甘くて苦い夢のお話。
「カエサル、ずっと言えなかったんだけど・・・おまえが好きだ」
そう言って、カズサが照れ臭そうに僕にチョコレートをくれた・・・
「・・・・は?!!・・・」
突然視界が切り替わって、見えたのは見慣れた自室の天井だった。
「あ・・・夢?」
突然の覚醒に驚きながらも、幸福な夢の余韻に浸りたくて再び目を閉じた・・・。
「・・・おい、起きろ!カエサル!昼飯、食わねえのか?」
頬を軽く叩かれる感触に、重い瞼を開くと・・・視界には僕を覗き込んでいるカズサの顔。
腕を伸ばして、抱き寄せると・・・「寝ぼけんじゃねえ」と頭を叩かれた。
「あれ~?・・・」
頭を擦りながら1階に降りて行くと、既に全員がテーブルについていた。
「おはようございます、カエサル様」
「カエサル、おはようさん」
「ほら、座れ」
カズサが僕の分の昼食を配膳してくれた。今日のは、初めて見る料理だね?
「美味しそうだけど、これ何?」
「これな。猫んとこで、南方から入ってきたスパイス買ってよ。レシピ貰ったから、作ってみた」
「カリイライスっていうそうですよ!」
「カエサル、俺達ずっと待ってたんだぞ。一先ず食おうや」
ガイウスが我慢できないという顔で言った。確かに・・・食欲をそそる、良い匂いだな。
「「「いただきます!」」」
「あいよ~」
「「「「・・・・・・・?!!」」」
「う・・・美味い?!」
「辛みの後に、ほのかな野菜の甘みがやってくる・・・美味しいですね!」
「うん、僕は好きだな!美味しいよ、カズサ!」
「あ~?・・・けっこう美味いな」
僕達は無言で、それぞれ2皿ずつおかわりして食べた。初めての味だったけど、とても美味しかった。
「そういや、今日は珍しく寝坊だったな?」
「何処か、お身体の調子が悪いのでしょうか?癒しをかけますか?」
「ああ、大丈夫だよ!今朝はちょっと・・・夢見が良くてねっ二度寝しちゃったんだよ」
「へえ、どんな夢だ?」
食後のお茶を飲みながら、皆に夢の話をする。
「夢の中では・・・バレンタインデーっていう記念日があってね」
「ほう」
「好きな人に、チョコレートっていう甘いお菓子をプレゼントする日なんだ」
思い出して、ドキドキしてきた。カズサの顔をチラッと見ると、思案顔だった。
「チョコレート・・・」
立ち上がったカズサが、貯蔵棚をゴソゴソしている。後頭部の寝癖が可愛い。
「そのバレンタインデーがどうしたんだ?」
「あ、えっと・・・夢の中でね・・・カズサが僕に、チョコレートをくれてねっ・・・」
「「・・・・・・ごくり」」
「それで、僕の事好きだって・・・言ってくれたんだ」
ガイウスとユリウスと顔を近づけて、小声で言って・・・うわああ~って両手で顔を覆った。
「カズサが・・・か」
「ありえ・・・コホンッ」
「「良かった(な)ですね!」」
本当に幸せな夢だった。カズサが僕の名前を呼んで・・・こんなふうに・・・
「カエサル」
カズサが近くに来て、僕の名前を呼んだ。そろそろと手を下ろして、見上げたら・・・?!
「これか?チョコレートって」
「あ!それ?!」
カ、カズサの手に握られているのは!夢の中に出てきたチョコレートそっくりだった。
「たしか、板チョコ・・・」
「まぁ、そうだな。猫もそう言ってたわ。食うか?」
「「「・・・・ごくっ」」」
カズサが板チョコを、パキンパキンッと小さく割った。それを僕達3人の口にぽいぽい放り込んだ。
カズサが僕にチョコを・・・!!!・・・???!!!!
「「「にっが!!!(いです)?!!」」」
「くっははは!!」
カズサが水の入ったカップを皆に配った。カズサが声を上げて笑うのは、とても珍しい・・・。
「あ~・・・口ん中が苦い・・・」
「うう・・・水じゃ、苦みが取れませんね」
「くくっ・・・ほらよ。口開けろ」
カズサが蜂蜜を口の中に入れてくれた。甘い・・・顔をクシャっとして破顔してるの可愛い・・・。
「なあ・・・カエサルは顔が真っ赤だが、カズサの悪戯で喜んでるのか?」
「そうですね・・・口元を隠して・・・乙女のように・・・いえっ」
「あ~笑った。このチョコもどき、砂糖をたっぷり混ぜねえと、すげぇ苦いって猫が言っててよ」
目を細めて、意地悪そうに笑う顔も好きだよ。口の中が甘くて苦い・・・僕の気持ちみたいだ。
「カズサ・・・」
夢の中みたいに、僕の事好き?って聞く勇気は出ないけど・・・僕を見て笑ってくれるなら、いいや。
「ん?」
「ううん、何でもない!」
僕はニコッと笑って、残った水を飲みほした。
終わり。
「なあ・・・ユリウス」
「何ですか?」
「お前も、俺からチョコレート欲しいか?」
「な・・・??!」
「俺なら、すげえ甘いやつ食わせてやるけど?」
「け、けけ、けっこうです!!!」
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