異文化コミュニケーションと猫。
辺境伯には2人の美しい娘がいた。歓迎の晩餐会でカエサルを囲んで、艶やかに微笑んでいる。太ももまでスリットの入った大胆なドレスは、東方のものか?会場に集まった客達も、様々な国の特色が色濃く出た装いだ。
「すげえな。異文化の受け入れ方が、ゆるゆるで面白ぇ」
前にどっかで民族衣装の本を読んだことがあるが、実物をこれだけ一気に見られる機会は、今後訪れねぇだろうな。
「俺達も着せ替えられたのがな・・・」
「ええ・・・気慣れない服は・・・恥ずかしいですね」
辺境伯から俺達に用意された服は、異国のものだ。そりゃ、初めて袖を通すんだから慣れないわな・・・。
カエサルは西方の服か?フリルの多いシャツに、金の刺繍ががっつり刺された、光沢のある水色のジャケットと揃いのパンツ。首元のデカい宝石が付いたブローチが眩しいわ。
ガイウスは光沢を押さえた赤い生地の軍服だ。上着の裾が前は短くて、後ろが長い変わった形だな。筋肉をきちんと覆い隠しているが・・・サイズがピッタリなのは、下調べでもしていたのか?
ユリウスはあんま変わんねぇな?裾が長い法衣だ。黒地に銀で十字架が刺繍されているのが、派手で落ち着かないらしい。黒は汚れが目立たなくて、お勧めだぞ?
「一番落ち着かねえのは、俺じゃね?」
なぜか俺だけ、東方の服を着せられている。キモノ・・・だったか?縦長の生地を縫い合わせて、腰紐で結んで留めているだけだ。キモノの中は下着だけで、防御力が無ぇから嫌だと断ったんだが・・・。
ハカマっていう、幅の太いズボンみたいなやつを、笑顔のメイド達にはかされたわ。
「カズサ様、とてもお似合いです!」
「カズサ、見慣れない服装だけど・・・好きだよ?」
カエサルとヨハネストには、すげぇ褒められたわ。嬉しかねぇけどな。
俺は一人で、壁際の目立たない席に陣を構えた。そこに豪勢な料理を全種類、少量ずつ盛った皿を給仕に並べて貰った。酒は軽めの炭酸酒を、喉を潤す程度で・・・完璧だ。
「む・・・美味い。複雑に計算された味だわ」
濃い味を重ねるんじゃなく、素材の味を最大限に活かす調理方法と、味付けだ・・・たぶんな。
料理を食いながら、煌びやかなホールで浮かれ騒ぐ招待客たちを観察していると、一人の男が俺の方に歩いてきた。
第一印象は“不思議な気配の男”だった。あれはどこの国の服だ?魔鳥の尾のように後ろの裾が長く、2つに割れている。黒の上下に、襟元に銀糸での派手過ぎないが目立つ刺繍が刺してあるな。
ん?あれは・・・簡略化された魔法陣を図柄にしてんのか?
「・・・隠匿と変形?」
俺の目の前に立った男は、仮面で表情は見えないが・・・おそらく笑っているんじゃねぇかな。
「初めまして、魔法使いカズサ。隣に座っても良いかい?」
「・・・・・・・いいぞ」
普段なら逡巡しない俺が、迷っちまった。話してみたいような、側に来ないで欲しいような。相対する感情を抱かせる奴だ。
隣に腰かけた男が、俺をじっと見ている。仮面から見える目は紫に赤が混じった、見たことが無ぇ色だ。
「名乗らねぇのか?」
「僕に興味があるなら、教えるよ」
「・・・」
魚を揚げて甘辛いソースを掛けたものを口に入れた。まだ温かいな・・・サクッとした衣に、ふわっとした白身が美味い。もっと食いたいが、他の料理が入らなくなるからな。
「僕の名前教えようか?」
まだ赤さの残る魔牛の肉に掛かったソース・・・これのレシピくれねぇかな。この城の料理人はソース作りが得意らしいな。もちろん肉や魚の火加減も絶妙だが。
野菜を花みてぇに、可愛く切る意味がわからんが・・・女共にはウケそうだな。赤カブの花をフォークに刺して、口に運ぼうとした俺の手を邪魔する奴がいた。
「僕の名前はハイネコだよ」
「ああ?」
「僕の存在を完全に放置するの、けっこう酷くない?」
「初対面で名乗らねぇ奴に、気を遣う義理は無ぇだろ。飯が冷めちまう」
確かに・・・と言いながら、ハイネコと名乗った男が仮面の向こうで笑った。いい加減、俺の手を離せや。
「・・・カズサは細いのに、けっこう食べるんだね?」
「誰が細の大食いだ。一品一品は量が少ないだろうが」
その辺の女共の方が、俺より量を食っていると思う。笑って喋りながら、扇子の陰に吸い込まれていく食いもんの量がすげぇ。でも腰つきは細いんだよな・・・。
「ふふ。カズサは食べることが好きなんだね?」
ハイネコが胸ポケットから出したハンカチで、俺の口を拭った。そんなに汚れていたか・・・?
辺境伯の屋敷では、カズサが珍しく本より食に走っています・・・。
また登場人物が増えてきましたね・・・ハイネコ(灰猫)どんなキャラなのか、まだ私にもわからないです^^;
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