国境へ向けて・・・浮気者。
「殺す・・・」
「カエサル、抑えろ!岩は不味いぞ?!」
「そうですよ!どうか、お心を静めて下さい!あの騎士が落馬すれば、カズサも怪我をしますよ!!」
周りが煩ぇが、今は本を読みてぇ。夜中に読み溜めしたはずだったが、全然足りなかったわ。
「嬉しいですか?カズサ様」
「あ?・・・ああ」
「私は役に立ちますか?」
「・・・おう」
「私と結婚して下さい」
「あ~?いいぞ」
「うお?!」
読み耽っちまってたら、ヨハネストの体がまた、大きく後ろに反った。んだよ・・・落ち着かねぇ奴だな。
ヨハネストの隣を並走していた騎士と目が合った。ん!と両手を伸ばしたら、首を横に振られた。
「良いから、俺を抱けよ」
「「「「・・・・・・言い方!!!」」」」
「ちょっ・・・そういう、誤解を招く言い方は止めて頂きたい!!勇者様、殺気を抑えて下さい?!」
「煩い、早くしろ。ん!」
ヨハネストは急に大きく動くから、集中が途切れてイラつく。俺はじっくり本が読みてぇんだよ。両手を伸ばし続ける俺を、諦めた騎士が抱き上げた。
「あ!こら、返せ!!」
「ヨハネスト煩ぇ。俺はこいつが良い」
安定感を上げるために、騎士と向かい合って座った。俺の両腕を騎士の首の後ろに回せば、完璧だ。
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「か、カエサル・・・落ち着け?」
「か、カエサル様!カズサは本を読む為だけに、あのような破廉恥な格好を・・・あ!」
「バカ!」
ぶるぶると震えたカエサルが、あの言葉を叫んでしまった。5回目の追放の台詞を・・・。
「カズサのバカ!浮気者!!カズサなんか、僕のパーティーから出て行ってよ!!」
「「「・・・・・」」」
本に夢中のカズサには、聞こえていなかったようだ。ほっとした俺とユリウスの横を、風が通り過ぎて行った。
カエサルだ!カエサルが鬼の形相で、カズサの方に駆けて行く。あの顔は勇者としては不味い!!
「カズサ!!」
「あ?」
「こっち見て、僕の話を聞いてよ!」
「んだよ」
「浮気者のカズサなんて、僕のパーティには必要ないから!」
「そうか」
「~~~~っ今すぐ、出て行って!!」
「わかった、わかった」
俺達が追い付いたときには、遅かった。自分で言い出しておいて、呆然自失のカエサルは固まって動かない。
「カエサル様、何を?!カズサ様も、王命ですので離脱は難しいかと!」
「「「真面目か!!」」」
む、何人かの騎士と被っちまった。カズサは本に夢中で、この惨状に気づいていない。カズサを抱えた騎士はまともだが、真面目過ぎる。
「勇者(魔)の手から離れたカズサ様は、俺が守ります!!」
うん、副隊長は黙っておこうか。どうすんだよ、この状況。日程に余裕ないんだよな?!
「あの、ご提案致します。日程の遅れは気になるかと思いますが、少々の休憩を挟まれては如何でしょう?我々勇者パーティーには話し合いが必要ですし、時間の遅れはカズサが如何様にもできますので」
さすがだよ、ユリウス。愛してる!!
騎士たちも納得してくれたようで、少し進んだ所にある休憩場で馬を下りた。敷布を敷いた上に座った騎士に、カズサはしがみ付いたままだったが・・・。
「「「「「・・・・・・・・」」」」」
俺達は茶を啜り、暫く待った。誰も言葉を発しない、緊張状態を解いたのはカズサだった。
「ふぅ・・・満足」
本当に満足したように笑った顔を見た、数名が顔を押さえて俯いた。耳が赤いのは、おっちゃん見逃すからな。
「「笑顔・・・可愛すぎる」」
うん、2名ほど駄々洩れの奴がいたな?カズサを抱っこしていた騎士が、困ったように茶の入ったカップを渡している。
「この茶、美味いな。どっから仕入れてる?あ?王宮で作ってるやつか。余ったら分けてくれ」
「呑気だな、カズサ。空気を読むことを覚えような?」
「そうですよ!カズサが終わるまで、待ってたんですよ!皆さんに申し訳ない・・・いひゃい!」
ユリウスを虐めるカズサの両手を取って、万歳させる。これやると、カズサが怒るから、可愛いのな。
「は?!」
俺は今何を・・・?隣から刺さる、ユリウスの視線が痛い。カズサって、何気に魔性なのか?!
「貴方の尻が軽いだけでしょう・・・」
「いや、違うぞ?!」
ユリウスの地を這う声を、初めて聞いた気がした。怖、可愛いのな!!
イメージとしては、カズサは可愛い系の容姿ではありません。
しかし、普段がちょっと雑で乱暴な物言いと、隠れ母ちゃん気質なのに対して、今回は本が読みたいばかりに、周りに本人無自覚で甘えているようです。
読み返して、私も「おや?」となりました。無自覚でカズサのデレを書いていたようです。
纏め役のガイウスが頑張っていますし、ユリウスもカズサが絡まなければ、頼りになりますね。
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