魔法使いを探して・・・5
テーブルの端に寄せた本を取って、パラパラと捲る。
「“北方の魔術師”ってお前の一族か」
「・・・うん」
「魔物の発生数が増えてんのと、見た事ねぇ変異種が出てくんのは、お前の仕業か?」
「半分は・・・僕のせい」
「うん?」
「僕が考えた術式を使って、北の国が魔物を増やしてるんだ」
「へぇ、魔物の発生源は不規則だろ?どうやってる?」
「捕まえた魔物に術式を刻んで、強制的に量産させているんだ。変異種は合成体を作る前段階の、試作品だよ」
倫理的にはあれだが、興味深い事やってんな。魔術は膨大な知識の蒐集と研鑽の積み重ねだ。感覚で理解する魔法使いと違って、人生の多くを研究に注ぐんだろう。ガキのくせに、さすが魔術師一族の末裔ってか。
「北方の奴らは何がしたい?戦争か?」
「・・・うん。強力な魔物を作り出して、各国にいる勇者の力を削ぐこと。それから、戦争を始めるんだと思う」
なるほどな。北方の国は氷に閉ざされいて土地が少ないから、資源が少ない。唯一勇者がいない国だし、他国への劣等感から侵略に走ったのか。
「それで、お前はどうして此処にいるんだ?」
「僕は・・・あの国の考えには、賛同できない。でも・・・止めることもできない。ただ、逃げるしか出来なくて・・・」
震えながら、俯いたシズクの目から、ぽろぽろと涙が落ちていく。
「そうか。わかったわ」
「・・・それだけ?」
「何が?」
「僕が、魔物を増やしてたんだよ?・・・勇者の仲間のカズサは・・・僕を倒さないの?」
「倒されたいのか?」
「・・・・っ」
俯いたままのシズクの顔を掴んで、上を向かせた。あ~あ。ぐちゃぐちゃで、汚ねぇ顔しやがって。
「死にたくなったら、言え。死にたくねぇなら、俺に面白い本と茶を出せや」
シズクの顔がくしゃりと歪んだ。涙が止めどなく溢れて落ちる。
「う・・くっ・・・い、生きていたい・・・」
「擦るな」
滅茶苦茶に顔を擦って涙を拭うガキに、水で冷やした布を作って渡してやる。腫れる前に冷やせ。
「じゃあ、俺は帰るからな」
「・・・帰るって、何処にさ?」
「王都」
「・・・ずっと居ても、良いんだよ?」
「ああ?ここの本は読み終わったから、帰るわ。とりあえず、地方の町の古書店でも巡るつもりだ」
「うそ!読み終わったって?何時、読んだのさ?!」
まだ少し赤い目を見開いて、ガキが騒いで煩ぇ。何時って、寝る時間を削って読んだに決まってる。それに・・・
「俺、速読と速記の魔法使えっから。面白そうな本、複製させて貰ったわ」
鞄の中から分厚い紙の束を出して見せると、ガキがぶるぶると震えていた。
「ず、ずるい!僕は此処の本を読み終わるのに、何年もかかったのに!!」
「知らねぇよ。服を引っ張るな!・・・ちっ特別に、術式教えてやるよ。写せ」
「良いの?!わ・・・ちょっと待って!!」
手をかざして、速読と速記の魔法陣を投影してやる。俺はソファに寝転んで、焼き菓子を頬張った。
「描き移したら、ちゃんと俺を王都に送れよ?てか、転移陣見せろ」
「え~~~?!」
ガキが渋々見せた、転移の術式を速記で描き移す。何それ、ずるい!と喚くガキを鼻で笑ってやる。
「悔しかったら、早く描き移して使えるようになれ?」
怒るガキを眺めながら、こいつは天才じゃねぇの?と思う。見せられた転移陣は、異空間を繋ぐものだった。普通の転移は出来るが、異空間にまでは俺の知識も技量も到達してなかったからな。
「・・・」
「痛っなに?!」
「ふぁんでもねぇ」
焼き菓子をもう一つ頬張りながら、ガキの頬を摘まんで引っ張ってやる。生意気な奴だわ。
シズクの所で食べる焼き菓子には、ハーブが使われていたり、ドライフルーツなどが入っていて、美味しいです。カズサは結構気に入っていて、お土産に貰っていきました。
「おい、焼き菓子と赤い茶、それから北方で採れる薬草を寄こせ」
「いや、お土産強請る口調じゃないよね?!強盗かなんかなの?!」
「人聞きの悪い口は、これか?」
「いひゃい、いひゃい~!!」
シズクは泣きながらお土産を用意したが、カズサが自分が作った焼き菓子を気に入ってくれて、ちょっと嬉しかった。
ブックマーク、評価ありがとうございます!嬉しいです^^魔法使いを探して、次回で終わります!