国境へ向けて・・・野宿。
「おはようございます。皆様、出発の準備はよろしいですか?」
「カズサ様、よろしければ、私の馬に一緒に乗りませんか?」
「いや、良いわ。昨日はたっぷり本を読んだからな、今日は我慢できると思うわ」
ヨハネストが手を差し出してきたが、必要無ぇ。浮遊魔法を掛けて、ひらりと俺用の馬に跨った。黒毛が艶々の細身の雌馬だ。首を優しく撫でてやると、嬉しそうに嘶いた。
「昨日は途中で降りて悪かったな?今日はお前の上から降りねえからな」
「くっ私も乗ってもらいたい・・・!痛っ」
アホな事を言うヨハネストの頭を、アズールが引っ叩いていた。真面目な奴がいて、安心だな?
「ちょっ・・・!カズサ様、俺に微笑みかけるのは止めて下さい!ヨハネストは剣に手を掛けるな!」
「カエサル様、さあ行きましょう!・・・聖剣は納めて下さいね?!」
朝から煩い奴らだ。お前もそう思うか?ははっ休憩時間には、俺の秘蔵の野菜をやるからな?
「「「「・・・・・先が思いやられるな・・・」」」」
騎士達が溜息をついていたが、俺には関係ねぇ。
見送りに出てきた、デイカー男爵夫婦と双子のガキ共に礼を述べ、俺達は国境に向けて出発した。
「行程についてですが、今日は街を1つ、町を3つほど通り過ぎた辺りで野宿となります。宿泊できる家が無くなるので・・・ご不便をお掛け致しますが、ご了承ください。明日は森を抜け、辺境伯の城で一泊します。翌朝、国境にて南方の使節団と合流後、王都へ帰還いたします」
「気にしないで下さい。僕達も遠征に出る時は、野宿も当たり前にしますので」
カエサルが笑って答えた。アズールが申し訳なさそうな顔をしているが、俺達は冒険者でもある。野宿なんて慣れたもんだわ。
常歩でゆったりと進んで行く、朝の風景が気持ちが良いな。王都と違って空気も美味いしな。雲の無い快晴の空を見上げると、数羽の大きな魔鳥が飛んでいるのが見えた。
「・・・晩飯にちょうど良いな」
俺は鞄から魔導銃を取り出して、構えた。前にニコに試し撃ちさせた、魔力を弾丸として撃ち出す魔道具だ。元は南方から入ってきた玩具を、俺なりに改良してみたんだわ。
「「「「・・・・??!!」」」」
パンッパンッパンッ!と発砲音が3つ響いた。驚いた騎士達が剣に手を添えて俺を見てきたが、心配すんな。
「落ちてくるぞ。カエサル、ガイウス、受け取ってくれ」
上手く当たったみたいで、空から魔鳥が三羽落ちてきた。カエサルとガイウスが馬を走らせて、落下位置に回り込んだ後、難無く受け止めて戻ってきたわ。
「「「「大きい・・・」」」」
魔鳥は首を落として血抜き中だ。加速の魔法を掛ければ、数分で終わるからな。血を抜いた後は鞄に詰めて、晩飯に食う予定だ。
「まぁ、デカいな?」
「平均的な女性位ありますよね?片手で抱えてきた、カエサル様とガイウス様も凄いのですが・・・」
「この距離で、空を飛ぶ魔鳥を撃ち落とすとは、カズサ様は本当に素晴らしいです!!」
アズールを筆頭にドン引きしている騎士達と、喜色を浮かべるヨハネストとの対比がな・・・。
「こんなもん、弓が上手い奴なら誰でも出来んだろうが」
「「「「「いやいやいや?!!出来ませんよ?!!」」」」」
手を振る速度と、向きが完全に揃っている。騎士達の連携の方がすごくねぇ?
「ユリウスも前に、弓で魔鳥を落としたことがあったよね?」
「「「「「え?!!!」」」」」
騎士たちが一斉にユリウスを振り返って、ガン見している。そいつ弱っちそうに見えるもんな。普段はまったくやらねぇが、弓の腕はなかなかのもんだぞ。
「お恥ずかしいです。皆さん、そろそろ出発しませんか?」
騎士共に囲まれて、困った顔で笑うユリウスを、ガイウスがさっと抱き上げて馬に乗せている。
「そうですね、細かいことを気にしていては物事が進みませんから・・・出発しましょう!」
何かを悟ったようなアズールが指揮をして、再び国境へ向けて馬を走らせた。街を抜け、町を3つ通り過ぎると、人の手があまり入っていない広大な森が広がっていた。
「良い感じで魔物が出そうな森だな。狩がしたいなら止めねぇが、ゆっくり休みてぇなら魔除けの香を焚くぞ?」
「私達も用意してきていますが、良ければカズサ様の香も焚いて下さい」
ついでに虫除けの香も焚いておくか。カエサルとガイウスが、手早くテントを張っちまったからな、俺は飯でも作っかな。
ユリウスを手伝いに任命して、鞄からデカい鍋やら魔鳥やらを取り出した。肉が新鮮だから、味付けはシンプルで良いな?ひと口大に切った肉に、狐のとこで買った香辛料と塩をまぶす。
「ユリウスは、ひたすら肉を串に刺していけ」
「わかりました。火は熾しておきましたよ」
ユリウスのくせに生意気な。手際が良いじゃねぇか。
騎士達の方のテントからも、調理の湯気が上がっているが・・・正直、奴らの飯に期待は出来ねぇ。
「「「「「「う、美味い!!!!」」」」」」
予想通り、俺とユリウスが作った飯を食いながら、騎士達が泣いているわ。
「魔鳥の肉がぷりぷりで、噛むほどに肉汁が溢れてくる!」
「このちょっと辛い味付けが、やみつきになりますね!まるでカズサ様の魅力の様です!」
ヨハネストがアホな事を言っているが、無視だ。
騎士達が作ったドロドロの・・・んだこれ?穀物の粥か?糊の間違いじゃねえよな?これを何とか食えるものに変えねぇと、材料が恨んで出てきそうだわ。
「味はまぁ・・・食えるか?食感が完全に死んでるんだな・・・」
大鍋いっぱいのドロドロの水分を、強火の火魔法でカラカラになるまで飛ばした。これで味が濃くなっているはずだ。それを手の平くらいの大きさに割って、香りの良い食物油でカラッと揚げた。
「うお?!俺達が作った粥が、パリパリの食感が美味い、何かに生まれ変わった?!」
「さすがです、カズサ様!!」
「美味しいよ、これ。カズサも食べてみて?」
俺の口に、カエサルが揚げた粥を捻じ込んでくるの、やめろや。見回せば、泣いてがっつく騎士共と、無表情ながら高速で皿を空けていくアズール。ヨハネストは拝んでないで、食え。
「お前ら、料理人雇えよな」
「「「「「それな!!!」」」」」
激しく同意する騎士共は無視して、俺は魔鳥の串焼きに齧りついた。うん、美味ぇわ・・・・。
騎士達、騎士共~の表記がちょくちょく変わりますが、カズサの気分次第です。
ユリウスは凄い速さで、沢山の肉を串に刺しました。それを見たガイウスが、良い嫁になるな・・・とにやけていたのは、ここだけのお話し^^
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