俺は猫を飼いならして、本が読みたい。
それから2つの街を通り抜け(ここでも街の奴らにすげぇ見られて、疲れたわ)国が立てた予定通り、夕刻には宿泊予定の貴族の屋敷に辿り着いた。
「勇者様とお連れの皆様は、此方のお部屋をお使いください」
案内されたのはバカでかい部屋だった。ベッドが2つ置かれた寝室が2部屋、座り心地の良いソファが置かれたリビングまである。家具は良いもん使ってんだろうが、派手過ぎず嫌みが無ぇ。
「ベッドが2つ並んだ部屋が、2部屋ですか・・・」
「ユリウスは俺と寝るか?」
「いえ、私は・・・」
「カズサ・・・一緒に寝よう?」
「ああ?俺はガイウスと一緒でいいわ」
誰が一緒だろうがどうでも良いが、消去法でガイウスだな。
「「「・・・・・」」」
「と、取り敢えず着替えて、お茶にしませんか?」
「あ~・・・俺ちょっと寝るわ。さすがに魔力を使い過ぎだ。飯の時間になったら起こしてくれ」
俺はお手製の魔力回復薬を飲み干して、ベッドに寝転がった。
「カズサ、起きて!夕食の時間だよ?」
「・・・・・」
「カズサ、起きろ」
「・・・・・」
「早く起きて下さい!他の方を待たせては・・・痛っ」
耳元でキンキンと煩い、ユリウスの髪を無意識で引っ張っちまった。悪気は無ぇ。
「ふぁ~・・・」
だりい・・・。ガシガシと頭を掻いて、起き上がった。は~・・・だりい。
「俺の分だけ、こっちに運んでもらえ無ぇか?」
「駄目だろ」
「この家にも図書室があるんじゃない?ちゃんと挨拶をして気に入られたら、閲覧させてもらえるかもよ?」
俺の髪を梳いて整えていたカエサルが、目の覚めるような事を言った。そうだわ、貴族の屋敷には本がたんまりあるんだったわ。
俺は立ち上がって、ヨレヨレになった服に、水蒸気と熱風の魔法を掛けた。これやると服の皺が取れるんだよな。
「行くぞ」
「いや、貴方待ちでしたからね?!」
煩いユリウスには、どうしてやろうか・・・本のことで頭がいっぱいで、思いつかねぇ。次回に溜めておくか。
晩餐の席に着いたのは、この屋敷の主人デイカー男爵と男爵夫人、双子のご子息とご息女だ。騎士からはヨハネストとアズール。あとはカエサルと、ガイウス、ユリウス、俺だ。
「勇者カエサル様、そしてお連れの皆様、ようこそおいで下さいました。どうぞ今宵は、心ばかりのもてなしをお楽しみ下さい」
貴族にしては、気の良いおっさんって感じだな。カエサルを筆頭に軽く自己紹介を終え、食事が始まった。あからさまな媚売りも無ぇし、飯も美味い。
「「魔法使いカズサ様」」
蒸したデカいエビの背を割っている最中に、双子のガキ共が話しかけてきた。俺はエビを食うのに忙しいが・・・本の為なら、猫を被るのもやぶさかではない。
「はい、何でしょうか?」
「~~っ」
隣に座ったユリウスがフォークを落としそうになったが、意地で掴み直していた。何してんだ?
「「魔法使い様は、ドラゴンを見たことがありますか?」」
ドラゴンな。この辺には出ねえから、魔物図鑑で見た事あるだけだわ。男爵一家が俺を見ている。何かを期待するような目でだ・・・。
「少しお見せいたしましょうか?」
「ぶっ・・・ゴホンッ」
ガイウスが咽て、ユリウスに背中を擦られている。どうした、大丈夫か?
「「「「っぜひ!!」」」」
男爵夫婦が、双子と一緒に前のめりになって食い付いてきた。薄く笑った俺は手の中に水の玉を出して、ふぅ~っと息を吹きかけた。(動作に意味はねぇ。ただの演出だ)球体が解けるように翼が現れて、首を持ち上げた水のドラゴンが、青い炎を吐き出した。
「「「「「わっ?!すごい!!」」」」」
若干、こっち側の大人も驚いた声を出していたが・・・お前ら、子供か。
手を振ってドラゴンを離すと、双子の方に飛んで行く。壁際に控えた護衛が構えているが、心配すんな。
「ご安心を。ただの水ですから、危険はありません」
俺のとっておきの笑顔を添えておく。カエサルとヨハネストがゴクリと喉を鳴らしたが、腹でも減ってんのか?
キャッキャと喜ぶ双子の周りを旋回したドラゴンが、男爵夫婦の前を通り、テーブルの中央に来た時にパチンッと指を鳴らした。水のドラゴンは弾け、虹色の火花を咲かせて消えた。
「素晴らしい魔法だ!」
「「すごく綺麗でした!」」
「さすが僕のカズサだ!」
「さすが私のカズサ様ですね!」
ワッと歓声が上がり、拍手が鳴り響いた。うむ、男爵一家は好感触だな。後半に意味不明な声も聞こえていたが、無視だ。
その後の晩餐は会話も盛り上がり、俺は無事に図書室の閲覧権を獲得したのだった・・・。
カズサは本の為なら、あらゆる努力を怠りません。
少し煮詰まってきたので、更新ペースを落とそうかなと思っております^^;
ブックマーク、評価頂いてありがとうございます!読んで下さっている皆様、少しお待たせすることもあるかと思いますが、呆れずに続きを読んで頂けたら嬉しいです!