南方へ・・・。
辺境伯と王都の文官が、スバルトフレムの使節団と帰還の日程を話し合っている間、双方の勇者パーティーは暇だった。
「異国の勇者たちと会える機会は、この先よほどの事態が起こらない限り無いだろうな」
「そうですね、私達は入国の許可さえ下りれば、冒険者として国を跨げるけど・・・勇者は出れませんものね?」
「お前達だけずるいぞ!勇者だけ国から出られないというのは、不公平だと思わないか?!」
「そうですね。僕は特に不便は感じないんですけどね」
勇者ヨルムンドのぼやきに、ボインの姉ちゃんとカエサルが笑顔で返している。
「ガイウス殿は良く鍛えられているな。ちょっと腕試ししないか?」
「いいぞ。セランだったか、利き腕はどっちだ?」
熊と筋肉だるまが腕相撲を始めた。ユリウスはテーブルの上を片づけながら、審判もしているわ。
「ねぇ、カズサ。僕と一緒に訓練場に行かない?魔法勝負しようよ」
「ああ?面倒臭ぇ」
「え~?皆それぞれ交流してるじゃない。僕とも遊んでよ」
ハイネコが茶を飲んでいる俺の腕をグイグイと引っ張った。零れるから止めろ。
「お前と遊んで、何が楽しいんだよ」
「これ!南方で発行されたばかりの魔法書!読みたくない?」
じゃ~んとお道化ながら、ハイネコが懐から魔法書を取り出して見せた。“禁書に触れる前に読む本”だと・・・?
「おら、早く行くぞ」
「乗ってきたね~。行こう行こう!」
俺とハイネコは立ち上がって、近くにいた騎士に訓練場に案内してもらった。
「カズサの得意技はなぁに?」
「初めから手の内見せるバカがいるか?」
「いないよね~」
俺は身体強化と詠唱時間短縮を掛けて、ハイネコに向かって走った。右手には火炎を纏わせ、左手には氷の楔を練り上げながらだ。
「・・・え?!まさかの接近戦?!」
ハイネコの顔面に火炎をぶち込む。後ろに飛び退いた奴の足を払って、態勢を崩させた。
「氷の楔よ穿てice Wedge!」
「守りの盾よ弾き飛ばせShield of The Guard!」
氷の鎖が四方からハイネコを串刺しにしたはずだったが、寸前で緑色に光る盾が鎖を弾き返した。間を置かずにハイネコが攻撃を仕掛ける。無数の金属製の槍が出現し、俺に向かって飛んで来た。
「泣き叫べIron Skewers!」
「名付けのセンス無ぇな!踊れTonpuppe!」
土魔法で作った巨大な人形を呼び出して、槍を叩き落とす。土人形を柔らかめに作るのがコツだな。腹を貫通されても砕けねぇ。防御力はあんま無ぇが、まぁ無いよりは良いだろ。
「それはお互い様じゃない?溶かしちゃえ!Water Dragon!」
ハイネコがでかい魔法を撃ってきた。水魔法のドラゴンね・・・まんまじゃねぇか!翼を広げたドラゴンが水の塊を吐き出して、俺の土人形を溶かしていく。
「じゃあ、俺も出すか。ファイヤードラゴン?」
両手で炎を練り上げ、ドラゴンを出現させた。この手の魔法って嫌いなんだよな。いかにもガキの妄想みたいで恥ずかしいわ。
ウォータードラゴンとファイヤードラゴンがぶつかり合って、お互いに食らい合う。力が拮抗しているからか、見た目には派手な戦いだわな。
現に、見物に集まった両国の騎士達が歓声を上げている。カエサル達とスバルトフレム連合国の勇者達も見に来てたのか・・・暇なんだな。やがて水と火は、完全にお互いを食らいつくして消えた。
「あ~っ面白かったねぇ!僕の魔法どうだった?」
「あ?なんつうか・・・ガキ臭かったな」
「え~?何それ~!せっかくお近づきの印に、この本タダであげようと思ってたのに!」
好きでしょ?タダ!と言いながら、ハイネコが俺の目の前で魔法書をチラつかせた。
「・・・お前は・・・すごい魔法使いだな?顔も可愛いしな?」
俺は本の為ならプライドだって惜しくねぇ。笑顔を張り付けて、ハイネコの頭を優しく掻き回した。暫く撫でているとハイネコの顔が段々赤くなってきた。俯いて何か言ってるが、小さすぎて良く聞こえねぇ。
両手に変えてわしゃわしゃと撫でていると、ハイネコの頭に髪色と同じ獣の耳が生えてきた。
「あんっ」
「変な声出してんじゃねぇ。何だお前、獣人と魔族のハーフか?」
「うん、そう!珍しいでしょ?あ・・・そこ。耳回りもうちょっと撫でても良いよ?」
「・・・タダじゃ無ぇぞ?」
「あはは!わかってるよ。この本はカズサにプレゼントするからさ!その代わりなんだけど・・・?!」
ハイネコが言い終わる前に、ハイネコの頭目がけて聖剣が飛んで来た。これはカエサルの剣だな。
「あっぶね!」
「ねぇちょっと、カズサ・・・あそこに居るのって魔王か何か?」
ハイネコが指差した方を見れば、俺達を睨みつけるカエサルが居た。あいつ本当に、聖剣の扱いが雑すぎんな。
「魔王って本当にいんのか?」
「大昔には居たんじゃない?今の時代には聞いたこと無いけど」
ハイネコのぼさぼさになった髪を梳いてやる。ここまでやれば、満足しただろう。ハイネコが差し出した魔法書を捲ろうとしたとき、カエサルが俺の名を呼んだ。
「カズサぁ!!」
「ま・・・っカエサル、落ち着け?!今は王命の任務中だぞ?!」
「そうですよ、あれは・・・その、唯の魔法使い同士の交流ではありませんか?!」
「カズサ!お前はこのパーティーには必要ない!今すぐ出て行ってくれ!!」
「「言った?!!」」
「ああ?」
俺が苦労して手に入れた本を、読もうとした瞬間に邪魔してきたな?その台詞もいい加減、聞き飽きたわ。
「わあ!カズサ、勇者パーティーから抜けるの?それならさ、うちにおいでよ!」
ハイネコが俺の腕に飛びついて来た。
「お、良いな!歓迎するぞ!」
何時の間に寄って来ていたのか、ヨルムンドが俺の肩に腕を回した。ハイネコと反対側の腕には、柔らかい肉が押し付けられている。
「魔法使いが2人か・・・頼もしいな」
セランの言葉に、辺境伯や王都から来た奴らが騒ぎ出した。謀反だの両国の均衡だの、俺にはあんま関係無いがな。
「南方の禁書とか読みたくない?王城の図書室も案内しちゃうよ?」
ハイネコのこの台詞が決め手になった。王都じゃ手に入らない南方の本を巡る旅か・・・良いじゃねぇか。
「良いぞ、出てくわ。ガイウス、ユリウス、後の事は頼んだぞ?」
「バカカズサ!取り敢えず、こっち来い!な?」
「貴方!ふざけるのも大概にして下さい!カエサル様が・・・っ」
眉尻を下げたガイウスと、顔を真っ赤にして舌を噛んだユリウスが止めるが、俺の気は変わらねぇ。
「カズサ様!考え直して下さい!王命を反故にになさるおつもりか?!」
「カズサ様、俺も連れて行ってください!!・・・痛っ!」
真面目なアズールが、ヨハネストの頭を叩いている光景も見納めか。お前のその容赦のない一撃が・・・
「アズール、お前の(容赦ない突っ込みの)ことが好きだったぜ」
「カズサ様?!この状況で、紛らわしい事を言い捨てて行かないで下さい?!」
「もう、良いよね?お別れ済んだよね!じゃあ、スバルトフレムへ飛ぶよ~」
ハイネコが展開した魔法陣が発動した瞬間に、泣きそうな顔のカエサルと目が合ったが・・・いい加減、知らねぇわ。
6回目の追放です。カズサが19歳のうちに、9回目まで行けるのかな・・・?^^;
まだ18歳なので、大丈夫かな?カズサが気づかないうちに追放されていたという、前例もありますしね!
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