魔法使いを探して・・・3
「いや、マジで。この部屋最高だな。帰りたくねぇ」
本棚には読んだことが無い本が沢山あるし、内装はまぁ慣れりゃ平気だ。飯は鞄に作り置きが入ってる。
風呂も便所もあるし、何より薬品を作るための部屋が隣室だ。最高だろうが。
「も~!そう言いながら、10日めだよ?大丈夫なの・・・心配されてないの?」
「ああ?誰も心配してねぇよ。俺はパーティーを追放されたからな」
「え?!何したのさ!」
「何もしてねぇよ。良くあんだよ、今回で出戻って追放4回目。笑うべ」
目の前で俺が作ったバナムケイクを頬張ってるガキ(この部屋の家主な)・・・シズク・シグレイが、疑うような眼差しでおれを見ている。バナムケイクの皿を取り上げたら、半泣きになった。面白ぇ。
「だってか・・・カズサはっ勇者パーティーの魔法使いでしょ?この世界で魔法使いって希少じゃん!よっぽどの罪が無かったら、追放なんかされるわけないよ?!」
「あ~・・・なんだ。勇者が同郷の幼馴染?なんだよな。だから毎回、どうでも良い理由で追放されてるわ」
カエサルが俺を追放する理由は、何度聞いても理解できねぇ。許してって、最後に謝ってくんだけど・・・許しようがねぇんだよな。
「そうなんだ・・・じゃあ、カズサは勇者パーティーを・・・恨んでるの?」
「別に?俺は元々、勇者のお供で王都に出てきたからな。もう4年も付き合えば、自由になっても良いだろ」
「・・・寂しくないの?」
寂しい?無ぇな。生まれてから一度も、思ったこと無ぇんじゃね?
「今は、お前んとこで楽しいからな。他はどうでも良いわ」
「・・・・」
急に黙ったガキを見れは、何故か真っ赤になって俯いてやがる。
「腹が痛ぇなら、便所に行けよ?」
「違う!もう!デリカシー無さ男!!」
「ガキ相手に、んなもん必要ねえだろ」
ケタケタと笑う俺を見て、直ぐにシズクも笑った。
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廃屋に着いた俺達は、しらみ潰しに建物を全て調べたが、何の痕跡も見つけられなかった。
「カズサがここで消えたとして、追跡は可能か?」
「わからない・・・こんなことは初めてで・・・」
「カエサル様・・・」
「痕跡がここに無いなら、他も当たるぞ!カエサルとユリウスは、商店通りとかカズサが良く行く場所を探してくれ。俺は、情報屋に当たってみるから」
「わかりました。行きましょう、カエサル様!」
唇をきつく噛みしめて、俯くカエサルをユリウスが促す。カエサルの面倒はユリウスに任せて、俺は俺のできることをやりに行こう。
「今日は私達と遊んで行かないの?」
花街の女達が擦り寄ってきて誘うが、今日はそれどころではない。
「また今度な。・・・シュウ・シュウカはいるか?」
妓夫に袖の下を握らせ、後をついて奥座敷に向かった。
「ガイウスか、久しいな。どんな情報が欲しいんだ?」
奥座敷でゆったりと煙草を燻らす声の主は、見た目はまだ幼さの残る美しい娘だ。だが纏う空気は手練れの暗殺者のようで油断はできない。声が少し低く、落ち着いている・・・本当の性別は女じゃないかもな。
「・・・うちの魔法使いが消えた。居場所が知りたい」
「魔法使いカズサか?今は勇者の手から、離れているのだろう?」
「カズサが追放されてるって、知ってるんだな。カエサルが騒ぐだけで、正式に分かれたわけじゃない」
ちょっと無理はあるが、どうせ連れ戻すつもりだった。完全な嘘じゃない。
「情報はあるか?」
「近頃、北方の国で王族が魔物に食い殺されたって話、聞いたことがあるかい?」
「いや、ないが・・・その話はカズサと関係があるのか?」
「まあ、聞きなよ。北方の宮廷魔術師が王の不況をかって、一族皆殺しにされた事があってね」
そこで一度、深く吸った煙草の煙をふぅと吐き出した。
「その生き残りが、復讐のために魔物を操って、王城に嗾けたって話だよ」
「・・・それで?」
「その生き残りの一人が、この王都に居るらしくてね。根城はどんなに探しても見つからないし、後をつけても煙が掻き消えるように居なくなっちまう」
「?!・・・何処に行けば、会える?」
「そうさねぇ・・・」
始終微笑んで話すシュウ・シュウカの目に、チラチラと欲の炎が揺れて見えた。
「対価は何を払えるんだい?」
「・・・望むものを、できるだけ用意する」
「ククッ・・・そう構えるなよ。俺がのぞむのは・・・」
コロコロと鈴を転がすような話し方を取り払い、地を這うような低い声が俺に告げたものは、意外なものだった。
「・・・わかった。必ず用意する」
「毎度あり」と上機嫌な声に見送られ、俺はカエサル達と合流するために、商店通りを目がけて走った。
か行とサ行が多いですね・・・。
必死に探されてるとはつゆ知らず、読書漬けで幸せなカズサです。
ブックマーク、評価ありがとうございます!嬉しいです^^