勇者カエサルの憂鬱2
「この街で古書店は・・・3つあるな」
最初に大きめの店に行くか、小さめか?いや・・・ここは、中くらいのサイズの店が当たりとみた!!
商店通りから外れて貸家が並ぶ区画の奥、人通りがちょうど良いくらいの少なさだ。
「良い感じに年季の入った店構え。面白い本がありそうだな」
まだ昼過ぎだが、店内は薄暗い。古書特有の匂いはするが、埃はない。
ごちゃついてるように見えて、内容ごとに陳列されているのも好感が持てる。
本棚の迷路を歩いていると、背中に視線が突き刺さってきた。ん?振り向いた先には、笑顔の店主がいた。
「いらっしゃい、初めてのお客さんだね。探している本があるのかな?」
にこにこと人好きのするおっさんだ。弓なりの糸目の奥が、気になるとこだけどな。
「ああ、“禁じられた遊びについて調べてるんだ”けどさ。良い本あるかな?」
店主の糸目が片側だけすっと開いて、俺を見る。こ、怖えぇ。俺は目を逸らさずに、にこりと笑った。
「“フクロウから噂を聞いてやってきた”んだけど。“好物をあるだけ土産にしたい”んだよね」
司書から秘密の暗号を聞いてある。ここが禁書を扱う店なら、反応があるはずなんだけど・・・。
店主がこちらへどうぞと、店の奥の部屋に俺を誘った。
「くく・・・っ良い店見つけたぜ」
俺の勘は見事に当たり、禁書が3冊も買えた。
本当は初回は1冊しか買えないそうだが、俺お手製の魔法薬を渡したら、快く売ってくれた。
「本の管理は大変だからな。紙を傷めずに、消したい汚れだけ拭き取れる魔法薬だ。俺も使ってる」
「これはまた、すばらしい魔法薬ですね・・・頂いて良いんですか?」
俺と店主は良い笑顔で、固く握手をした。「またお越しください」という声に手を振って、店を出た。
「さて、今夜の寝床をどうするか・・・」
屋台に寄って、肉と野菜の串焼きを数本、甘い菓子とお茶の入った瓶を買っておく。ん~パンも欲しいな。
ちょっと考えて、宿屋に向かわずに街から出た。久しぶりに野宿するか。焚火で読書も好きなんだよな。
夕暮れの空に、白い三日月が見える。村を出てから3年目にして、やっと一人になれた。
街道の途中に旅人用の休憩場があるが、あえてそこから外れて、森の入り口に寝床を作った。
魔法で土をいじくり良い感じに盛った所に、濡れにくい敷物を敷けば、簡易ベッドの出来上がりだ。
「虫除けの香と、獣が嫌がる鈴と・・・ま、こんなもんかな」
結界を張れば安心なんだが、それだと野宿感が薄れてしまう。ちょっと危険なくらいが楽しいしな。
屋台で買った串焼きを食い終わったら、手をきれいに洗う。タレが紙に着いたら、ほんと泣きたくなるから。
甘い菓子とお茶を近くに置いて、背もたれを整える。焚火がはぜる音を聞きながら、買ったばかりの禁書を読み始めた。
「は~・・・読み切った。初めて見る魔法構築式が面白かったなぁ」
もう昼過ぎか?髭がちょっと伸びてる。顎を擦りながら立ち上がって、背筋をぐっと伸ばした。
せっかく禁書を手に入れられたから、今回は速読を使わずにじっくり読み込んだ。
「あ~・・・散らかってんなぁ」
禁書を読みながら無意識で、組み立てた魔法をぶっ放してたらしい。寝床の周りに魔物の死骸が散らばっていた。
魔物の死骸は焼いて土に埋めないと、匂いにつられてまた魔物が近寄ってきてしまう。
「打った魔法が火炎系だったか。良く焼けてるな・・・埋めるだけでいいか」
さっと死骸を土に埋め、盛り上がりを軽く均しておいた。うあ、パンがカチカチになってる。
パンを餌にして鳥を数羽、仕留めた。下処理をして、塩と黒コショウを振って焼く。美味い。
身支度を整えて、とりあえず隣村へ向けて歩き出した。