魔法使いを探して・・・6
「?!カズサの気配がする!!」
カズサが行きつけの古書店を出た途端、カエサルが叫んだ。
「「どこ(だ)ですか?!」」
「廃屋!・・・そこからまた移動してる!」
そう言って止める間もなく、カエサルは走り出した。
「ちょ、待てって!」
俺達も慌てて追いかけるが、勇者の身体能力が半端ねえ。ユリウスの手を掴んで、見失わないように必死で追いかけた。
こっちは屋台が並ぶ区画か?・・・カズサの奴、普通に移動してねぇな?移動距離がおかしいだろうが!
「くっ・・・また方向を変えたか?!あっちは正門の方か」
「王都を出て、何処かに行くつもりでしょうか?・・・はあ・・・」
ユリウスがへばってきた。・・・カエサルが捕まえてくれるだろう。おじちゃんも疲れたわ。
「カズサ!!捕まえ・・・た!!」
正門付近の目立たねぇ場所に転移したつもりだったが、思いがけず俺に飛びついてきた奴がいた。
「痛ってぇな!どこのバカ野郎だ?って・・・カエサルかよ」
横っ腹が痛ぇ。俺にしがみ付いて、息を切らしているカエサルを見やると、涙目で睨んできた。
「ああ?」
睨まれる筋合いがねぇ。
「カズサ!何処に行ってたの?!ずっと探して・・・っ」
嗚咽を漏らしながら、俺をきつく抱きしめてくるカエサルが意味わからん。俺は眉を顰めて暫く我慢したが、
鬱陶しくなってカエサルを引き剝がした。
「ああ?お前に関係無いだろうが」
「お前~・・・はあはあ、それはないどろっ・・・痛」
「そう・・・ですよ!ごほっ・・・はあはあ、鬼!悪魔!!」
息も絶え絶えでやって来た、ガイウスとユリウスが俺を責める。ガイウスに至っては、舌を噛んで悶えてるわ。
「はぁ?追放しておいて探すとか、毎度毎度、意味わかんねぇわ」
「カズサ・・・」
「カエサル様、今回は私に言わせてください!!我慢できません!カズサ、貴方は何か重要な事を忘れていませんか?!」
「ああん?・・・あ、洗濯もん溜まってんの忘れてたわ。教えてくれて、礼は言わねえぞ」
「礼を言いなさいよ?!そうじゃありません!緑生の季節といえば、カエサル様のお誕生日じゃありませんか!!」
「あ~?・・・おめでとさん?」
カエサルの方を見ると、顔を赤くして俯いている。
「それでだな、カエサルの誕生日がちょうど休息日と重なってな、皆でお祝いしようと思ってたんだが・・・」
「貴・方・は!自室に籠って出て来なかったでしょう!それで・・・カエサル様がどんなに悲しんだか、わかりますか?!」
「・・・・」
正直、わかんねぇわ。男の誕生日を祝うのに、本を読む時間を削れるわけがねぇ。
「・・・で、俺にどうしろってんだ?慰めろってか?」
ユリウスを睨みつけると、怯えてガイウスの後ろに隠れやがった。ガイウスは困った顔で、カエサルを見ている。
「ごめん・・・カズサがこの世の何よりも、読書が好きだってわかってる。それでも・・・僕の誕生日の事を、覚えていてくれたら嬉しいなって、勝手に期待しちゃった僕が悪いんだ。その反動で怒っちゃって・・・もう呆れちゃってるかもしれないけど、もう一度僕にチャンスを下さい」
そこまで言ったカエサルが、俺の手を強く握った。
「僕のパーティに戻って来て欲しい。カズサがいなくなっていた間、僕達は依頼を受けていないんだ。その損失はカズサにも責任があると思う。責任を取って、戻って一緒に頑張って欲しい」
「「「・・・・・・・・」」」
カエサルの主張に、俺は思いっきり眉を顰めた。ガイウスは口をポカンと開けているし、ユリウスでさえも絶句している。
今のって、何かおかしくねぇ?俺は追放されて、勝手に探されて、その損失を働いて返せと?
「おい・・・」
低くなった俺の声を遮って、ガイウスが詰め寄る。
「カズサ!わかる、気持ちはわかるぞ?!だけどここは・・・飲み込んでくれ!」
「はぁ?!」
「か、カエサル様・・・」
ユリウスが青い顔でオロオロとしている。さすがのカエサル信者も、おかしいと思ってんだろうが?!
『カズサ・・・お前、“北方の魔術師”と一緒に居たんだろう?』
ガイウスが俺の耳元で囁いた。ぎろりと睨みつけると、目を逸らさずに聞いてくる。
『俺達の力が必要だったりしないか?』
「・・・」
何処で掴んだ情報か知らねぇが、伊達に年食ってねぇな。カエサルのとこに戻るのは、正直面白くねえが・・・
『おっさんの情報元に、今度会わせろよ』
『・・・わかった。その代わり、カエサルに誕生日のケイクを焼いてやれ。2つな』
何で2つなんだよ?俺の方が損してるじゃねえか。睨み合う俺達を、カエサルが見つめている。
『か、カズサ!・・・教会関係者しか読むことができない、“真言の書”をお見せします!た、他言無用ですよ?!』
ユリウスが、俺とガイウスの間に入ってきた。教会に興味は無ぇが・・・本は本だ。読みたく無いわけがねぇ。
「・・・・・・カエサル、もう次は無ぇぞ」
「う、うん!」
「は~・・・たくっ」
頬を染めて喜ぶカエサルを、ユリウスがニコニコと見つめている。俺はこれから、地方に本を探しに行く予定だったのによ・・・門の方を未練がましく見る俺を、三人が拠点に引っ張っていった。
後日、俺はカエサルに誕生日用のケイクを焼いてやった。泣いて喜ぶカエサルを囲んで、誕生日会のやり直しだとよ。ちっ・・・ガキかよ。20歳になったって、カエサルの中身が育ってるとは思えなかった。
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シュウ・シュウカに情報の対価を持ってきた。
「情報は役立った。約束のものだ・・・」
シュウ・シュウカが望んだものを用意したが、なぜこれなのか。
「ああ、美味しそうだねぇ。魔法使いが作るお菓子は絶品だって言うじゃないか。一度食べて見たかったんだよ」
侍従が切り分けたケイクを美味そうに頬張っている姿を、何とも言えない顔で眺めた。
「美味いか?」
「ああ、美味い」
「・・・カズサがお前に興味を持った。会うか?」
「美味い菓子を持ってくるなら、会おう」
「・・・伝えよう」
俺がシュウ・シュウカに会えるようになるまで、かなりの時間を要したが・・・カズサの菓子は凄いな。
魔法使いの作る菓子は、魔法の味がするのかもしれん。
魔法使いを探して・・・終わり。
今回、カエサルの良い様に、珍しくカズサが怒りました。カエサルはカズサを引き留めることに必死で、強引すぎた事に気づいていません。
益々、友達になれなくなっていく、不憫な子です^^;
シズクにまた逢えたら良いなと思いつつ、今回のお話はここで終わります。
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