ガイウスの渇望・・・逡巡する聖職者。
「・・・・そういうのは、誰も見てねぇとこでやれよ」
「・・・良いところだったんだが・・・邪魔してくれるなよ」
眉間に深く皺を刻みながら、呆れて遠い目をするという器用な顔で、カズサは茶を淹れて寄こした。
受け取って、熱い茶をグッと呷る。酔って火照ったユリウスの顔が・・・可愛すぎた。
「この年になっても、自制が利かんとは・・・」
「ああ?我慢なんて、するだけ無駄だろうが。おっさんも、あいつも。やりたいように、やりゃ良いんだよ」
皆がやりたいようにやっていたら、大変な世界になる・・・はあ。うちの魔法使いは自由過ぎるんだよな。
テーブルの上を片づけ、二階の自室に上がる。瞼の裏にはユリウスがいて・・・暫くは眠れそうにない。
まだ空が白い、早朝の時間に玄関を出て行く音がする。あれは・・・カズサだな。
冒険者家業を長年やっていれば、嫌でも気配を読むのが上手くなる。今のパーティーの奴らは、誰一人として気配を消さないからな・・・余計にわかりやすい。
俺の部屋の左隣はユリウスの部屋だ。気配が動いている・・・俺は起き上がって、窓を開けた。同時に隣の部屋でも窓が開く音がした。
「あ・・・っ」
「おはようさん」
「お、おはようございます・・・」
ユリウスは俺に気づいて目を見開いてから・・・泳がせて、逸らせた。手を伸ばせば、届く距離だ。
「あ、あの・・・っ昨日は先に寝てしまって、すみませんっ・・・酔ってしまったみたいで・・・あまり覚えて無くてですね・・・」
そうか・・・無かったことにしたいのか・・・。
「ああ、気にすんな。討伐後で疲れていたもんな?俺も珍しく酔ってたのか、覚えて無いわ」
ニッて笑って、俺は嘘をついた。・・・ずるい奴だ。お前が先に嘘をついたくせに、泣きそうな顔すんな。
手を伸ばして、ユリウスの頭を少し乱暴に掻き回した。黒く艶やかな髪が、白い顔に降り掛かる。
「ちょっ・・・?!」
「ふっ」
ひらひらと手を振って、俺は部屋に戻った。冷たいシャワーを浴びて・・・少し頭を冷やそう。
カズサの作った朝食をたいらげて、黒い茶を飲む。最近メンバー内で好んで飲まれる、南国産の苦い茶だ。俺は黒い茶に砂糖を3つ入れる。ユリウスとカエサルは、黒い茶にミルクルと砂糖2つ。カズサは黒い茶をそのまんま飲んでるな。すげえ苦いのに、良く飲めるな・・・。
「ん」
ユリウスの茶に、ミルクルと砂糖を2つ入れてやる。ついでにカエサルにも、入れてやった。
「あ、ありがとうございます!」
「ん」
ズズ・・・と茶を飲みながら返事をする。今日と明日は休息日だ。大盾と剣の手入れをして・・・まだ時間は余るな。まあ、外に出てから考えれば良い。
「今日は皆、どうやって過ごすの?」
カエサルが皆と言っているが、カズサを気にしながら聞いている。カズサは食器を洗っていて、聞こえていないようだ。パッパッと手についた水を振った後、茶と菓子を持って転移してしまった。たぶん、自室で本を読んで過ごすんだろう。
「あ!私は教会に行って、少し祈ってきます・・・」
「あ~・・・俺は武器の手入れと・・・ちょっと花街に行ってくるわ」
ポリポリと頭を掻きながら言うと、ユリウスがバッと顔を上げて俺を見た。俺は目を合わさない。
「そうか~僕は・・・部屋でのんびりしながら、考えようかな」
カズサと遊びたかったんだろうが、あれは止められないわな。ユリウスと一緒にカエサルを慰めてから、俺は自室に戻った。大盾と剣を背負って、職人通りに向かう。
「随分やられたな、昨日の討伐でか?」
「ああ、数が多くてな。どのくらいかかる?」
「今日一日貰えれば、明日の午後には渡せる。剣も磨いておくわ」
馴染みの鍛冶職人に大盾と剣を預ける。俺の戦闘スタイルは攻守ともに大盾だが、時には剣も振るう。
さて、これからどう過ごすか・・・。職人通りの横が花街だ。久しぶりに女を抱くのも良いかもしれない・・・。
花街の方に足を向け歩いて行くと、道端に立つ客待ちの女達が話しかけてきた。
「あら、ガイウスじゃない。随分ご無沙汰だったわね?」
「ああ、子守が忙しくてな」
「ふふ、若い勇者たちの引率も大変ね?」
「まあ、年の割にはしっかりした奴らさ」
女達が俺の腕に抱き着いてきた。豊満な胸を押し付けて、俺を花街に誘う。
俺も女を覚えたてのガキじゃない、いい大人だ。胸の内に誰が居ようと、快楽は味わえる。
「お前とお前、一緒に来い」
女を選んで寝所に入った。酒を飲みながら女に触れて、細くしなやかな身体を貪る。
乱れて散らばる黒髪を見て・・・ああ、自分の顔を張り倒したくなった。
執着は毒だ・・・無意識で俺を操る。何処までも純粋で、清廉でありたいと願うユリウスを・・・
腹の奥底では、汚してやりたいと・・・俺の所まで墜としてやりたいと思っている。
「すまんな・・・今夜は、優しくしてやれねえ」
女達に謝るが、そんなことはわかっていると、艶やかに笑うだけだった。細い指に頬を撫でられて、ギュッと抱きしめる。そのまま・・・この汚れた性が吐き出し尽くすまで、彼女たちを抱き続けた・・・。
朝迎鳥がけたたましく鳴く頃、欠伸を噛み殺しながら門を潜った。まだ皆、眠っているだろう。
玄関に入り、キッチンの横を抜けて行こうとしたとき、小さく名前を呼ばれた。
「朝帰りですか・・・ガイウス」
「ん?」
振り返れば、キッチンのテーブルに両手を置いて俯く、ユリウスがいた。
「おはようさん。ユリウスは朝飯当番か?」
俺はわざと明るく声を掛けた。そんな目で見ても駄目だ・・・俺はもう、これ以上近づけない。
「一晩中、何処に・・・いえ、良いです。朝食は遅れずに降りてきて下さいね!寝過ごしたら残しませんよ?!」
「・・・ああ、楽しみにしているわ」
赤い顔を逸らして、ユリウスが言った。今すぐ抱きしめたくなる・・・俺は笑って、ユリウスの横を通り過ぎた。
ガイウスの渇望・・・逡巡する聖職者 終わり。
「ねえ・・・カズサ。ガイウスってユリウスの事・・・す、好きだよね?」(小声)
「ああ?知らね」
「で、でもさ・・・僕そういうの・・・けっこうわかる方だからさ!」
「ああ?チラチラ見ても、やんねぇぞ?」
「いや、そうじゃないよ。違うって!最後の一枚は、カズサが食べて良いから・・・ね?」
「なんだ?カエサル・・・俺のやろうか?」
「カエサル様、おかわりでしたら、まだ沢山ありますので!」
「いや、お腹は一杯なんだ!そうじゃなくて・・・」
「あん?俺に寄こせ。ん」
「カズサ、貴方は食べ過ぎですよ!もう少し・・・」
「ユリウス、俺にもおかわりくれ。お前の朝飯、最高な?嫁に来るか?」
「「~~~~~~~??!!!!」」
「・・・何でお前ら、顔赤くして震えてんだ?毒か?」
「あ・・・ある意味、毒かと・・・」
「あっそ、とりあえず飯くれ」
「あ、貴方ねええええ?!!!」
エンドレスで続きそうな、朝のひと時でした。
こんなつもりはなかったのに・・・ガイウスの、ちょびっと大人回でした。
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