魔法使いを探して・・・2
「・・・・??!!」
カチャンッと聖剣が地に落ちて、ぶつかった石が硬質な音をたてた。
「カエサル、どうした?」
自身の手を見つめ、青褪めた顔で固まっているカエサルに、ガイウスが声を掛けた。
今は拠点の裏庭での戦闘訓練中だ。カエサルが剣を握って、集中力を欠くことは珍しい。
「い・・ま・・・カズサが・・・カズサの気配が、完全に消えた・・・!!!」
泣き出したいのを我慢するように歪んだ顔で、カエサルが叫んだ。体がガタガタと震えている。
「落ち着けって・・・カズサが消えたって、何でわかる?」
お前ら気配とか読めたのか?俺の呟きに、ユリウスが腕をバシバシと叩いてくる。
「カエサル様、そう思った根拠をお聞かせ下さい!まさか・・・聖剣が教えてくれたのですか?!」
「夢見過ぎだろう・・・いてっ」
「ちがう・・・だって、だって僕は・・・っカエサルがこの街の何処にいても、見つけられる自信があるんだ!!」
「「・・・・・・・・・」」
「街って・・・王都全域か?」
俺の疑問に、カエサルが深く頷いて肯定した。おまっ・・・どんだけの執着だよ?!勇者の力を私欲に使い過ぎだろ!
「す、すごい・・・ある意味・・・コホンッ」
ユリウスが何を言いかけたのかが気になるが、今はそんな場合じゃねえな。
「その・・・カズサの気配が、最後に消えた場所はわかるか?」
「うん・・・廃屋の・・・前に僕が、占いの館を見つけた所」
「わかった、準備しろ。直ぐに出るぞ!」
俺達は装備を整え、廃屋の通りへ向かった。カズサ・・・見つけたら、みっちり説教だな。
************
「・・・・・・」
赤色の毛足の長い絨毯の上に、禁忌魔法の残り火がチリチリと揺れている。あの廃屋の魔法陣から転移したカズサは、何ともド派手な部屋の中央に立っていた。部屋の中に目を向けると、壁に取り付けの本棚があり、見たところ魔法書、魔術書関連の本がびっしりと詰まっている。設えられた家具は貴族が好みそうな高級品だ。
「・・・全体的に、赤ぇ」
天井から吊るされたシャンデリアは、魔法・・・いや、魔術か?異様にキラキラして、光の粒が降ってくる。
「そんでもって、木の箱な?」
俺から見て正面に“占いの館”って書いた木の箱が置いてあんだよな。表に布が掛けてあって、奥が見えねぇ。
「・・・箱って言うな」
布の奥から声がして、ビシィッと手刀が空を切る。
「はぁ~」
俺は本棚の方に歩いて行って、背表紙を眺める。良い趣味してるわ。
「ちょっ・・・勝手に動くな」
「これ見て良いか?“一番醜い悪魔辞典”」
「?!それに目を付けるとは、お目が高い!!じゃなくてぇ!」
「だめか?」
「いや、いいけど・・・」
良いんかい。俺は本を掴むと、木の箱の裏側に回ってソファにドカッと腰かけた。
「ちょ!こっち側に来たら駄目でしょ?!」
「何でだよ?」
まあな・・・裏側に回ったら、布が無ぇから丸見えだよな。俺は目線を“一番醜い悪魔辞典”に落として、読み始めた。
「ねえっ・・・ちょっと?!聞いてる?ねぇってば!」
「煩ぇ。ちょっと待て」
「・・・ねぇ、まだ?」
「待てができねぇ犬は、駄犬だ」
「いや!僕、犬じゃないし?!」
「・・・・・ねえってば!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・ねえ、お茶飲む?」
「ん」
最後のページを読み終わり、本をパタンと閉じたタイミングで茶が出てきた。
「はい。熱いから気をつけてね?・・・じゃなくってぇ!!」
「美味ぇ」
ズズッと茶を啜る。少し濁った琥珀色が、シャンデリアの光でキラキラしている。
「紅い茶にショウガと蜂蜜・・・レモネも入ってるか?」
「正解。僕の国でよく飲まれてるレシピで・・・」
「レシピくれ」
顔を上げて見れば、急に目線が合って吃驚したのか、目ん玉ひん剥いてるガキがいた。
白に近いふわふわの金髪、薄い緑のキラキラと光る瞳。角度によっては金が混ざって見える、不思議な色だ。
ジロジロと見られて落ち着かないのか、目が泳いでいる。薄紫の・・・何だっけな?
「お前が羽織ってる、ひらひらの名前なんだっけ?」
「あ・・・?ポンチョだけど・・・?」
ポンチョな。半ズボン履いてっから、男だな。ズズッと茶を飲み切る。
「もう一杯くれ」
「う・・うん。どうぞ・・・?」
本棚をチラリと見る。2杯目のお茶には、本が必要だ。保温の魔法を掛けておこう。
「この本、面白かったわ。俺は最後のぺージの奴が気に入った」
「!ぼ、僕は・・・34ページの黒い傘型のが好き」
「あれな。他に面白い本あったら、読ませてくれ」
「ん・・・持ってくる」
ガキに読んだ本を渡すと、本棚に向かって何冊か選んで来た。
「これ、最近読んで面白かった。”魔法と魔術の禁術のズレ”」
「おう」
凄ぇそそる。それから俺は、時間を忘れて読書に溺れていった・・・。
「も~!!ちゃんと、ご飯食べなよね?!徹夜で本読むのも禁止!!」
「ああ?煩ぇ。お前は俺のおかんか」
「おかんって、何?」
「母親」
「僕、お母さんいないから・・・わかんないよ」
「あ?俺もいねぇけど?」
「・・・後で、ちゃんと寝てるか見に来るからね?」
「了」
も~も~言いながら、ガキが部屋を出て行く。構いたがり屋かよ。
「まぁ、たまには悪くねぇ」
俺はガキが置いて行った焼き菓子を齧りながら、本の続きに目線を落とした。
口の中に葉野菜と薬草の苦み。燻し肉の甘み・・・後でレシピを貰おう。
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