔法使いが多く存在した時代があったらしい。その中には何代にも渡って、魔法使いを輩出した一族も居たそうだ。
遺伝な・・・俺が魔法を勉強し始めたのは、母親が残した魔法書を偶然見つけたからだ。試しに初級の魔法を発動したら、出来ちまったんだよな・・・。それからは、本を読み漁って完全に独学だ。
母親は俺が物心つく前に死んじまったから、顔も覚えてねぇんだが・・・もしかしたら、魔法使いだったのかもしれねぇな。
読み終えた写本を仕舞って、カップに残った茶を飲み干した。晩飯を食いに行こう。
「はいよ、お客さんツイてるね!当店自慢のバクダン焼きだよ!」
「爆弾・・・?」
宿屋の食堂で出された晩飯は、俺の顔ぐらいある丸い何かだ。爆弾てのは・・・南方で大昔に使われていた兵器の名前だったか?周囲をチラリと見れば、どいつも美味そうに食っているな。
先ずは観察だ。丸い・・・転がして焼いたのか?作り方が気になる。ナイフで切り目を入れて、中を覗いてみた・・・おっと、湯気が噴き出してきたわ。
とろりとした中には、魔鳥の卵を茹でたやつと肉・・・細切れにした野菜が入っているな。掬って口に含めば・・・美味い。見た目よりも色んなものが入ってるに違い無ぇ。複雑に絡み合い、肩を組んだ味わい共が俺を虜にしやがった。
「あんた、考えてることが駄々洩れだよ?!おかげでバクダン焼きを頼む客が増えて、こっちは得したがね!」
カウンター越しに俺を見ていた店主が、可笑しそうに笑ったが・・・今はそれどころじゃねぇ。
「大至急、おかわりをくれ」
俺の口は既に、次のバクダン焼きの口になっているんだわ。おかわりで出てきたバクダン焼きにはカードが掛かっていた。店主のサービスらしい・・・ありがとよ、美味過ぎたわ。
食事を終え部屋に戻った俺は、清浄魔法で着ていた服と体を清めた。残念なことにこの宿には風呂が無くて、シャワー室は有るが熱い湯が出ないらしい・・・。
「南方は常に気温が高いから、熱い湯に入る習慣が無いなんてな・・・盲点だったぜ」
風呂好きの俺としては悲しいが、全体的には悪くない宿だ。清潔な部屋に美味い飯、従業員の対応も良い。今日は明日の図書館に向けて、早く寝ることにした。
翌朝、朝食を食べ終えた俺は図書館へ向かった。先ず入り口で入館料を払うのは、何処も一緒だ。本の管理には金が掛かるからな、喜んで払うぜ。
「下から攻めるか・・・上からいくか」
この図書館は筒みたいに丸い形をした建物だった。4階まである内階段は螺旋を描いている。俺は足に身体強化と音消しの魔法を掛けて、階段を駆け上がった。
開館後の1番客は俺だ。誰も居ないから文句も言われねぇだろと思っていたら、ばっちり司書に見られていたわ。
「図書館では走らないで下さい。目の前にお菓子をぶら下げられた、子供ですか貴方は?」
金色の髪を一本に縛った神経質そうな男が、ジロリと俺を睨んできた。白磁の肌に尖った耳・・・エルフ族だな。
「すまん、昨日から楽しみにし過ぎててな・・・我慢が出来なかったわ」
「ふん!謝罪が出来るなんて意外でしたが、悪い気はしませんね。これをあげますから、気を付けて下さいよ」
俺の手に飴玉を握らせた男が、仕事に戻っていった。何つうか・・・誰かに似ている気がするが、誰だかな?
飴玉を口に放り込んで、言い付け通り静かに本棚に向かった。速読を掛けて、端の本から全て読んでいく。気に入った本があれば、机に運んで速記で写した。
4階にある本を全て読み終わった頃に、司書に閉館時間だと告げられた。俺はグッと背伸びをして、首をゴキゴキと鳴らした。
夢中になり過ぎてて、昼飯食いそびれたわ・・・。腹が減ったから宿に帰って、晩飯にしよう。
「お客さん、今日は陸魚の塩釜焼だよ!味がしっかり付いているから、酒にも良く合うよ!」
俺の目の前に置かれたのは、俺の肩幅くらいある塩のドームだ。これをハンマーで割って、中身を食べろってか。面白ぇな。砕いた塩の欠片を避けると、匂いの良い葉に包まれた陸魚が出てきた。
むわっと食欲をそそる匂いに、思わず涎が出ちまった。蒸し焼きにされた白い身は、ほろっと解けるが噛めば旨味が溢れ出てきて美味い・・・。
「くっ・・・手と口が止まらねぇ。合間に白葡萄酒・・・永遠に食えそうだな」
デカい魚だったが、あっという間に食っちまった。おかわり・・・は止めておくか・・・2匹目が1匹目の美味さを越えられなかった時が辛いからな。
「お客さん、今日も駄々洩れだねぇ!はいこれ、今日のサービスだよ!カタラアナだ。冷たくて美味いよ!」
店主が差し出した表面に焼き目の付いた・・・何だ?少し硬めのそれを切って口に運べば、冷たくて甘い。
「一瞬で溶けて消えたわ・・・美味いな」
冷たい菓子は王都にもあったが、冷やすための魔石が希少でバカ高いからな、王に呼ばれた晩餐会でしか見たことが無ぇ。
「どうやって冷やしてる?」
「これかい?エルフ族に知り合いが居てね、貯蔵庫に冷凍の魔法を掛けて貰ったのさ!」
エルフ族や魔族は魔法を使えるそうだからな・・・この親父さらっと言ったが、エルフ族は自領からほとんど出て来ないって話じゃなかったか?まぁ今日、1人お堅そうなエルフに会ったから・・・この街には何人か居るのかもな。
カズサが司書を誰かに似ていると思った同時刻、パソコンの前では「ユリウスとカズサを足して、2で割ったんじゃね?」と思った私です。
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