夢でもし会えたら。
僕はシズク・シグレイ(元)北方の魔術師だ。今は異空間に隠れながら、たまに王都で占いの館の店主を務めている。
「もう!カズサが帰っちゃって・・・すごい暇なんだけど!」
短い間だったけど僕の部屋を我が物顔で占拠していた、魔法使いカズサ。存在感が強すぎて、帰った後が何か・・・寂しいんだけど?!
「・・・あった。カズサが使っていた枕に、髪の毛・・・発見!」
古い本に書いてあった呪い・・・試しちゃう?次の約束をしていなかったから・・・良いよね?
僕は呪詛の本を取り出して、呪いの方法を確認した。赤葡萄酒で紙に魔法陣を描いたら、その上にカズサの髪と僕の髪を1本ずつ置いて、紙を畳む。
それを僕がいつも使う枕の下に入れて、後は眠るだけだ。成功のコツは、相手の名前と顔を強く思い浮かべながら眠る事だって。
「カズサ・・・待ってなよ」
図々しくて・・・口が悪いくせに、すごく・・・優しい。会いたいな・・・僕は静かに目を閉じた。
「・・・何、ここ?!」
僕が目を覚ましたら、一番に飛び込んできたのが本だ。それも無数の!円状の床には知識を司る陣が刻まれている。曲線を描く本棚は天高く続いていて、見上げても・・・どこまで続いているのかわかんない!
くるりと1回転しても、目に入るのは本、本、本だ。その中心にソファが一脚と、小さなテーブルが置かれている。今はその席には誰もいない。
「まだ、寝てないのかな?深夜なんですけど・・・」
せっかく会いに来たのに、肝心のカズサが居ない。でも、これは夢だから僕の体が目覚めるまでは、ここで待っているのも悪くないかもしれない。
僕は本棚を眺めて、表紙を読んでいく。「世界の不思議な食べ物」・・・カズサらしい。「毒薬のすゝめ」「世界のイケナイ薬草学」・・・この辺は禁忌本じゃないの?「北方の魔術師」・・・これは読まなくていいや。
僕は「あなたの知らない魔獣図鑑(改)」という本を手に取った。同じ本を僕も持っているけど、カズサのは改訂版なんだよね。
「どこを改訂したのかが気になる」
え・・・嘘、あの魔物の急所って・・・其処だったの?!いやっ・・・ええ~・・・?僕の持っている本と違う箇所がけっこうあって、面白かった。
「次は何を読もうかな?」
僕がまた背表紙を見ながら本を選んでいたら、この夢の家主がやっと来たよ。
「・・・お前、ここで何してんだ?」
「何って、読書?」
「そうか。おら、茶と菓子・・・食うか?」
カズサが手を振ると、ソファがもう一脚とお茶とお菓子が出てきた。僕の分もある・・・ふふ、美味しそう。
ソファに座った僕に、カズサが本を一冊渡してきた。なになに・・・「安心して下さい。伸びますから!」だって?!
「僕のこと、チビだって言いたいの?」
「あ?良いから、読んどけ?まだ、やれることは有るはずだろ?」
「僕が背が低いのは、成長途中だからだよ!」
成長期は・・・ちょっと過ぎちゃったけどさ・・・目次だけなら、読んでも良いけど・・・?僕は頬を膨らませたまま、ページを捲った。
え・・・夜更かしは、成長を妨げるの?!もう、手遅れじゃん・・・。
ショックを受けて放心する僕の顔を見て笑ったカズサが、僕の頭をぐしゃぐしゃと掻き回した!ちょっ・・・?!首が痛いったら!
「もう!痛いよ!」
両手でカズサの手を掴んだけど、全然止められなかった。カズサのくせに・・・手が大きいんだから!
「おら、茶にミルクルを沢山入れて飲め。ミルクルは骨を強くして、背が伸びる・・・らしい」
「眉唾ものの話じゃない?!」
んもう!本当に適当なんだから!でも・・・この感じは、嫌いじゃないけどね?!
「そういや、こんなの作ってみたわ」
カズサが1枚の紙を渡してきた。ん?この魔法陣は・・・距離を縮める術式かな?姿見と・・・音の伝達・・・。
「これって、もしかして通信系の魔法陣じゃないの?!」
「お、さすがにわかるか。ちっ・・・一目で、解読し過ぎだろうが」
頭を掻いて不機嫌そうな顔をしているのに、カズサの声は笑っていた。
「これすごい面白い!伝達距離はどのくらい?」
「まだ試してねぇから、わかんね。お前に会えたら、試しに付き合ってもらおうと思ってたわ」
丁度いいタイミングで現れて、お前は偉いなって・・・また頭を撫でまわされた!う・・・嬉しくなんて、無いんだからね?!
それから2人で術式の微調整を話し込んで、体が薄くなってきた頃に「起きなきゃ・・・」って感じたから、もう時間切れだね。
「ちゃんと暗記したか?念の為、複写した紙も持って行け。起きて覚えて無かったら、自力で思い出せよ」
「忘れないよ!絶対、連絡するから!」
最後の方は聞こえていたかな?話している途中で・・・夢から覚めちゃった。
「ん・・・・ふあ~・・・朝・・・?・・・紙!」
僕はベッドから飛び起きて、紙とペンを掴んだ。忘れないうちに、書き写さなきゃ!!
***************
「・・・おい、どうだ?」
「ちゃんと見えてるし、聞こえてるよ!カズサからはどう?」
「おお、金色のぽやぽやのガキが見えてんぞ?」
「なっ!誰がガキなのさ?!」
結果から言えば、カズサが考えた通信魔法は大成功だった。ちゃんと話ができるしね。ただ紙だと、媒体の強度が弱いのか2回使ったら、燃えちゃうんだよね。
「これさ、紙じゃ無くて魔石に刻んだ方が良くない?」
「それな」
魔法陣が刻めるくらいの魔石となると、なかなか出回ってこないんだよね・・・。
「俺が丁度いい魔石持ってっから、今度やるわ」
「・・・今度って、いつ?」
「そうだな・・・今、王命で国境付近にいるからな・・・帰ったら連絡するわ」
「・・・あんまり待たさないでよ?!」
次の約束とか・・・嬉し・・・いに決まってるでしょ?!ムカつく!ニヤニヤ笑ってる顔が、本当にもう!!
「良い子にしてたら、お土産買って来てやるよ」
「・・・期待しないで、待ってる」
「おう、じゃあな」
「~~~っ!!」
誰かとする次の約束が・・・こんなに嬉しいものだなんて、忘れてたよ・・・。
早く・・・早く帰ってきてよね!カズサの・・・バカ・・・!
ちょっとカエサルに疲れたので・・・覚えてますか?シズク・シグレイのお話しで、口直しです。
シズク・シグレイについては、21話~魔法使いを探して~をご覧ください。
流れ的には、辺境伯の屋敷に泊まった夜の話で・・・一応、続いているという事で^^
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