迷子の子猫ちゃん 4
階段を上って、一際ギラギラと豪奢な扉の前に来た。部屋の中では、醜く太った親父がニタニタ笑いながら、ソファにふんぞり返ってやがる。護衛の奴らも頭が悪そうな顔ばかりだな。
「お前がこの家の主か?ガキ共を地下に閉じ込めていただろう?」
「おや、高名な魔法使い様は、どんな奴隷がお好みですかな?金さえ払って頂けたら、どんな要望も叶えますぞ?」
あ、駄目だこいつ。俺の事を知ってるって事は、貴族なんだろうが・・・仮にも勇者パーティーの俺に、奴隷を売りつけようってか?
「奴隷の売買は、この国では違法のはずだが?」
「心配いりませんよ、皆こっそり楽しんでますからな!」
唾を飛ばしながらゲラゲラと笑う様が、酷く醜い。不快な野郎だ。
「お前よりも、良い奴隷を用意できる奴は、いるのか?」
「いやしませんな。この国の法の網を潜れる切れ者は、私だけですからな!」
そうかそうか。お前しかいないなら、末端の奴らは芋づる式に狩れるわな。あ~安心だわ。
「じゃあ、もう良いな?」
「は?何が・・・」
「汚ねぇ口を閉じていろよ?舌を噛み切っても、俺のせいにするな。氷の楔よ穿てice Wedge!」
「ひぎゃあああああ?!!」
ちっ・・・外したか。突然、四方八方から現れた、氷の鎖に刺し貫かれた護衛達が倒れ、呻いている。
ソファからひっくり返った親父は、辺りの惨状を見て漏らしてやがる。ああ、汚ねぇ生き物だ。消えても誰も困ら無ぇよな?
「包囲圧縮・・・siege compression」
「ひっ・・・助け・・・!」
砕けた瓦礫が集まって、貴族の親父を包んでいく。瓦礫の量が増えれば、体を圧し潰す負荷が全方向からやってくるだろう。これじゃ、まだ足りないな?もっと苦しんでも良いよな?
「お前は消えても良いゴミだな?・・・למחוץ אותו.」
人間に掛けていい魔法じゃねぇが、欲にまみれたゴミ相手なら良いだろうが。
ミシミシと骨が軋む音が響く中、閃光が閃いて瓦礫の檻を砕いちまった。あと少しで肉塊にしてやれたのに。
「ちっ・・・」
もう一度、詠唱をと開いた口を塞がれた。睨みつけた俺を、カエサルがきつく抱き締めた。背骨が悲鳴をあげている。痛みに顔を顰めた俺を、カエサルが笑顔で覗き込んだ。
「それくらいで良いんじゃない?どうしても殺したいなら、止めないけど」
笑っていても、目は笑ってねぇ。本気で言ってんだから、俺が自重しねぇといけねえだろうが。
「はぁ~・・・良いわ。殺す価値もねぇ」
床に転がった、ちょっと血だらけの親父を拘束しておく。こんくらい、ガキ共に比べたら大した事無ぇだろ。
カエサルが俺の頭に手を伸ばして、グイッと引き寄せた。額をくっつけてくんな。緑色の目が心配そうに見てくんのも、うぜぇ。
「カズサの目の色、赤くなって綺麗。こんな事、思っちゃ駄目だよね・・・ごめん」
「ああ?・・・離せや」
カエサルを引き剥がして、自分の目を掌で覆った。深く深呼吸をする。どうやら俺は、ガキの頃からマジギレすると、瞳が黒から赤に変わるらしい。まるで魔族みたいだな・・・。
「どうだ?」
「ん、いつも通りの綺麗な黒だよ。吸い込まれそう」
カエサルがアホな事を言うから、つい笑っちまった。俺を褒めたって、何も出やしねぇぞ。
「ああ、その顔・・・好きだなあ」
顔を真っ赤にしたカエサルが、俺との距離を詰めてきた。その手は何だ?俺の腰を触るんじゃねぇ。
「ちょお~~っと、待ったあああ?!」
カエサルの鼻と俺の鼻の間に、ごつい手が割り込んできた。手の先を見れば、汗だくのおっさんが居る。
「ガイウスか、どうした?」
「いや、どうしたじゃないんだわ?!俺が憲兵を連れて来たら、屋敷がバーン!ってなって、グシャッとなったわけ!」
「ああ・・・猫の親父を呼びに行くついでに、憲兵も連れて来てくれたのか。さすが、できる筋肉だるまだ」
「だからそれ、悪口だからな?!カエサルは・・・睨むな。邪魔して悪かったが・・・憲兵に、状況報告を頼む」
「頼んだぞ、カエサル。お前だけが頼りだぞ?」
何でか、ガイウスを睨らんでいる、カエサルの頬を突いてみた。面倒臭ぇ国とのやり取りは、勇者のお仕事だ!
「う、うん。わかったよ!僕に任せて!」
頬を染めたカエサルが、憲兵に説明をしに行った。俺はガキ共の様子でも見てくるか。
「お前なあ~・・・ああいうの、良くないぞ?わかってて、やってんだろ」
「ああん?何がだよ」
「お前が笑って頼めば、カエサルは何でも言うことを聞くだろうが。あざといんだよ!」
「はぁ?意味わかんねぇ。適材適所だし、使えるもんは何でも使うだろうが」
「鬼!悪魔!」と後ろでガイウスが煩いが、無視だ。俺は忙しいんだわ。
「おい、良い子で待ってたか、ガキ共」
結界で守ってるから、怪我のしようも無ぇがな。崩れた屋敷を見て、口をポカンと開けてるガキがほとんどだった。結界を解いて、開きっぱなしの口の中に、蜂蜜とミルクルを混ぜて固めたものを入れてやった。
「「「?!~~~っ!!」」」
「美味いか?」
コクコクと頷きながら、頬を押さえて悶えてやがる。おかわりは沢山あるから、ゆっくり食えよ。
「おいおいおい、どうなってやがる?可愛いが過ぎるだろうが」
ガイウスが俺の後ろで相好を崩している。おっさん・・・ロリコンじゃねぇだろうな?
「そんな顔で見るな。俺はガイウスだ!カズサとカエサルの仲間だぞ!」
ニカッと笑いながら、近づいて来るんじゃねぇ。無意識に、ガイウスとガキ共の間に立っちまった。
「誤解だ!」
何がだよ・・・?おかわりが欲しい獣人のガキ共が、俺の足をよじ登ってきた。クッ重てぇ・・・無理だ。
ガキ共の口におかわりを放り込んで、カエサルに投げて渡した。宙を飛んだガキは、クルクルと回って楽しそうだ。
「いいな・・・僕もおかわりちょうだい」
ガキ共が、雛鳥みたいに口をあ~っと開けて、俺を取り囲んだ。クッ・・・入れても入れても、終わらねえのは何でだ?!
「こんな時にユリウスのアホがいれば・・・」
「誰がアホですか?!もう・・・何をしているんですか?この子達は・・・」
いつの間にか、ユリウスが来ていた。猫の親子と一緒に、憲兵に呼ばれて来たらしい。
「閉じ込められていたガキ共だ。屋敷の貴族は、捕まったが・・・こいつらをどうするか、だよな?」
「何てことでしょう・・・可哀そうに。私にお任せください!教会で保護して、きちんとご家族を探してあげますからね!」
涙を流すユリウスに任せておけば、大丈夫だろう。ガイウスがユリウスの肩を抱いて、付き添っている。
はぁ、もう俺がやれることは無いな?拠点に帰って本が読みてぇ。
周りを見回すと、猫のガキが手を振ってきたから、軽く振り返した。よし、大丈夫だろ。
事後処理は他の奴に任せて、俺は一人拠点に戻って、読みかけの本を開いたのだった・・・。
迷子の子猫ちゃん 終わり。
カズサが若干、切れ過ぎております。最後は禁忌魔法を呟きますが、カエサルに邪魔されました。
が、カズサ信者のカエサルは、本気で止める気は無いようです・・・勇者とは?
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