迷子の子猫ちゃん3
「認識疎外は掛けるが、音は消せねぇ。話し声と足音に気を付けろ」
正面から行っても、入れねぇだろうからな・・・忍び込んで、実態調査だわ。
「わかった。わ~ドキドキするね!」
「・・・遊びに行くんじゃねぇぞ」
カエサルがガキみたいに喜んでんのが、意味わかんねぇ。人選を間違えたか?
ド派手な屋敷の門は、もちろん施錠されている。俺は転移すりゃ良いが・・・カエサルはどうするか聞く前に、ひらりと門を飛び越えて行きやがった。けっこう高さがあるが、勇者の身体能力には関係無ぇのな。
「ううっ・・・」
おっと。門番が居ねぇと思ったら、番犬が居たか。俺達の姿は見えないが、匂いを嗅ぎつけて集まってきやがった。
腰に下げた鞄から、睡眠香を出して火をつけた。風魔法で俺達に煙が来ないようにする。即効性だから、鼻の良い犬はイチコロだわ。
「凄い効き目だね。あは、寝顔が可愛いね」
寝転がる犬達の間を進みながら、カエサルが呑気に笑っている。緊張感の無ぇ奴だ。
さて、屋敷内を通って地下牢を目指すか・・・別の入り口を探すか?考えるのが面倒臭ぇな。正面から行くか!
「行くぞ。手を出せ」
「うん?!」
さすがに正面の扉前には人がいるから、開けられ無ぇ。ここは転移で行くが、体が接触してねぇと一緒に飛べないのが課題なんだよな。カエサルの手を掴んで、屋敷の中に2人で転移した。
「・・・っ」
カエサルを見ると、口元を覆い隠して俯いている。額をグイッと押し上げて顔を覗き込んだら、真っ赤になってんのは何でだ?
まあ、どうでも良いから進むか。屋敷の中は外観と同じで、ギラギラと派手な装飾が下品な感じだ。
使用人たちが行き交う中を、気配を消して進んで行く。途中で、カエサルに袖を引かれた。
「カズサ、あの使用人の後をつけよう」
指し示す方を見れば、コソコソとした動きで、ワゴンを引いている奴がいる。スープ鍋に、硬そうなパンって・・・わかりやす過ぎんだろうが。た
怪しい使用人の後を追って行くと、屋敷の裏口から外に出て、小さな小屋の中に入った。
小屋の中は何も無い空間で、奥へ進むと坂道になっている。地下に潜って行ってるのか?緩く螺旋になった道だ。
「よく、こんな道を作ったね?」
カエサルの息が耳にかかって、くすぐってぇ。道が狭いのもあるが、異様にカエサルが寄ってくんだよな。
「悪いことする奴ほど、努力を怠らねぇからな」
どうやら、底に着いたらしい。奥に檻が見える。離れた場所から、使用人が飯を配っているのを眺めた。
仕事を終えた使用人が、坂を上がって行ったのを見届けてから、俺達は鉄格子に近づいた。
「「・・・」」
檻の中では、ボロを着たガキ共が、粗末な飯を必死で食っていた。夢中過ぎて、俺達にも気づいていない程だ。
10人以上いるか?人間のガキと、獣人も居るな・・・ちっ従属の首輪が邪魔で、飯が食え無ぇガキもいる。
「おい、お前ちょっとこっち来い」
飯を食い終わって、俺達を見ていた男のガキを呼んだ。他よりも年が上っぽいな。逡巡するガキを再度呼んだ。
「取って食いやしねぇ。今日、猫の獣人が此処から出て行っただろ?俺はそいつの知り合いだ」
ガキの目が揺れている。まあ、いきなり現れた大人に警戒すんのは、当然だわな。
「こいつは俺の仲間の“勇者”だ。知ってっか?悪い奴や魔物を倒すのが、仕事なんだよな?」
「うん、そうだよ。こんにちは、僕は勇者カエサル。彼は魔法使いのカズサ。皆で、此処を出よう?」
カエサルがニコッと笑うと、ガキ共がこっちを見た。何人かが、おずおずと鉄格子の前まで近づいて来た。
「本当に勇者?ここから助けてくれるの?」
「ああ、直ぐに出してやるよ。だが慌てるな、話を聞いてからだ」
俺は右手に小さな炎の鳥を出して見せた。ガキ共がワッと騒ぐのを、人差し指を口に当てて制す。
「シッ良いか、此処から抜け出すのは魔法で直ぐだ。安心しろ、悪い奴もぶっ飛ばしてやるから」
「皆、知っていることを話してくれるかな?」
ガキ共が頷いて、話し出した。ここに居るガキは全員で18人。その内の半数が獣人だ。親に売られて来た奴もいたが、大半は遊んでる時に無理やり攫われたそうだ。
猫のガキ同様、獣人のガキ共は甘い匂いで誘い出されていた。何の匂いか成分を調べて、規制しねぇと危ねぇな・・・。
「じゃあ、定期的に大人が見に来て、お友達が連れて行かれてたんだね?」
「うん。綺麗な服を着た・・・笑ってる顔が怖いの・・・」
「僕達を見て、丈夫な奴が良いって。直ぐに死なないようにって・・・」
ガキ共が泣き始めた。嫌な話だ、これだけ聞ければ充分だろう。この屋敷の主人は、完全に真っ黒だ。
「よし、嫌な事を聞いて悪かったな。良いか、今から檻を開けるが、慌てて飛び出すなよ?」
ガキ共を結界で包み、檻のカギを火魔法の火力を上げて、焼き切る。檻から出したガキ共の、従属の首輪も外してやった。
重てぇ首輪だ・・・。こんなもん、ガキにつけやがって。
ガキ共を連れて、坂を上って外に出た。番犬共はまだ当分、起きないだろう。
「さて、やるか。カエサルは此処で、ガキ共を見ててやってくれ。結界を多重掛けしとくから」
「うん、わかったよ。ある程度で止めた方が良い?」
「あ?・・・止め刺す前に、頼むわ」
認識疎外を外して、入り口の扉を蹴破った。「なんだお前は?!」と定型文で騒ぐ、警備兵達を風で吹っ飛ばす。
「そこのお前、この家で一番偉い奴の所に案内しろ」
壁際で腰を抜かしている執事は使えねぇな。気の強そうなメイドに頼むか。メイドは俺を睨んでいたが、騒ぎを聞きつけて来た警備兵も吹っ飛ばしてやったら、笑顔で案内してくれたわ。
まだ続きます。カズサが激おこなので、やり過ぎないと良いですね^^;
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