迷子の子猫ちゃん 1
「息災か、勇者カエサル、聖徒ユリウスよ」
威厳に満ちながらも、内に秘めた優しさを滲ませる声で、王がカエサル様と私に声を掛けて下さいました。
本日の謁見は美しい庭が見える、王族の私的なサロンで行われております。
丸いテーブルを囲むのは、王とカエサル様、私の3人だけです。王の少し後ろには、宰相と近衛隊長が控えています。サロンの入り口には護衛が立ち、壁にはメイド達が微動だにせずに佇んでいるのです。
少々緊張も致しますが、これも定例ですので慣れたものです。香り立つお茶を飲んでから、見目の美しい菓子を口に運びます。
とても美味しいのですが・・・カズサに舌を洗脳された私たちには、少々物足りなさを感じてしまいますね。
「おかげ様で、パーティ全員が元気にしておりますよ。王様もお元気そうで嬉しいです」
カエサル様が輝くような笑顔で、お話しされております。カズサにも、カエサル様の爪の先でも見習ってほしいものですね。
「近く、南方のスバルトフレム連合国より、使節団がやって来る事になってな。勇者パーティに両国の境界線まで、出迎えに行って欲しいのだ」
スバルトフレムは、獣人族の小国が集まって出来た国です。我が国と国交を結んでいない国の、使節団の出迎えに勇者を出すとは、前例の無い事です。
しかし、願いでは無く王からの命令ですから・・・断れないでしょうね。
「使節団の中に、何方か位の高い方がいらっしゃるのですか?」
私の質問に、宰相が眉尻を下げたました。王も少し困ったように微笑んでいらっしゃいます。
「うむ・・・使節団の中には、スバルトフレム連合国の勇者が居るそうでな」
「「・・・?!」」
勇者は有事の際に国を守れる様に、外国に出ないものなのですが・・・。
「新しく友好を結ぶかもしれない国を、この目で見たいとの事で・・・彼方の勇者殿は国境まで来て、戻るそうなのですが・・・」
宰相が汗を拭きながら、カエサル様の反応を見ております。彼方が勇者を出すなら、此方も勇者で出迎えたいと。カエサル様は、自慢試合の道具では無いというのに!!
これは、勇者を選出する神への冒涜に他なりません。教会関係者としては、黙っていませんよ!!
「そ・・・っ」
「わかりました。謹んでお受けしますよ」
身を乗り出しかけた私を制して、カエサル様が明るい声で答えました。うう・・・納得がいかないですが、カエサル様がお決めになったのなら、私は従うまでです。
「おお、お主なら、そう言ってくれると思っておったぞ!」
王と宰相が喜色満面です・・・狸共め!・・・おっと。神よ・・・今のはどうか、聞き流して下さい。
出発日時などの詳細を確認後、王への挨拶を終えた私達は、拠点へと戻ったのでした。
***************
「ああ?獣人の国まで、出迎えに行けだぁ?」
王城から戻ったユリウスが、面倒くせぇ依頼を持ってきたので、こめかみをグリグリと揉んでやった。
「いたっ痛い・・・!ちょっ・・・?!やめっ」
俺の両手を掴んで抵抗しても無駄だ。筋肉の無ぇ細っこい腕で、俺に勝てるわけが無ぇだろうが。
「こらこら!カズサ、ユリウスを虐めるなって!」
「くっ・・・筋肉だるまが!」
「ちょっ?悪口が駄々洩れてんぞ?!」
ガイウスに両手を掴まれてバンザイをさせられた俺を、ガイウスの陰に隠れたユリウスが笑って見てやがる。
後で絶対に泣かしてやるからな。飯のおかずをユリウスだけ減らしてやっても良いな。
「カズサ、ごめんね?僕が依頼を受けちゃったから・・・」
カエサルが謝ってくるが、ごめんねって顔じゃ無ぇだろうが。頬を膨らませて、俺達を睨んでんじゃねぇよ。
「はぁ~・・・取り敢えず、詳細を話せ。どうせ断れない依頼なんだろうが」
神託を受けて王都に召喚された勇者は、様々な支援を受ける代わりに、王命には逆らえなくなる。まぁ、本気で嫌になりゃ・・・勇者一人で、騎士団全員ヤレるだろうがな。
茶を淹れて、報告会だ。出発は明後日の明朝だと?ちっ・・・急だな。読みかけの本を・・・読んでる暇は無ぇか。南方の勇者が、国境線までカエサルを見に来るって?その辺は、俺にはあんま関係無ぇな。
「ちょっと猫の店に行ってくるわ」
今から行けば、店を閉める頃合いだろう。旅の買い出しは、明日だな。
「俺も行きたい!」
ガイウスが猫に食い付いたが、連れて行かねぇ。お前は装備の手入れでもしてろ・・・泣き真似をやめろ、寒気がするわ。
商店通りを抜け、屋台の集まる区画に向かった。猫族の親父が店仕舞いをしている。ん?他にも誰か居るな。
「よぉ。呼び出しの用件を言え」
「イらっシゃい、せっかちね・・・アレ、うちノ息子は一緒ジャ無い?」
「あ?茶の時間前には帰って行ったぞ?・・・帰って無いか?」
店仕舞いを終えた、親父がソワソワと辺りを見回した。道で草を食うなと言ったのに・・・ガキが。
「念の為、防御の魔法は掛けといた。怪我は心配すんな」
「ソウね・・・ありあとニャ。カズサ、紹介するニャ。商人ナカマの狐ネ」
いつの間にか、俺達の側に狐の獣人が立っていた。年は猫の親父より、ちょい上か?灰色の毛並みの細目の男だ。
また細目か・・・細目の奴は、何か信用ができ無ぇんだよな。
「初めましテ、南方から王都に店を移して来ましタ狐です。香辛料と茶を専門に扱ってますヨ。初めてノ場所で、不安でショう?猫に上客を紹介して貰ったんですヨ」
大げさな礼をした男は、細目を薄く開けて笑った。だから、細目が開くと怖えぇんだよ!
「・・・香辛料か、店はいつからだ?」
「明日からです、どうぞ御贔屓にネ」
店の場所を伝えた狐は「また明日ネ」と言って、去って行った。もの凄く胡散臭い奴だ・・・香辛料は気になるがな。
「あれが紹介したい奴か?」
「そうだヨ。同郷の人は王都デは珍しいカらネ。狐のお店モよろシくネ」
ペコリと頭を下げて笑った、猫の親父と別れて拠点に戻りがてら、猫のガキを探したが居なかった。
いったい何処で草を食ってやがるんだ・・・?
獣人は名前を大事にするので、種族で呼び合います。猫、狐・・・等です。
狐は猫より舌が長いので、より人族に近い発音ができます。
またカズサが面倒事に巻き込まれそうですね^^;
ブックマーク、評価ありがとうございます!嬉しいです^^