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勇者カエサルの憂鬱4

「はぁ~騒がしくて、何か疲れたな」

宿屋の風呂を借りて、湯船に肩まで浸かった。レベルとしては中級の値段の宿だが、風呂と飯が良い。

夕飯時だからか、今は俺の貸切風呂だ。鼻歌代わりに詠唱を呟けば、湯気が馬になって嘶いた。

「うおっ!」

誰かが入り口で、野太い悲鳴をあげた。ちっ貸切終了かよ。ちらりと目線を向けた先にいたのは・・・

「ガイウスかよ・・・」

「俺で悪かったな」

不服そうなガイウスが、湯船にまっすぐ向かってきたから、水鉄砲で右目を狙う。体をちゃんと洗ってから入れよな。呻くガイウスが全身をきちんと洗ったか確認し、入湯を許可する。俺の湯船にようこそ。


「はぁ~良い湯だな」

頭の片隅で誰かが相槌を打つ声がしたが、わかんね。ハハハンハン♪ってなんだ?

「久しぶり?今日は勇者パーティー勢ぞろいだな。依頼で来たのか?」

「ああ、いや。そのだな・・・お前を探しに来たんだ。カエサルが言い出してな・・・」

ガイウスが困ったように笑った。あんたいっつも、困ってんな?


話が長くなりそうなので、風呂を切り上げて2人で食堂に向かった。

「メニューが多いな。お勧めはあるか?」

「ん~ピマンの肉詰め、巻きキャメツの肉詰め、肉巻き野菜のトメト煮が美味い」

「相変わらず、肉が好きだな。じゃあ、今言ったの3つに、酒とお茶・・・パンはいるか?」

俺は深く頷く。パンは要る。絶対にだ。

出てきた料理を熱いうちに食う。話はその後だ。ふ~ふ~、肉が美味い!


「・・・でな、カエサルの元気が無くてな。仕事は完璧にこなすが、空いてる時間は・・・大抵、泣いてる」

「はぁ・・・」

腹が満たされて眠くなってきた。くだを巻き始めたガイウスに、適当に返事を返しておく。はいはい聞いてるよ。

「ふぁ・・・話を纏めると、カエサルが泣いてるのは、俺のせいって言いたいのか?」

ガイウスが酒の酔いで、とろんとした目を見開いた。無精ひげを擦って、首を傾げる。

「お前のせい・・・ではないとは、言い切れんな・・・」

「どっちだよ。出て行けと言ったのはカエサルだぞ?ユリウスも、カエサルも、あんたもさ。なんなわけ?」

いまいち意味が分かんねぇんだよな。俺と2人で旅してる間は、カエサルが泣いてるとこなんて見たことねぇし。

あ~答えがはっきりしねぇと、イライラすんな。


「夕方にカエサルに会ったけど、風邪でもひいてんのか?顔を真っ赤にして、情緒不安定だったぞ?

勇者の精神状態のケアも、パーティーメンバーの仕事だろうが?ガイウスかユリウスがちゃんと見てやれよ?」

そう言い捨てて、俺は部屋に戻った。もう眠さが限界点突破してっからな。

夢見は最悪で「お前のせいだ、寂しい、帰ってきて、寂しい」と胸筋の発達したひよこが、めそめそと泣いて俺の後を追いかけ回してくる夢だった。首筋にかいた嫌な汗で襟が濡れてて、気持ちが悪い。

「・・・なんか、呪いでも受けてんのか?俺は・・・」


二度寝もできそうにないから、朝風呂を借りて入ることにした。

「・・・カズサ!おっおはよう!」

「・・・はよ」

「く~頭痛てぇ。よお、おはようさん」

「・・・おはようございます・・・」

まさかの、朝から勇者パーティーの貸切風呂に来てしまった。はぁ~休まらねぇ。


「カ・・・カズサ、背中流そうか?」

「いや、いいわ。魔法で見えないとこも洗えるから」

なんか左隣が煩ぇ。ユリウスがぶつぶつ言ってんな・・・知らねぇけどな。

「おい、カエサル。ちゃんと洗えてねえぞ・・・ちっ貸せ。俺が洗ってやる」

洗髪用の石鹼を泡立て、カエサルの金色の髪をわしゃわしゃと洗ってやる。仕上げに香油を揉み込むといいぞ?

「あ・・・ありがとう、カズサ」

顔を赤くしたカエサルが、嬉しそうに笑った。ん?風邪がぶり返したか??


「ちっ・・・ユリウス、毛先が痛んでるぞ。クソが」

「痛い!どうして私の扱いが雑なんですか!ちょっ・・・あなたの石鹸で私の髪を洗わないでください!!」

ユリウスの黒くて長い髪が嫌でも目に入る。伸ばすなら、毛先までちゃんと手入れしろよ。

「お・・・おい、カズサ。カエサルが・・・」

ガイウスの髭の剃り残しが気になって、無言で剃り直してやった。

「む~・・・・!!!」

何でか、カエサルがぶすくれている。19の男がやっても、可愛くねぇわ。

両側からカエサルのほっぺたをやわやわと揉んでやると・・・お、萎んだな?よしよし。


「はぁ~染みるわ~・・・朝風呂、最高」

湯船に浸かって、目を閉じた。夢の中の胸筋ひよこが「お前のせいだ、寂しい、帰ってきて、寂しい」とめそめそ泣いている。ひよこの羽の色はなぜか、カエサルの髪の色と同じ金色だった。

「カズサ・・・しつこくてごめん。僕のパーティーに帰ってきて欲しい・・・」

目の裏の胸筋ひよこと、俺の目の前で泣きそうな顔で懇願するカエサルが重なった。


「はぁ~わかったよ。戻るのは今回限りだぞ?次はないからな?」

一回くらいなら、出戻ってお前を手伝ってやってもいい。

村を出る時に、お前の親父さん達に(強制的に)よろしく言われてたしな。

「っ?!ありがとう、カズサ!!また一緒に冒険ができるね!嬉しいよ!!」

カエサルが勢いよく抱き着いてきた。うわっ・・・お湯が口に入るから、やめれ。

ガイウスがほっとした顔で、何度も頷いている。ユリウスは・・・どんな表情だよ、それは??


翌朝、世話になった宿屋を引き払って、カエサルたちの拠点のある街へ戻った。

皆が楽しそうに笑っていたので、まぁいい。

人数が居れば難しいダンジョンに潜れるから、宝箱からたまに見つかる禁書が狙えるしな。

隣を歩いてたガイウスが、困り顔で俺を見ていた。あ?なんだよ?口に気を付けろ?知らねぇ。


荷物を置いたら、あの古書店に行ってみようか。考えてたら、自然と口角が上がった。

振り向いて俺を見ていた、カエサルの顔が赤い。・・・ん?また風邪か?


勇者カエサルの憂鬱終わり。

イメージは、修学旅行みたいな感じでしょうかね?


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よろしくお願いいたします!


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