小さな手紙配達人。
「カズサ!客だぞ~」
ドアのノック音と共に、ガイウスに声を掛けられた。作業の手を止めて、出来たばかりの魔道具を回し見ながら、チェックしていく。
「ああ?良いとこで・・・誰だ?」
「何か、可愛い猫ちゃんだぞ!」
猫ちゃんてな・・・興奮気味に話すおっさんは、無視だ。握っていた魔道具を魔封箱に仕舞って、部屋を出た。
階段を降りて行くと、エントランスのベンチに座る、猫のガキが俺に気づいて手を振った。薄桃色の肉球が左右に揺れている。
「・・・っ」
俺の後ろで息を呑む音がしたが、無視した。
「ちび助か、一人で来たのか?」
猫のガキの横にドサッと座って、ふわふわの頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。耳に当たって、くすぐったかったのか、キャッキャッと笑っていやがる。
「くっ・・・っ」
階段の方で何か聞こえたが、無視だ。
「オレぇ、手紙もッて来ィタ」
ガキが懐を覗き込んで、折りたたんだ紙を取り出すと、俺に渡した。開いて見ると、少し蛇行した文字が書いてある。“カズサえ、会わせたい人がイるカラ、時間のアル時に店に来て欲しいニャ”文字で書いても、語尾はニャなのかよ・・・。
「猫の親父からの呼び出しか・・・返事書くから、待ってろ」
今日は王との謁見の日だ。カエサルとユリウスが戻るまでは、俺とガイウスは拠点で待機してなきゃいけねぇ。
たぶん、茶の時間が過ぎれば戻るだろう。屋台の閉店後に店に寄る事を、紙に走り書きした。キッチンの棚を開けて、乾燥した果実入りの固焼きの菓子と、甘くしてミルクルを混ぜた茶を瓶に入れ、纏めて布で包んだ。
「待たせたな・・・何やってんだ?」
エントランスに戻ると、両手を掲げた中腰のおっさんがいて、その背中の上でガキがピョンピョンと跳ねていた。
「いや・・・ちょっとな・・・?」
気まずそうな顔のガイウスの上から、得意顔のガキがくるりと一回転して飛び降りた。そのまま俺の方に走って来て、手に持った包みをチラチラと見ている。
「オレぇ、おいチゃンに捕マるトコだッたニャ~。クンクン・・・」
「この中に手紙と菓子が入ってるから、帰ったら親父と食べろ。・・・帰ってから、だぞ?」
「うニャぁ~甘ィ匂いニャ~・・・オレぇ、がマんデきニャ・・・いニャ~」
出来ねぇのかよ。猫のガキは口の端から、ぼたぼたと涎を垂らしている。クルクルと包みの周りを回りながら、匂いを嗅いで・・・俺をチラチラと見るんじゃねぇ!
「おいおい・・・可愛すぎだろうが」
ガイウスの相好が溶けかけている。はぁ~たくっ・・・。猫のガキを連れて(ガイウスも勝手について来たが)キッチンに向かうと、椅子にクッションを幾つか敷いて座らせた。
包んだものと同じ菓子を皿に乗せて、テーブルに置いた。ぬるめにした甘い茶に、ミルクルを入れたカップも添えてやる。ついでにガイウスと俺の分も並べて、席に着いた。
「涎が凄ぇな・・・食っていいぞ。硬いから、良く噛めよ」
布でガキの口元を拭ってやる。乾燥して甘みが増した果実が、噛むほどに美味い。硬く焼いた生地は麦の風味がするな。ガキは夢中で食べているが・・・次はもう少し、発酵油を足して柔らかく作るか・・・。
食い終わって、満足したガキの口をもう一度拭ってやった。
「まっすぐ帰れよ。道で草を食うな」
「うニャ~わかッタニャ。カズさ、ありあとニャ~」
満足気に手を振って、駆けて行くガキを見送った。俺の隣のおっさんが、終始デロデロで酷かったが・・・無視だ、無視。
「うみゃあ、うみゃあ」言いながら、餌を食べる猫をTVで見た事ありますが・・・
うちで飼っている猫は、無言で食べるのでつまらないです^^;
お土産の包みは、猫の子供の背にカズサが背負わせてあげました。
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