魔法使いを探して・・・4
お父さんの作り出すものが、僕も弟も大好きだった。ペンを握る手が規則的に動いて、紙の上に術式が刻まれる。
魔術師は膨大な知識の吸収と理論の構築、計算に途方もない時間を掛けなくちゃいけない。
お父さんは静かに微笑みながら、嫌な顔もしないでお仕事を頑張っていた。それなのに・・・
「役立たずの魔術師が!使えない者は消えてしまえ!」
王様が怒り出したら、沢山の兵隊が押し寄せて来て・・・僕たちの家族を、殺してしまったんだ・・・。
「・・・っ?!!!」
ソファで居眠りしていたガキが、酷くうなされている。汗だくの青白い顔で、決壊したみてえに泣き止まねぇ。
「ちっ・・・」
夢見が悪い奴は、起こしてやればいい。ガキの顔を覗き込んで、頬を軽く叩いた。
「?・・・папа!!」
シズクの伸ばされた手が、俺の手に縋りついてくる。北方の言葉で、何度も呼んでいるのは・・・
「・・・誰が“お父さん”だ」
俺はそんな年じゃねぇ。聞えよがしに溜息を吐いても起きやしねぇから、しがみ付いて離れねぇガキを抱き上げて、ベッドに寝かしてやる。ああ・・・面倒くせぇ。俺の腕が捕まっちまってるから、本が読めねぇだろうが。
・・・今夜はこのまま寝るしかねぇな。
少しは落ち着いたのか、呑気な寝顔になったガキの頭をぐしゃぐしゃと掻き回して、俺は目を閉じた。
「~~~~っ?!・・・か、カズサ?!」
耳元で騒ぐ奴のせいで、眠りから無理やり覚まされた。煩せぇ・・・俺はふわふわの毛玉を抱きしめて、もう一度眠りに沈む。毛玉がもぞもぞ動いて、鼻がくすぐってぇ。動くな、お前も眠れ・・・毛玉を宥めるように撫でまわした・・・。
あ~温い。
「ふあ~・・・」
欠伸を吐き出しながら、目尻に浮かんだ涙を拭う。最初に視界に飛び込んできたのは、金色の毛玉。
ふわふわとした毛が、小刻みに震えている。どうした毛玉・・・?毛玉を両手で掴んで持ち上げると、その下にガキの顔が付いていた。
「うお?!」
吃驚して、ベッドの向こうに放り投げた。ガキがコロコロと転がっていく。
「ちょ?!ひどっ酷くない?!僕の事、抱きしめて寝てたの・・・そっちでしょ?!」
顔を真っ赤にして怒る、ガキの声が煩せぇ。
「あぁ?・・・?」
「ちょ?!二度寝禁止!!もうお昼過ぎなんですけど?!」
「・・・マジか。どうりで腹減ってるわ」
俺はのそのそとベッドから下りて、服を着替える。あ~そろそろ洗濯しねぇとな。ガキが後ろで、わ~わ~騒いでるが、知らね。鞄の中を漁っている指が、瓶に触れた。・・・俺お手製の回復薬だな。
「これ、時間経っちまったけど。俺が廃屋で怪我させた奴にやっといて」
瓶をガキに放って渡す。シズクの肩がビクッと強張った。薬の瓶を両手で握って俯く。
「あの時はごめん・・・僕・・・」
「何を謝ってんのか知らねぇが、腹減ったわ。飯食うぞ」
鞄からサンドパンと果物を幾つか取り出して、隣の部屋に向かう。テーブルの上の読みかけの本を端に寄せて、食い物を並べた。
「あ、その本・・・?!」
「これか?食ったら話すか。茶を淹れてくれ」
「う、うん・・・」
ガキが淹れた甘い茶を飲みながら、サンドパンに齧りつく。燻製した朝迎鳥の肉に黒コショウ多め。葉野菜とカードも入っている。果物は西方で採れる黄色いペシェル。掌を滴る汁を舐め取ると、赤面したガキが濡れた布を渡してきた。
ガキが食い終わるのを待って、単刀直入に聞く。
「で?何で俺を呼んだんだ?」
「・・・一度、カズサに会って話してみたかったんだ」
「会いたかったから、カエサルに術紙を渡したのか?」
「うん・・・勇者に会ったのは、本当に偶然なんだけどね」
「あいつ、たまに方向音痴になるからな。廃屋で仕掛けてきた奴は何だ?顔に貼ってた紙、見せろ」
「・・・」
ガキが差し出した術紙を手に取って、見入る。魔法は術式を構築して完成したら、魂に刻むから何度でも使えるようになる。魔術師は魔法使い程魔力が高くないから、それが出来ない。術式をいちいち媒体に書き込んで、ストックする必要があるんだよな。大変な作業だわ、俺には無理。
「面白い構成だな。自由に動かせるが、自我は殺さないのか。身体能力強化と・・・何だ?」
「帰巣本能強化。死なない限り、ここに戻って来られるようにしてる」
「ほぅ?意識が無くても、体が勝手に動くのか?屍人みたいで面白ぇ」
「も~!言い方!」
「最後まで見捨てねぇってか。随分お優しい、飼い主様だな?」
シズクがムッとしたように、睨んでくる。俺の言い方が気に食わないらしい。
「別に飼ってない。あの廃屋でしか暮らせない、帰る場所が無い人と契約してるだけ。いつでも、抜けて良い」
ガキが。そう言いながら、寂しそうな顔で笑ってんじゃねぇよ。
ペシェル=洋ナシ。朝迎鳥=鶏。食べ物の名前考えるの苦手です。
「何で俺に会いたかったんだ?」
「魔法使いの友達が欲しくて・・・」
「毛玉~!!」
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