国境へ向けて・・・禁断症状。
「おい、カズサ様にあまり絡むなよ」
「見たか?馬に跨る際の、細いが引き締まった足を!」
「お前・・・」
「あの太腿を開かせて、伸し掛かりたい!」
駄目だこいつ・・・頭が痛くなる。幼馴染のこの男は、数年前までは立派な奴だった。こう言うと語弊があるが、今でも隊長という責務は完璧にこなしてはいる。
いるのだが・・・魔法使いカズサ様が、勇者ユリウス様とこの王都に現れてから、人が変わってしまったのだ。
「勇者のお供として嫌々ついて来てます」という顔を隠しもせず、無愛想だった16歳の魔法使いが、初めての遠征で見せた強大な力を見てから・・・こいつはカズサ様に惚れこんでしまった。
この国では・・・いや、周辺国も含めて魔法使いは希少だ。かつては王宮に数人、魔法使いが居た時代があったらしいが、今では童話の中でしか出会えない。
本来なら王宮に迎えたい存在だが、縛られることがお嫌いなカズサ様に、交渉はバッサリと切られたらしい。
「そういえば、晩餐会の夜に図書室までご案内したんだったか・・・」
「うん、何か言ったか?」
「いや、何でもない。出発の時間だ」
カズサ様に笑い掛けられた事があるなんて、信者のお前が知ったら絶対に絡まれる。この件は墓まで持って行く事にしよう。
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「はぁ・・・」
中央通りを城門に向けて行進する俺達に、民衆が笑顔で手を振ってくる。鼓舞する曲かなんかが演奏されて、紙吹雪が舞っている・・・後掃除が、大変そうだわ。
「出発でこれなら、使節団が来たらどうなるんだ?」
ガイウスの呟きには同意だ。税金の無駄使いだから、出発の時には無しで良かったよな。
「勇者が王命で都を離れるのです。このくらいは当然ではないですか?」
カエサル信者のユリウスが何か言っているが、金勘定も知らない奴は黙っていてもらいたい。
「あ~・・・早く、門の外に出てぇ。悪目立ちが過ぎるわ。カエサル、笑え。お前に群衆の目を引き付けてくれ」
「え、うん。わかったよ!さっきから、カズサの名前を呼ばれるのとか、許せなかったんだよね!」
「「・・・・ああ、黒い笑顔が・・・!」」
ガイウスとユリウスが同時に顔を覆ったが、今さら隠しても無駄だ。お前らも充分、悪目立ちしているからな。
「・・・もういいか?」
「いえ、もう少し・・・街を二つほど、通過してからにして下さい。民衆の目がありますから」
王都を抜けて、大きめの街を一つ通過した辺りで、限界がきた。ヨハネストの側に居た騎士が、首を横に振る。
「カズサ、頑張って!」
「耐えろ、カズサ」
「そうですよ!我儘言わない・・・痛っ?!」
あ~無理、本当にもう、限界だわ。ユリウスの両頬を引っ張りながら、考える。王都を出てから半日以上、馬上の上だ。
国境線まで3日ほど掛かるが、余裕があるわけじゃ無ぇ。休憩も馬上の上だぞ・・・本が読め無ぇじゃねえか。
俺の周りでバチバチと火花が舞い始めた。苛々し過ぎると、無意識に出ちまうんだよな。
「このままでは、馬が怯えてしまいますね」
「どうすれば・・・」
騎士たちが背後でヒソヒソと何か言ってるが、聞いている余裕が無ぇ。
「禁断症状で、飢えてるカズサも・・・良いね!」
「カエサル様・・・それは・・・」
あ~・・・何か、ぶっ放したくなってきた・・・火花がバチンッと弾けた時、俺の体が馬上から浮き上がった。
「あ?」
「カズサ様、お任せ下さい!第二騎士団隊長の私の膝に乗って移動すれば、本も読めますし!見栄えも問題ありませんから!!」
いつの間にか俺は、ヨハネストに抱かかえられて、奴の膝の上に座らされていた。つまりは、馬に2人乗りしてる感じだな。なるほどな。俺の両手は、手綱を持たなくても良いってわけだ。
「でかした。ヨハネスト、お前は使える奴だ」
「ありがとうございます!お礼はキスで!・・・うぐっ」
でかい犬みたいな毛並みの頭を、ぐしゃぐしゃと掻き回す。俺が鞄から本を取り出している時に、ヨハネストの体が後ろに反ったが、見上げたら赤い顔で笑っていた・・・。
いつもは移動手段が、徒歩・転移・馬車のカズサは、何時でも本が読めたのですが、今回は馬上なのでその余裕が無いのです。
父親に「馬は人を殺す、余所見は絶対にするな」と教えられているので、片手で綱を握ることも、魔法で本を浮かして余所見もできないのです。苛々はMAXです。「使えるものは、使う」の信条が爆発します・・・たぶん^^;
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